表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/29

14)暴走竜

本日は2話同時に投稿いたしました。こちらは1話目です。




 その夜。

 レナはユージンたちのテントが気になりながら寝袋に潜り込んでいた。

 御守りを渡せたし、結界が薄いことも知らせた。大丈夫だと思う。でも、どうしてあんなことになっていたんだろうか。

 同じテントの女性たちはまだ起きていた。剣の手入れや、お肌や髪の手入れをしている人もいる。

 レナが寝返りを打って目を開けると、隣で寝袋の上に座っている女性と目が合った。詠唱係のマレーネだった。本人は詠唱担当など嫌がっているが。

「早寝なのねぇ」

 マレーネが髪をとかしながらレナに微笑んだ。

「やることないんで、寝るのが一番かと」

「そりゃそうね。私も髪を切ってしまえば楽なんだけどな。くせ毛だから手入れしないと明くる朝、悲惨すぎるのよ」

「綺麗な巻き毛」

 レナは横になったまま、マレーネの綺麗な横顔と金の髪を見上げた。若葉を思わせる緑の瞳をしている。顔立ちは微笑むと可愛いが、黙っていると凜々しく美しい。

 素敵な女性だ、とレナは思う。

「ありがと。護衛の仕事のためよ。見栄えをちょっとでも良くしておくと仕事の再注文が少ーしだけ増えるわけ」

「元騎士なんですよね」

「そーよ」

「もったいなくなかったですか?」

「騎士団を抜けたこと? ぜんぜん! 自由になったわ。いろいろと腑に落ちないまま騎士の仕事なんかやってらんないわよ。忠誠を誓わないとならないのよ、騎士って。下半身がゆるめの主様のために命をかけるなんて偉いわよ~、騎士様は。尊敬しちゃう」

 マレーネのあけすけな言葉にレナは呆気にとられた。騎士が「主様」と言うからには、王族のことだろう。なるほど、騎士の立場であったなら、こんな発言もできない。

「アハハ。それ、褒めてないわよね」

 服を整理していた魔導士のライラが笑って会話に加わってきた。

「褒めてるわよ。国を支えてるんだもの、ね」

「そうよね」

 と頷いたところでレナは自分もほんの少々、王族だったことを思い出した。

 母が前王弟の孫だ。でも本当お話にならないくらい遠い王族だ。それで良いことがあったかというとむしろ迷惑をこうむっただけだ。

 王族の悪口に相づち打つくらいいいわ、と心中で頷く。

 そのうちに、そうだ、あのこと聞いてみようと思い付いた。

「ねぇ、マレーネ。この討伐隊に隣国の王子様が参加してるわよね」

 レナは寝袋に肘をついて頭を起こした。

「ああ、ユージン殿下ね」

「なぜ隣国の王族が来てるのかしら。余所の国の魔獣の討伐なんて」

「でしょ? 意味不明よね。協会隊隊長のフィーリスさんもわからないみたいよ」

 マレーネが頷く。

「騎士志望の殿下だからじゃないかって聞いたわよ。士官学校に通ってたんですって。狩りが趣味とか? 腕を磨くためかもね」

 ライラが身を乗り出した。

「一応、お礼が支払われるらしいけど。それ目当てじゃないわよね。あぁでも、隣国はちょっとヤバい状態だから、自衛のための腕磨きってあり得るのかしら」

 マレーネが眉間に皺を寄せて考え込んだ。

「ヤバい状態って、国王陛下が寝込んでいるから?」

 レナは、それくらいは協会の新聞で読んで知っていた。協会で読めるのは週に一度の頻度で発刊される薄っぺらいもので、大きな事件しか載っていなかった。

「そうよ。暗殺未遂でね」

 ライラがこともなげに答えた。

「暗殺? 病気とかじゃなかったの」

 レナは驚いてライラを振り返った。新聞にはそんなことまでは書いてなかった。

「マディーヌ王国にはね、毒鼬っていう毒をあつかう犯罪組織があるのよ。現国王は毒鼬を壊滅させようと頑張ってたの。それでやられたみたい」

 有名な話よ、とライラはレナに教えた。

「じゃ、じゃぁ、王子様も危なくない?」

 レナは王子のテントの結界が弱められていたことを思い出した。

「かもね。だから、余計に意味不明なわけ。危ない王子がわざわざ危ないところに来るなんてね。どさくさに紛れて暗殺者が毒矢でも射りそうじゃない?」

 マレーネの言葉にレナはコクコクと頷いた。

「なかなか格好いい王子様だけど、前途多難よねぇ。命がけで犯罪組織と闘った国王もいれば、うちの国みたいな国王もいるのよね」

 ライラがため息交じりに零し、

「そうそう」

 とマレーネは深く同意した。

「あの王子様、詠唱係の女の子と親しいわよね?」

 レナは会話に紛れ込ませるように尋ねた。

「詠唱係の女の子ぉ?」

 マレーネが首を傾げた。

「あぁ。もしかして、第四王子の愛人の子でしょ。私も見たわ。王子様と一緒のところ」

 テントの奥を陣取っている逞しい女狩人がごそごそと寝袋に身体を押し込みながら教えてくれた。

「第四王子の愛人って、うちの国の王子の?」

 レナが問い返す。

「第四王子っていったら超有名よ、王都の噂の的。さっき私が話した下半身ゆるゆるの王子様のことね」

 マレーネが頷く。

「そ、そんな王子様の愛人? 詠唱係の女の子が?」

「ええ、そう。第一王子様とも親しいって話」

 ライラは情報通らしい。

「えぇえ? 王子様ふたりと噂があるの」

「噂だからなんともいえないけど。王都では流行ってる噂よ。第一王子との噂はちょっとデマっぽいけど。第四王子とのほうは目撃者多数よ。店で一緒のところを見たって。それも複数回。あの第四王子と長らく一緒にいて深い関係にならないわけがないってさ」

「信憑性ありそうねぇ」

 マレーネが面白そうに笑う。有名人の噂は蜜の味だ。

「あの子、ちょっと有名なのよね。王都の貴族女性はみんな知ってる話よ。学園でもあからさまに複数の男性と仲が良いから。余計にそういう噂が広まってるのよ」

「そんな子が詠唱係なんだ。ちゃんと仕事できるのかしら」

 レナの後半の言葉は思わず呟いた独り言だった。


 明くる早朝。

 竜を倒す部隊が野営地の広場に集合した。

 レナはアシュを見送るために来ていた。

 マレーネは竜退治に行きたがっていたが、詠唱のお仕事があるために留守番だ。

 レナが「叔父を見送るわ」と言ったところ、マレーネが「暇だから私も!」と付いてきた。

 マレーネにアシュを紹介すると、なぜかマレーネが頬を赤らめた。マレーネは鍛えられては居るが細身で凜々しい。さすが元騎士と見惚れるような女性だ。

 そんなマレーネが乙女のような表情を見せている。

「ま、マレーネ・ビアンと申します。レナさんとは同じテントで親しくして貰ってます。どうぞよろしくお願いしますわ、アシュ様」

「アシュ様はよしてくれ。アシュで良いよ、アシュ・ランソルだ」

 アシュが手を差し出した。いつも素っ気ないアシュが珍しく愛想が良いのは、レナと親しくしていると紹介したからだろう。

 マレーネはさらに頬を赤らめ、おずおずとアシュの手を握った。

 レナは、そんなふたりを見て「ま、まさかのロマンス?」とひとり心中で身悶えた。

 アシュたちを見送ったあとマレーネが叫んだ。

「あーっ! もう、私も一緒に行きたかった」

「いやいや、私情を挟んじゃだめでしょ。竜退治は短期決戦で終わるっていう話だったし」

 レナは呆れながらマレーネを慰めた。

 現世で初めての恋バナの予感にちょっと楽しくなってしまった。


 斥候が見つけた灰雷竜の群れの場所は拠点から一時間ほど東に進んだ岩場にあった。

 斥候は遠眼鏡で確認していたが、実際に向かってみると足場が悪く一時間では着かなかった。

 攻撃魔法が届く距離まで近づく前に灰雷竜が人間たちに気付き、瞬く間に総出で襲いかかってきた。

「結界っ!」

 号令が飛び、魔導士たちは結界を張り、結界の魔導具も発動させた。

 竜たちは凄まじい勢いで雷を落とし始めた。

 まるで天空のあらゆるところから雷雲が集められたかのようだ。

 ドンドン、バリバリと、とんでもない雷撃の嵐で、反撃どころの騒ぎではない。

 そのとき、協会隊から、鋭い炎撃が放たれた。

 協会隊長のフィーリスだった。

 ゴゥっと、炎の固まりが灰雷竜に放たれ、ズドンっと竜が落ちてきた。

「よっし、反撃っ!」

 協会隊に負けじと騎士団からも強弓や炎撃が放たれ、落ちてきた竜がのたうち、断末魔の竜にさらに落とされた竜が激突した。

 竜にとっては阿鼻叫喚の有様となった。

 暴走竜の異名の通り、竜たちは逃げもせずにひたすら向かってくる。

 その竜の群れにありったけの強弓と炎撃が打ち込まれた。竜はみるみる数が減り、人間側に余裕ができてくると嬲り殺しの様相を呈してきた。

 灰色の竜たちがすべて地面に倒れ伏すまで討伐隊は攻撃をし続けた。


 竜の討伐は、予定通り短期決戦で終わった。

 午前中の早い時刻には殲滅し終えていた。

 討伐隊は後始末を終えると速やかに帰還した。

 疲れてはいたが、こちらの被害は負傷者が出ただけで死んだ者は居なかった。大成功だろう。結界の魔導具が潤沢にあったおかげだ。

 帰りは途中に短い休憩を挟んで、昼を過ぎたくらいには拠点に戻れた。


 留守を守っていた騎士や傭兵たちが昼食を作っていたので、休憩ののちすぐに食事となった。

 大鍋で煮込みが作られ、今回は協会隊と騎士団と混じりながらそれぞれ煮込みの椀を手に座った。

 ユージンは少し離れた丸太のベンチにレナの姿を見つけた。男性と並んで座っている。魔導士らしいその男性は、焦げ茶の髪に灰色がかった水色の目で端正な顔をしていた。

「あれがレナ嬢の叔父上か。あまり似てないのだな」

 ユージンはじっとレナを見詰めた。

「そんなに見詰めると不審者だと思われますよ」

 アロイスが隣で呆れた。

 悠長にしている時間などないので、護衛のアロイスも一緒に食べていた。

「そんなに見詰めてはいない」

 ユージンが慌てて目を逸らす。

「いや、充分に見詰めてましたから」

「礼をしたいだけだ。だが、私の事情もあるし。どうしたものか」

「どうしちゃったんですか、ホントに、殿下。おかしいですよ。親しい人間は作りたくないんですよね?」

「遠くから想うくらい、いいだろ」

「うわ、健気ですね。アリサ嬢はもういいんですね?」

「ああ。もう、わかった。どうかしていた」

「それは僥倖ですけどね。今度はレナ嬢ですか」

「心の綺麗な女性だと思う」

 アリサのことがあったばかりなので気まずいが、ユージンは恥を捨てて打ち明けた。だいたいアロイスには何でもばれる。もう今更だ。

「今まで女も男も興味なかったのに」

「男には今も昔も興味はない。レナ嬢は姿も綺麗だが、雰囲気が良い。御守りをくれるような気持ちの優しさとか」

「そういえば殿下は、親類から女性を薦められても雰囲気が好かないとか言って断ってましたね」

 実際の断りの理由は「今はそういう余裕はない」などと言い繕っていたが、本音は「雰囲気が好かない」という薄ぼんやりした理由だった。いつもそうなので、アロイスは聞き飽きていた。

「雰囲気というか、印象というか。そういうのは大事だろ」

「レナ嬢は話した感じでも、とても良いご令嬢でしたがね」

「お前、うらやましがらせるためにわざと言ってるだろ」

「こじれ過ぎですよ」

 アロイスは呆れを通り越して疲れてきた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ