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13)不穏な野営地

本日は2話同時に投稿いたしました。こちらは1話目です。








 ユージンが午後の打ち合わせを終えて本営のテントから出るとアロイスが待っていた。

 明日の早朝、小型竜の一種である灰雷竜の群れを叩くために隊が組まれた。灰雷竜は、基地の東、徒歩一時間ほどの距離で屯している。

 魔獣の動きが凪いでいるうちに潰しておくことになった。

「明日、早朝出発だ」

「なるほど。凪いでいる間にも積極的に攻撃を仕掛けるわけですか」

 ふたりで話しながら歩いていると、また聞き慣れた声がする。

 アリサの声だ。

 一瞬、疲れを感じてしまった。

 そんなユージンを見てアロイスが苦笑する。

「ようやっと目が覚めてきましたか」

 アロイスに訳知り顔で言われ、ユージンはむっとした。

 なにか彼女を庇う言葉を言い返したかったが思いつかなかった。

 アリサとは安全な王都で少々会話をするくらいなら問題なかった。彼女の良さを知っているつもりでいた。彼女に惹かれたのは本当だ。けれどこの魔の森では、彼女の能力では無理としか思えない。ただそれだけだ。

 アリサが側にいる場では言えないが。

「お夕食をご一緒しませんか」

 アリサににこやかに誘われ、ユージンは咄嗟に答えた。

「すまない。デヴィド殿と打合せをしながら食事する約束をした」

「まぁ、そうでしたか。食事のときまで大変ですのね」

 アリサが心配そうにユージンを見詰める。

「大変でもない」

 ユージンは苦笑し、「では」とアリサから離れた。

 アロイスがにやにやしているのが腹立たしい。

 デヴィド殿との約束など嘘だ。架空の人物との架空の打合せだ。咄嗟になぜそんなことを答えたのかさえ、ユージンは自分でもわかっていなかった。

「目覚めるのが早かったですから、良かったですよ」

 アリサから充分に離れると、アロイスがさらに苛立たせることを言ってきた。

「ゆっくり飯を食いたかっただけだ!」

「はいはい、食事を持ってきますから、嘘がばれないようにテントに籠もっていてください」

 アロイスは機嫌良く夕食の匂いのするほうへと歩いて行った。


□□□


 レナはその頃、危険なテントが気になり、様子を見に行かずにはいられなかった。

 森の際にあるテントは木々の陰になってすでに薄暗い。

「やっぱ、嫌な雰囲気よね。なんか怖い」

 王子のテントの方角からひとりの騎士が歩いてきた。

「あ、あのときの騎士ね。丁度良いわ」

 アロイスのほうでもレナの姿を認めた。

「今晩は」

 レナが声をかけると、

「今晩は、お嬢さん」

 アロイスが微笑んだ。凜々しい騎士の割に愛想が良い。

「あの端にあるテントをお使いになってる方、ですか?」

 レナはふたり用テントを指さした。

「そうです」

 何の用だろう、と思いながらアロイスは首を傾げた。

「私、レナ・ランソルと言います。魔導士なんです。ですから、魔力は探知しようと注意を向けるとわかるんです。結界の強さとかも、おおよそは」

「そうですか」

 アロイスは眉をわずかに顰めて耳を傾けた。

「あの端のテントは焚いている魔獣避けの香から遠いですし、暗い森の際が目の前です。ですから一番危険ですよね。結界の魔導具と魔獣避けの魔導具は手厚くすべきです」

「そうしてあるはずですが?」

「私の叔父も魔導士です。ここに一緒に来てるの。叔父も言ってたんですけど、あのテントの魔導具の魔力は他のテントのものと比べてかなり薄いです。雑魚ならともかく、中型の魔獣の一撃も防げないわ」

「ホントですか」

 アロイスは思わず声を低めた。

「ホントです。声を低めた方が良いんですか? 知らなかったの?」

「いえ、他より薄いとは」

 アロイスは言葉を濁した。

「隣国の方というのは本当? 私は協会隊のものなので又聞きなんです」

「あなたは協会隊なんですか?」

「ええ、そうです。サウラの町の副協会長に祝詞の詠唱やってくれって言われて来たの。今日、着いたばかりよ。協会隊のみんなは王子様のテントがこんな端にあるのは変って言ってるらしいわ。叔父が同じテントの人に聞いたのよ。でも、協会隊と騎士団は別組織だから事情まではわからなくて。どうして?」

「王子が遠慮したというのもあります。この件は内密で」

「内密にしておいて大丈夫?」

「内密にしておいていただいた方が助かります」

「でも」

「大丈夫です。ご心配なく」

 アロイスは強めの口調で言い切った。

「あの、そしたら、これ。使ってください」

 レナは、小袋から布を二枚、取り出して広げて見せた。

「スカーフですか?」

「そう。硬木や盾の柄を刺繍してあるでしょ。固い、護りを象徴する図柄。魔力を込めてあるわ。糸の染色も、魔力を帯びた染料の素材を使ってあるの。御守りになります」

「縁起が良いですね」

 アロイスは微笑んだ。

「ホントに縁起が良いのよ。身につけて。私も、ほら」

 レナは自分の首からスカーフを解いて手に取り広げた。

「永遠に凍ってると言われるワドナ山の頂。最高に固いやつ。防御の御守りなのよ」

 模様を見せた。

「なるほど。肌身離さず、身につけさせていただきます」

「効力を発揮して魔力が切れると色が褪せるの。生地の色がまだらに色あせたら燃やして捨ててくださる?」

「燃やした方がいいんですか? 綺麗なものをもったいないような気がしますが」

「御守りはそういうものだと思うの。護って貰ったら、燃やして欲しい。それだけ、約束」

「わかりました。騎士として誓います」

 アロイスは騎士の誓いの礼をした。

 レナは、ほっとして微笑んだ。

「殿下によろしく」

「はい。殿下も喜びます。私はアロイス・ダルトンと申します。アロイスとお呼びください」

「アロイス様ね」

「いえ、様は付けていただかなくてけっこうですよ」

「じゃぁ、アロイスさん、気をつけてね。叔父はアシュというの。協会隊の魔導士部隊にいるの。明日の早朝、竜退治に行くらしいわ」

「私どもも参ります」

「王子様が行くの?」

「もちろんです」

「灰雷竜は、暴走竜よ。落ち着きが無い連中。初っぱなからめちゃくちゃ雷撃を打ち込んでくるから、前衛は大変よ」

「知ってるんですか」

「サウラの森に居るの。さんざん暴れてあっという間に逃げてくから仕留めるのは難しいわ。雷撃避けるだけで終わることも多くて。毒を塗ったナイフを首目がけてぶん投げると上手くいくことがあるのよね。毒はすぐには効かないから、後で死んだ竜を見つけに行くのも一苦労だけど」

「そんな方法が?」

 面白いですね、とアロイスは微笑んだ。

「でも、騎士団はもっと格好いい方法で倒すんじゃない? 皮が固くてね。首は少し柔くて長いから、狩人は首狙いだけど」

「ありがとうございます」

「ご武運を」

 レナは御守りを渡せたのでほっとして微笑み、アロイスと別れた。


 アロイスがテントに戻り、ほどなく不機嫌顔のユージンも戻って来た。

「殿下、レナ・ランソルというご令嬢にお会いしました」

 対してアロイスは機嫌良く報告した。

「知ってる。見かけた」

 彼女はレナという名なのだな、とユージンは不機嫌なまま思った。

「声をかけていただければ良かったのに」

「声をかけて邪魔して良かったのか」

「なにを怒ってるんですか?」

 アロイスは「まさか嫉妬ですか」と小さく呟きながら、ポケットから防音結界の魔導具を取り出し魔力を込めた。

「防音か」

 ユージンが訝しげに魔導具を見、それから護衛に視線を戻した。

「レナ嬢からこのテントは危ないと忠告を受けました」

「危ない? 確かに森に近過ぎるとは思っていたが」

 ユージンは不機嫌顔を引っ込めて真顔となった。

「こんな端になったのは作為があります。おかしいと思ってました。我々がテントを張ろうとしたのを邪魔したのはどなたか覚えてますか」

「部隊の従者が『隊長が呼んでいる』と言いに来たので遅れた。実際は呼ばれてなかったな。戻って来たときには場所が埋まっていて従者の格好をした者がこちらが空いていると誘導したのがここだ」

「そうです。他に空いてなかったのでやむなく張った。テントの安全対策のための結界の魔導具と魔獣避けの魔導具もその同じ従者が持ってきた」

「なにか問題があるのか」

「レナ嬢は魔導士だそうです。協会隊に所属している。叔父上と来ているとお聞きしました。それで、結界などの魔力の強さがわかるとか。他のテントに比べて薄いそうです」

「なるほどな。そう来たか」

 ユージンは皮肉な笑みを浮かべた。

「レナ嬢は心配してくれましたが、内密にして貰いました」

「そうだな。これで騒いでも違う手を使われるだけだ」

「はい。知らない振りをして切り抜けた方が良さそうだと判断しました。どこに敵が紛れているかもわかりませんので、うかつに相談もできません。とりあえず、レナ嬢は信頼できるとわかりました。一緒に居る間、精霊石は澄んだままだったので」

 話しながら腕輪に填められた水色の宝玉にちらりと視線を落とした。

「間者は、騎士団か魔導士隊の中か」

「おそらく、どちらかかと。レナ嬢は私たちに刺繍のスカーフをくださいました」

 アロイスは貰ったスカーフを広げて見せた。

「刺繍を?」

 刺繍という言葉に特別な響きを感じた。ありふれたなんの変哲もない言葉のはずが、こんなにも切ない。

「盾と硬木の図柄で、御守りにと魔力を込めてくださったそうです」

「彼女が。優しいのだな」

 刺繍を撫でるように手で触れると、なぜかたまらなく懐かしい気がする。古風な図柄だからだろうか。魔力の暖かさを感じた。実際は温度などないというのに。

 気持ちが、暖かいのだ。

「肌身離さず身につけて、もしも護りの効果が切れて色が褪せたら燃やして捨てて欲しいそうです」

「こんな見事な刺繍を燃やすのか」

 思わずスカーフから顔をあげた。

「御守りだからそうして欲しいと願われ、約束をしましたので」

「そうか。わかった。そのときは、また貰えばいいな」

 ユージンは早速スカーフを首に巻いている。

「図々しくないですか」

「じゃあ、俺の分だけ強請る。アロイスの分は無しだ」

「大人げないですよ」

 ふたりは持参した結界の魔導具で防御結界を重ね掛けしておいた。




お読みいただきありがとうございました。

明日も、夜20時に投稿する予定です。

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