16話 記憶の疼き
「『黒曜連盟』の奴らが不正をしたってこともあって、S級依頼は『陽気な旅団』に決まったらしいぜ」
「それって、首長国の砂嵐の件だろ?」
「ああ。他の国のこととはいえ、国は助けようともしないなんてな。冷てぇよ」
「まぁまぁ、俺ら下々には分からねぇ事情もあるんだろうさ」
「砂嵐……?」
通りすがりの男たちの会話に、ネクタリウスは足を止めた。
その様子に気づき、ラウルは怪訝そうに振り返る。
「ラウル」
名を呼ばれると、ラウルはすぐに意図を察し、男たちのもとへと歩み寄った。
「失礼。その話について、もう少し詳しく聞かせてもらえませんか?」
しばらくして戻ってきたラウルは、簡潔に報告する。
「首長国のオアシスが砂嵐によって封鎖されているようです。それで、ギルドへ大きな依頼が出されたとのことです」
「そうか」
砂嵐の話は、一部の商人や旅人の間で囁かれていた。
だが、街では街長主催の大会を控え、屋台の準備や催しの話題で持ちきりだった。
さらに、旧市街で起きた大規模な火災が、人々の関心を一変させた。
再び人々の話題に上がるようになったのは、ギルドへS級依頼が持ち込まれたからだった。
(砂嵐……)
ネクタリウスは胸の内で、その言葉を静かに反芻する。
何かが引っかかる。
思考を巡らせた瞬間――。
ズキッ、と鋭い痛みが脳を貫いた。
「……っ」
思わず額を押さえる。
「ネクタリウス様、どうかしましたか……?」
ラウルが心配そうに声をかける。
だが、その声はネクタリウスの耳に届いていなかった。
(首長国は、ここから南……)
その続きを思い出そうとするたびに、頭の奥で痛みが走る。
(何だ……。何を思い出そうとしてる……)
理由も分からない痛みに、ネクタリウスは苦悶の表情を浮かべる。
その時だった。
脳内へ乱れたような音が割って入った。
『――我が君』
「……ジークか」
『至急の用件ゆえ、私から連絡致しました。勝手をお許しください』
「どうした?」
頭痛が少しずつ引いていくのを感じながら、ネクタリウスは静かに尋ねる。
『二大家の間で問題が発生しました。至急、お戻りいただきたく存じます』
新たな知らせに、ネクタリウスは静かに目を閉じた。
自分が対処する問題であることは明白だった。
「……わかった」
しばらくの沈黙の後、ネクタリウスは短く答える。
『詳細は追って、改めてご連絡いたします』
「ああ」
『道中、お気をつけて』
その言葉を最後に、念話は早々に途切れた。
終始慌ただしかった口ぶりから、事態の切迫ぶりが伝わってきた。
「ネクタリウス様」
ラウルが控えめに声をかける。
「問題が起きた。国へ戻るぞ」
ラウルは一瞬だけ口を開きかけた。
だが、すぐにその言葉を飲み込んだ。
「……承知しました」
結局、当初の目的を果たすことはできなかった。
重い沈黙の中、ネクタリウスは静かに踵を返す。
その瞬間だった。
視界の隅を、銀色の髪がかすめた。
「……」
ネクタリウスは足を止めることもなく、その場を後にした。
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