15話 不正発覚
「手、痛むんですか?」
アマリエは心配そうに尋ねた。
「少ししびれる程度だ」
手の平を開閉しながら、エイガーが答える。
模擬試合はエイガーの勝利で終わった。
だが、その表情は冴えず、どこか手を気にしているように見えた。
「ちょっと見せてください」
アマリエは珍しく語尾を強める。
患者が無理をして強がることはよくある。
彼もそうではないかと思った。
エイガーは小さくため息をつき、手を差し出した。
節くれ立った大きな手には、いくつものタコができている。
アマリエは手を小さく動かしながら、痛みの度合いを確かめた。
「本当に大丈夫そうですね」
ほっと息を吐く。
「初めからそう言っている」
エイガーは淡々と返した。
「一応、回復魔法をかけますか?」
「いや、いい」
短く答え、エイガーは手を引く。
その態度に、アマリエは眉を下げた。
「――…で、こちらが勝ったんだ。依頼はこちらが受ける、でいいんだろう?」
エイガーは強引に話題を戻した。
「ああ。文句なしに勝ったしな」
バッカスが頷く。
試合後、地面に倒れたサイモンはすぐ担架で運ばれていった。
正式な勝敗はまだ告げられていなかったが、結果は明らかだった。
「やっぱり、つよいねー!」
その場にそぐわないほど明るい声で、ソルが話しかける。
「……仲間のところへ行かないのか」
エイガーが尋ねた。
「俺がいても何もできないし、あんなの自業自得でしょ?」
ソルの言葉に、一同は首を傾げる。
「どういう意味だ?」
「あれー、やっぱり気づいてなかった?」
要領を得ない返答に、エイガーが眉を寄せる。
「勿体つけずに教えろよ」
バッカスが促すと、ソルは素直に頷いた。
「あいつらね、試合用の武器に細工してたんだよ」
「えっ」
ソルの言葉に、アマリエは思わず声を上げる。
一方、他の面々は渋い顔を浮かべた。
「どういうことだ?」
バッカスがソルへ問いかけた。
「運営に金を握らせて、“重量付与”の魔法をかけた武器を棚に忍ばせていたんだ」
「……そういうことか」
エイガーの反応は淡白だった。
打ち込まれるたびに攻撃が重く感じた。
実際は、サイモンの選んだ斧槍には【重量付与】の魔法が仕込まれており、打ち込むたびにエイガーの槍へ重さを加えていたのだ。
「……動きが単調だったのは、そのせいだったのか」
バッカスが納得したように頷く。
「優勢のわりに、黒曜の奴には焦りが見えた。お前が予想以上に耐えていたせいだろうな」
リゼッタの言葉に、エイガーは何も答えなかった。
代わりに、ソルが同意するように頷く。
「そうそう、せいぜい十回くらいで落ちるだろうって言ってたし」
エイガーは黙ったままだった。
「つまり、不正をしていたってことだよね?」
ミハエルが改めて問いかける。
「うん。そういうこと」
「そんな身内のことを俺らに話していいのか?」
「いいよ、もうあの同盟は抜けようと思ってるし」
バッカスの問いに、ソルはけろっとした顔で答えた。
「ふーん」
バッカスが胡乱げな視線を向ける。
「……不正とか、妹が嫌うんだよね」
ソルはぽつりと呟いた。
「妹さんですか?」
アマリエは思わず尋ねる。
「そう。妹が一人いるんだけどさ。……そういうのに厳しいんだよね」
ソルは初めて苦笑いを浮かべた。
「そういえばさ。うちの妹、治癒士さんとちょっと似てるかも」
「そうなんですか?」
アマリエは首を傾げる。
「うん、正義感の強いところとかね。妹って善意を信じてるんだよね」
善意――神殿を信じているという意味だろう。
「――というわけで、運営には俺から報告しておくよ」
そう言って、ソルは頭の後ろで手を組みながら歩き出す。
「そうだ!」
数歩進んだところで振り返る。
「エイガーさん、今度は俺と手合わせしてよ!」
「……気が向いたらな」
エイガーが心底嫌そうな顔をしながら答える。
「約束だよ!」
まったく気にする様子もなく、ソルは底抜けの笑顔を向けた。
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