14話 模擬試合
「模擬試合のルールは、先に胸当てへ有効打を与えた者の勝利とします」
ギルド職員が簡潔に説明をすると、エイガーと対戦相手は揃って頷いた。
模擬試合はギルド施設内、中庭の一角に設けられた訓練場で行われる。
訓練場は円状に巡らせた木柵と、土を固めただけの簡素な造りだ。
冒険者登録をした者なら誰でも自由に利用できる公共施設でもある。
今日だけは“陽気な旅団”と“黒曜連盟”――双方の模擬試合のために貸し切りになっていた。
S級ランクの冒険者を擁する同盟同士の対決とあって、依頼そっちのけで見物に来る冒険者も少なくない。
「武器はこちら側で用意したものを使用してください」
そう言ってギルド職員が手で示したのは、武器収納棚だった。
長剣、槍、斧槍――様々な武器が整然と立て掛けられている。
用意された武器はどれも尖先を潰してある。
相手の男――サイモンは、真っ先に斧槍を手に取った。
ふん、と勝ち誇ったように鼻を鳴らし、エイガーを横目で見やる。
エイガーも長身だが、サイモンも負けず劣らず大柄だった。
均等の取れた体格のエイガーに対し、サイモンは上半身を中心に筋肉が盛り上がり、ひと目で力自慢だと分かる体つきをしている。
(……大丈夫かしら)
木柵の前に立ったアマリエは、そっと胸の内で呟いた。
エイガーは相手の視線を意に介することもなく、静かに槍を選び取る。
「それでは――中央へ」
ギルド職員に促され、二人は訓練場の中心に歩み出た。
お互いに向き合い、それぞれの武器を構える。
「では、始め!」
号令が響く。
その瞬間、二人は同時に動き出した。
サイモンが右上から斜めへと、斧槍を振り下ろす。
エイガーはすかさず槍の柄を斜めに構え、その一撃を受け止めた。
ガキィン!と重い音が響く。
受け止めたまま、エイガーが斧槍を滑らせるように下へと流す。
防がれたサイモンは、そのまま下段から突き上げるように斧槍を振る。
エイガーは半歩、身を引き、柄で受けた。
鈍い衝撃が腕へ走る。
咄嗟に柄を持つ手に力を込め、その一撃を前方へと受け流した。
サイモンは後方に下がり、一度距離を取る。
だが、すぐさま踏み込み、再び斧槍を振り下ろしてきた。
先程と同じ攻撃。
エイガーも、同様に受け流した。
数回の攻防が続く。
だが――。
(重いな……)
同じ攻撃のはずだった。
それなのに、受けた感触が違う。
腕へ伝わる衝撃は先ほどよりも重く、槍を握る手にかかる負担も増しているように感じられた。
◇ ◇ ◇
「さっきから防戦一方じゃないか」
「ついて行くのがやっとだな」
周囲の声に、グランも満足そうに口角を吊り上げる。
「そう言ってやるな。あのサイモン相手に、健闘している方だろう」
褒めていないのは、その表情からひと目で分かった。
周囲が、同調したようにせせら笑う。
「……」
視線を戻し、アマリエは唇をキュッと固く結んだ。
隣に立つリゼッタは横目で、射るような鋭い視線を送る。
殺気だったその視線に、黒曜連盟のメンバーの何人かがびくりと肩を震わせた。
「マリエ、気にすんな!」
アマリエの肩にポンと手を置き、バッカスが呑気な声で言った。
「馬鹿の一つ覚えに、力任せに押してるだけだしな」
バッカスの言う通り、相手は叩きこむような攻撃しかしていない。
だが腕力に特化した体格――その一撃の威力は相当のものだろう。
素人目でも、エイガーの動きが徐々に鈍くなっているように見えた。
「戦闘慣れしてるバッカスがそう言ってることだし。マリエさん、大丈夫だよ」
ミハエルが穏やかに声をかけた。
そうは言われたものの、アマリエの表情は晴れなかった。
◇ ◇ ◇
(やはり……重いな)
打撃を受けた腕にしびれるような感覚が残る。
一撃、また一撃と受けるたびに、その感覚は確実に強くなっていた。
(おかしい)
攻撃を受け流しながら、エイガーは思考を巡らす。
相手の動きは単調だ。
ひたすら打撃を繰り出すだけ。
(長期戦に持ち込む気か……?)
腕力では相手の方に分があるのは確かだ。
だが攻撃を仕掛けている分――こちらよりも体力の消耗は激しいはず。
消耗戦なら受けて立つ構えだった。
だが、腕への違和感が拭えない。
(このままでは不利か……)
サイモンの上段からの攻撃を、エイガーは半歩下がってかわした。
斧槍の切っ先が地面を叩く。
「ちっ!」
サイモンは短く舌打ちをした。
そのまま下段から突き上げの攻撃に転じる。
エイガーが後方に大きく下がると同時――土煙が舞った。
(目くらましか。――なら、ちょうどいい)
エイガーは腰を落とし、槍を前方へ構えた。
次の瞬間、一気に地面を蹴る。
サイモンが反応するよりも早く、その槍は胸当てを捉えた。
そのまま、サイモンの身体は後方へ吹き飛んだ。
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