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13話 対極

薄暗い地下の階段を一段下りるたびに、空気が冷えていくような感覚に陥った。


――それは、重苦しい気持ちのせいかもしれない。


これから会う男とは、もう関わり合いになりたくなどなかった。


“奴”と道を違えた時、胸の内がすっと軽くなったことを覚えている。


階段を降りきり、エイガーは小さく息を吐いた。


手に持ったランタンの火を小さく揺らしながら奥へと進む。


突き当りで立ち止まり、鉄格子越しの男を無言で見遣った。


「……」


独房の奥から、かすかに金属の擦れる音が響く。


「……また会うとはな」


掠れた声とともに顔を上げた男の瞳は、灯火に照らされてなお闇に沈んでいた。


「正直、貴様とはもう会いたくはなかったのだがな」


「……殿下の命か」


「まぁな。明日、王都へ護送されるそうだな」


「さしずめ、女のお守りといったところか」


「……」


エイガーは肩を落とすように、露骨なため息をついた。


この男は昔から、自分とまともに対話する気がない。


同僚だった頃から、徹底して自分本位な男だった。


群れることを嫌い、興味を惹かれたものにしか視線を向けない。


目の前で拘束されている男――アレンの瞳はエイガーを映してはいなかった。


だが、この男の観察眼は決して侮れない。


一挙手一投足でも気を抜けば、容易く足元をすくわれる。


何を考えているのか分からない。


エイガーは、そんなこの男が苦手だった。


「殿下には残念だ……」


アレンは心底惜しむように呟く。


「……“人”らしくなってしまった。嘆かわしいことだな」


「俺はそうは思わん」


即答すると、アレンの視線が静かにエイガーを捉えた。


「孤独のままでは、人の上に立つことはできない」


「綺麗事を」


エイガーの言葉を、アレンは鼻で笑う。


「人の上に立つ者は孤高でなければならないのだ。民の屍の山を踏みしだく者こそ、王に相応しい」


「民を守ろうとする者こそ王だ。他者の痛みを知る者だからこそ、我々は命を賭して付き従おうと思える」


「感情は人を愚かにするものだ。貴様の故郷が消されたのも、“人の恐れ”ゆえの結果だっただろう?」


故郷という言葉に、エイガーの眉間の皴が微かに寄る。


アレンという男は、感情など不必要だと口にする反面、それを利用して他者を揺さぶことに長けていた。


だが、それはアレン自身が誰よりも感情に囚われているからこそだ。


「感情に振り回されているのは、むしろお前の方だろう」


エイガーは若干煽るようにそう告げる。


アレンがエイガーの過去を知っているように、エイガーもまた彼の過去を知っている。


「黙れ」


狂犬が唸るように、アレンは奥歯を嚙み締めながら低く吐き捨てた。


その、くすんだガラス玉のような黒い瞳に、鈍い光が灯る。


「そちらが先に話を振ってきたのだろう。お互い様だ」


エイガーは冷めた声音でそう切り捨てた。


「あの……そろそろ……」


控えめな声が割って入り、張り詰めた空気がぷつりと切れた。


「……ああ」


看守へ頷き、エイガーはアレンから背を向ける。


「……ヴォルグ様が変わられたこと、俺は喜ばしいがな」


静かに告げるとその場を後にした。



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