表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/64

12話 王子の自覚

「――この条件では支援はできない」


目を通したばかりの書類を卓上に置き、ヴォルグは即断した。


「お言葉ながら、殿下。これは、首長国に恩を売る絶好の好機ですぞ」


「ライオネル候の仰る通りです。かの国は魔鉱石の産出の大半を握っている。しかしながら、我が国への供給は決して多いとは言えません」


ライオネル侯爵の意見に、他の貴族たちも賛同の声を上げる。


「そうです。今回の件で協力すれば、今後の取引において優位に立てましょう」


「……僭越(せんえつ)ながら申し上げますが――」


その時、控えめな声が割って入った。


「現時点で得られている情報があまりにも少なすぎます。そのような状況で兵を派遣するのは如何なものでしょうか」


「だが、この機会を逃せば次はありませんぞ!」


ライオネル侯爵は思わず机を叩いた。


場の空気がぴんと張りつめる。


「今回が首長国との関係を深める絶好の機会なのです!」


「ライオネル候」


ヴォルグの声に、ライオネル侯爵は押し黙った。


「貴殿の意見は理解している」


ヴォルグは落ち着き払った声で続ける。


「だが、イオロスでの討伐は未だに完了していない。門扉(ゲート)の位置も特定できていない以上、パスロトには現在も兵の半数を駐留させている。防衛の観点から見ても、これ以上兵を割くことは難しい」


「しかし殿下!」


冷静なヴォルグに対し、貴族たちはなおも感情的な声を上げる。


「この件については、陛下より私に一任されている」


その一言に、貴族たちは息を呑んだ。


「――兵は動かさない」


ヴォルグが毅然と告げる。


「し、しかし!」


「進展があれば、改めて議論の場を設ける。だが現状では動かない。――以上だ」


ヴォルグは静かに席を立った。


貴族たちは喉まで出かかった反論の言葉を飲み込み、退室するその背を見送った。



 

   ◇ ◇ ◇




執務室に戻ったヴォルグは、椅子に腰を下ろすと深く息を吐いた。


貴族の意見を押し切るために、父の威光を借りた。


それは、自分の未熟さを改めて突きつけられたようなものだった。


どうしようもない苛立ちが、胸の奥にわだかまる。


“兵を危険に晒してまで、得るべき利益ではない。”


たとえ父の判断が違ったとしても、ヴォルグは己の意見を曲げるつもりはなかった。


――次こそは、自らの力だけで切り抜けてみせる。


そう決意を新たにし、ヴォルグは小さく息を吐いた。


(それにしても――ガウロ砂漠か。……あの場所に近いな)


今もなお、かの地に留まっている彼女のことが脳裏をよぎる。


「……元気にしているだろうか」


ぽつりと漏れたその言葉を遮るように、胸元の通信機からジジジッ……と雑音が響いた。


『――報告します』


「……ああ」


ヴォルグは短く応じる。




「…――なるほど。すでにギルド組合にも話が広まっているのか」


『――はい』


相手の報告を聞き終え、ヴォルグは静かに目を伏せた。


“困っている人を救いたい。”


報告者から伝えられた彼女の言葉は、いかにも彼女らしいものだった。


ヴォルグはわずかに口角を上げたが、それは一瞬のこと。


(……だが、危険すぎる)


やはり、この男を彼女の元へ派遣したことは正しい判断だった。


――彼女には、守り手が必要だ。


(本来ならば、その役目は――)


かつて彼女に告げた言葉が脳裏をよぎり、ヴォルグは拳を強く握り締めた。


今回の議論も、彼女のことも、自分自身では何一つ成し遂げられていない。


せっかく抑え込んだ苛立ちが再び胸の内で燻り始める。


最近は、こうして感情に振り回されることが増えた。


以前の自分なら、ここまで気に留めることはなかっただろう。


だが――それを切り捨てることは、彼女を否定することにも思えた。


『――報告は以上です』


その声に、ヴォルグは気持ちを切り替えるように小さく頭を振る。


「……ああ、ご苦労。彼女のことをくれぐれもよろしく頼む」


結局、今のヴォルグには、それしか言えなかった。


『――御意に』


その言葉を最後に、通信は途切れた。




ヴォルグは静かに立ち上がり、窓辺へ歩み寄る。


窓の外には、闇に沈んだ王都の街並みが広がっていた。


「……無理はしないでくれ」


掠れたその声は、誰へ届くこともないまま夜の闇へと溶けていった。


応援よろしくお願いします!


気に入って頂けたらブックマーク、評価してくださると執筆の励みになります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ