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第18話 愚者は嗤う

5000pvありがとうございますっ!これからもよろしくお願いしますっ!

「よしっ、感度良好、一切合切問題なしと。ディアも追えているか?」

「二回も吸わせたので大丈夫そうです」

「なら問題は無いな。タイミングはこっちで言うから安心しろ」


 誠達はまだ血の臭いが立ち篭める森にいた。

 その理由は少し前へと遡る。


 誠が残した一人の男には闇魔法による洗脳を施して、王国へと転移石を使わせて戻らせた。

 その際に、付けられていた監視を神剣で断ち切って、男の影に監視を忍ばせた。これは王国の魔道士長が付けたものと似てはいるが、あれは術者の練度もあって遠隔操作が可能な生物タイプになっている。しかし、誠の場合はそんな芸当は出来ないので影の監視と五感を同調させて見ることにした。

 魔法の使い方としては誠は劣るが、魔力操作ならば誠の方が遥かに上だ。

 その監視を通して今は王国の様子を窺っているのだ。



 ◇



(これは正直予想外ですね……まさか勇者を取り逃がした上に壊滅とは)


 セラフィは思わず頭痛が起こりそうな結果を目にして誰にも聞こえないように小さく舌打ちをする。


 その報告は命からがら生き残った男からのものだった。どうやら転移石で帰ってきたらしく、突然に王城へ現れた。全身に傷があり、血が着ていた黒装束に染み込んで赤黒い斑点を至る所に作っていた。

 それを聞きつけたセラフィはすぐに自室に呼び出し、話を聞いていたのだ。

 虚ろで焦点の合わない眼ではあったが、報告は淡々と行っていた。


「それで、勇者は裏切ったんですか?」

「はい、勇者は我々を襲ってきました。そう思って問題はないかと」

「そうですか。それで、以前と変わったことはありましたか?」

「連れに奇妙な技を使う銀髪の女がいましたが、能力までは分かりません」


 まずセラフィは聞けることを次々と聞いていく。この男が死んでは情報は闇の中だ。

 しかし出てくる情報はどれも曖昧だったり、要領を得ないものだ。何処かしらの重要な部分が抜け落ちているのだ。

 意味が無いとは思わないが、有効だとも思えない。

 その位のことは監視を通して確認はしていた。


(この分だとさらに追っ手を付けるのも悪手でしょうね。一応荒事には慣れている部隊、それも裏を送ったのにこれではあまりに採算が取れないです……困りましたね)


 こんなに早くに勇者という強力な札を落としてしまったことは失態と言っても温いくらいだ。

 対魔王の戦力としては勿論、民衆へのアピールや外交の札にすらなるはずだった勇者の損失は計り知れない。

 それに召喚の儀式に使われた贄を購入した大金の回収すら出来ていない。それどころかこちらはさらに戦力を削がれる結果になっている。


(今勇者を手放すということは王国としても非常に悪い状況になる……まだ一部関係者以外に勇者が召喚されたことを公表していなかったことが唯一の不幸中の幸いでしょうか)


 情報から自らが置かれている現状を即座に把握する。セラフィは王女ではあるが、その頭脳は国王を遥かに凌ぐ。というか国王ははっきり言って馬鹿だ、そしてそれはセラフィにとっては都合がいい。

 傀儡の王を操る王女、それが今の王国の実状だ。だからこそ、ある程度ならセラフィの思うままにことを進められる。

 そしてこれからの筋書きを頭の中で作り出そうとするが、聞かれるままだった男が口を開いた。


「それと、その二人組からの伝言があります」

「伝言……? 聞かせてください」

「はい、それでは」


 その内容はこうだ。


『 今回は俺の番だ

  こいつは俺からお前への初めての贈り物だ

  残された時間は精々希望を持って足掻いてくれ

  俺と同じ以上の地獄へ送ってやるよ

               大罪の愚者より 』


「……気持ちの悪い異世界人め……何が『今回は』ですか、それにこれが贈り物なんて意味が分かりません……」


 不快感を露わにするように、伝言を伝えた男を睨みつける。それでその伝言が変わる訳では無いが、それでも止められなかった。

 そのお陰で、男の変化に気づくことが出来た。否、気づいてしまった。

 初めに目に付いたのは顔の異変だった。明らかに異常だと思えるほどに膨れ上がり、鼻や口元もその膨らみに覆われて低く唸るような声とは聞こえない音が聞こえる。膨らみの中で湧き立つような赤い液体は今か今かとその時を待つように泡立っていた。

 そして少しするとその現象は全身に広がり、男が着ていた黒装束を突き破り、ぶよぶよとした醜く生理的嫌悪を抱かせる姿を現す。

 そこからは時間はかからなかった。張り詰めた糸がプツンと切れるように、全身の膨らみが弾け、真っ赤な霧を周囲に撒き散らし生臭い華を咲かせた。

 当然に目の前にいたセラフィもその血を浴びて体が赤く染まっていく。咄嗟の判断で顔だけは守ったらしいが、それもあまり意味をなしていないような光景だった。


「……これが『贈り物』ということですか……こんな怨みを持たれるようなことはしていないはずなんですが、どうやら相当のようですね。……私をここまで侮辱したのは貴方が初めてですよ、アマノ……ッ!」


 自分以外誰もいなくなった部屋で、感情を一切隠さずに叫ぶ。

 王女として産まれ、蝶よ花よと育てられた人生でここまでの屈辱は初めてだ。それも自分が飼い慣らすはずだった(アマノ)に噛み付かれたのだから尚更だ。

 しかし仮にも王女としてのプライドなのか、それだけに押しとどまった。苛立ちが消えている訳では無いが、その頭脳は既に誠への報復手段をあれこれと考えていた。


(これからどうするべきでしょうか……いえ、一先ずは勇者のことは後回しですね。この事が周辺諸国に知られないようにするのが先決です。ああ、嫌になりますね。顔から脂を吹き出す老害の相手をするのは……)


 まずやるべき事は情報の隠蔽、これは欠かせない。唯でさえ財政で厳しい状態で隠し札の一枚を無駄にした代償は大きい。

 しかし、ここで諦めないのがセラフィであり、裏で国を操るものの頭脳だ。


(必ずこの借りは返しますよっ……! その為にも魔道士達の回復を急いでもらう必要がありますね、王国を裏切った事を後悔させてあげますよ、異端の勇者……)


 憎悪を抱いた瞳で、昏く深く王女は嗤う。



 ◇



 誠は男の肢体が破裂し、それからのセラフィの反応を見てから五感の同調を切った。

 必要なことは喋っていたし、監視である程度は見られていることしか言っていないはずだ。

 それにしてもやはりあの顔を見るのは面白い。

 何故裏切られたと考える人間は同じ顔をするのだろう。もっとも、信用があってこそ裏切りという行為が存在するのでこれは裏切りではない。互いが自分の為に動いただけだ。

 それでもあんな顔を見せてけれたのだから高価な転移石を使った甲斐が有るというものだ。


「ありがとう、ディア。タイミングはバッチリだ。にしてもどうやってあの男を殺してたんだ?」

「私の魔力を取り込んだものに対しては私が感知出来る限りは何処にいても発動出来るみたいですよ」

「うっへぇ……初見殺しもここまでくると言葉が出ねぇな。相手に魔力を取り込ませることが出来れば全部がディアの間合いってことか」


 どうやら思っていたよりディアの固有技能は強力だったらしい。これなら大抵の奴らは何をされたか解らずに死んでいくだろう。


「それよりも、私だけ王女の顔を見れなかったのは悔しいです」

「仕方ないだろ、悪かったとは思っているけどこれはどうにもならないからな」

「うううっ……」


 ディアは誠から顔を背けて泣きだした。……勿論嘘だが、それは分かっているので無視をする。

 ディアの言い分も正しいが、残念ながら監視の魔法がディアには使えなかった、それだけなのだ。もし仮に使えたとしても、隠蔽が面倒なので誠がやっただろうが、それは言わない。


「ディアも技能には問題ないし、出来るようにはなると思うぞ」

「それなら頑張りますっ……で、どうやって使うんですか?」

「俺が教えられれば良かったんだが、残念ながら魔法はあんまり分からん。俺の場合は殆ど固有技能頼りで使ってるからな」


 誠が使う魔法は基本的に何処かで見たことがあるものばかりだ。そしてそれは完全模倣と解析で自動化させていると言っても良いくらいの手抜きだ。


「でもディアが魔法を学びたいって言うならそのうち学術都市の方に行ってみるのもいいな。というかどの道用があるからな」

「用、ですか? それはつまり……」

「そういう事だ。あんな所に行くのは気が進まないが、それでディアが成長出来るなら目を瞑るさ」


 目を輝かせて誠を見ていたディアだが、事情を察したのかその瞳に影がさした。用があると言ってもそこまで深い関わりがあった訳では無いので嫌がらせ程度で終わらせるつもりではあるが。

 それはそうと、だ。


「本格的に始まるのはこれからだ。この先には強い奴だって相手にする、だから俺はディアを鍛える。それこそ一歩間違えたら死ぬくらいの勢いでな。……それだけしないと届かない、自分の理想を全て叶えるならそれでもまだ温い。こんなどうしようもないイカれた道を選ばせようとするやつに着いてくるのか?」


 それは覚悟であり、誓いであり、地獄も青ざめる一寸先は闇の道。一手間違えれば詰みすら有りうる、そんな理想を目指す誠の道。

 復讐をしたいだけならディアは誠に着いてくる必要は無い。『嫉妬』との契約によって力を得たディアはそこらの有象無象に殺されることは無い。寧ろ別れて一人で見つける方が楽だろう。

 ディアがそれを選ぶならそれでもいいと誠は思う。

 誠はディアの紅い瞳を見つめる。

 少ししてディアが口を開いた。 


「……私はあのままなら死を待つだけの人形でした。けれど私に生きる目的を与えて、ここまでしてくれたのはマコト様なのです。それに、私は死ぬまでマコト様と一緒にいると――隣を歩むと決めたのです。何よりそれはマコト様を裏切ることになります、それだけは絶対に嫌なんです。それではアイツらと同じ生きる価値のないゴミ以下の存在です。――だから、私は着いていきます。たとえ地獄の窯の中でも、冥府の果てだって」


 真剣な面向きでディアはそう言う。

 ああ、そうか。そうだよな。

 俺も怖かったんだな、また裏切られるのが。だからこんな事を聞いた、もう戻れないと分かっていながら。


 ――俺も、強くならないとな。


 それは決してステータスの数字だけじゃない。この世界ではレベルが上がればステータスも上がり、徐々に化け物のような身体能力になる。

 だが、精神は別だ。数字として現れない強さ、何時だって足りなかったものだ。その弱さ故に騙された、気付けなかった、気付こうともしなかった。

 俺が動いていれば救えたものだってあったはずだ。最悪だけは回避出来たはず……いや、これは傲慢というものか。

 ならせめて今の俺を信じてくれるディアくらいは信じたい。それで裏切られたのなら俺が悪い、それだけだ。


「余計なお世話だったな。なら、いこうか。殺る相手も、やりたい事も山ほどあるんだ。早くアイツらののうのうと生きてる面を拝みに行ってやらなきゃなさっ」

「はいっ!」


 二人は乾きつつある血がそこらじゅうにこびり付いた森を抜けて、前へ、前へと歩き出す。


 狂ったように嗤いながら、これからの話をするとしよう。きっと本当の復讐の味は極上の甘露のように甘く、二度と忘れられないものになるのだから。

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