表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/51

第10話 暗闇の行軍 Ⅱ

2000pvありがとうございます!

「にしても惜しいことしたなー」

「どうかしたのですか?」

「あのヴァンパイア・スパイダーの血を確保しておきたかったなと思ってな。色々と便利そうだからな」


 誠が気にしていたのはそのまま置いてきてしまったヴァンパイア・スパイダーの事だった。

 腐食性のあるあの血は大抵のものになら効果があるため、出来れば確保しておきたかった。

 しかしその性質故に保管しておく入れ物にも気を使ってしまう。


「確か腐食性のある血でしたね。薄めて使えるなら効果も申し分ないようなので拷問にも使えたかも知れませんね……惜しいことをしました」

「だよな〜、でもまた機会があればでいいだろう」

「そうですね。きっとまた遭遇することもあるでしょうし」


 すっぱりと血を手に入れられなかったことを諦め、迷宮の攻略に意識を割く。

 しかし誠の【探知】では周囲には魔物の反応は無く、ピクニックも同然だった。

 戦おうと思えば場所はわかるので直ぐにでもいけるが、誠はそれを嫌がった。

 その理由はMPの使い過ぎによる魔力欠乏が原因だ。

 先程の戦闘で使った魔法と『魔力刃』に想定よりもMPを使ってしまい、現在MPポーションで回復中なのだ。

 そして魔力欠乏に伴って現れる症状に精神の不安定化というものがある。

 これには主に二通りの症状があり、一つは酷く気分が落ち込むものでもう一つはその逆に異様なハイテンションになってしまうというものだ。

 因みに誠の症状は後者の方になる。

 昔はこれで精神的に深いダメージを負ったこともあり、今でも思い出したくない出来事のカテゴリーに入っている。

 こればかりは誠もどうすることも出来ず、回復するまで大人しくしていようという結論に至ったのだ。


「あぁ〜、またやっちまったよ……ディアもこれには気をつけろよ。時と場合によっては死ぬよりも辛い」

「はぁ、でもハイテンションのマコト様も素敵でしたよ?」

「……そんなこと言うのはお前くらいだよ、ディア」


 ディアの慰めとも取れるその言葉で誠は更に気を落とす。

 その当の本人には悪気が無いあたりが責めるに責められない原因なのだが、それはまた別の話だ。


「今度ディアがこうなったら思いっきり笑ってやるからな……」

「むぅ、でもマコト様になら見られても――」


 少し頬を赤く染めてディアがそんなことを言う。

 毒気を抜かれる誠だったが、まあいいかと放っておくことにする。




 それからは着実に下へ下へと降りていき、その途中で魔物との戦闘もあった。

 30層を超えた辺りからこれまでとは別の魔物が見られるようにもなってきた。

 三つの頭をもつケルベロスや、壁や地面を掘って襲ってくるディグモールという土竜に近い魔物が主体になっていた。

 勿論それらに紛れてゴブリンアサシンの群れやブラックサーペントが襲ってくることもあったが、それ程の脅威ではなかった。

 しかしこれまでの層より強くなっていることは確かで、数を揃えられるとこれまで通りとまではいかなくなっていた。


「チッ……ディア! そこの角を右に行くぞ!」

「わかりました!」


 現在誠達はケルベロスの群れとの戦闘中だ。

 それだけなら良かったのだが、運が悪い事にディグモールが壁を掘って襲ってきたため多勢に無勢ということで敗走中……もとい戦略的撤退中なのだ。

 しかし追われ続けるというのも癪だ。


「まだMPの回復中だってのに……でも仕方ないか。……全部片付けてくるぞ、いいか?」

「マコト様!?」


 誠のMPは回復中とはいえ5割とちょっとといった具合だが、強化魔法をかけて一瞬で片付けるくらいの残量はある。

 それでも撤退を選んだのはやはり魔力欠乏でのハイテンションがネックになっていた。

 しかしもうディアにならいいかと諦めにも似た感情を持ってしまっていたので誠も覚悟を決めたようだ。


 振り返って目に映るのはケルベロスが三体とディグモールが二体。

 優先順位を整理して誠は自身に強化魔法をかけて、魔物の群れへ一直線に突っ込む。


「お前らのせいで嫌なもん思い出したじゃねぇかよッ!」


 八つ当たりの言葉と共に輝く銀の閃光は迫っていた魔物を全て切り刻み、スプラッターな光景を作り出していた。

 その張本人は天を仰いで半ばやけのようになっていた。


「あーーもう俺はハイになんてならねぇぞ……」

「特に我慢する理由はないと思うんですけれど」

「それでも俺は嫌なんだよ」


 苦虫を噛み潰したような顔でディアにそう言うと、また迷宮を進む。


「ディア、そこは左に行ってみてくれ。俺の勘が正しければ休めるはずだ」

「ん?どういうことです?」

「さっきから【探知】で魔物の場所は調べていたんだが、どうにもその奥には近寄ろうとしないんだよ」


 今進んでいる先には何故か魔物が一切近寄っていないのだ。

 偶然と言われればそれまでだろうが、恐らくは――


「あっ!魔光石ですよ、マコト様」

「やっぱりか。これでようやく休めるぞ」

「正直有難いですね。これまでも休憩を挟んでいたとはいえ、魔光石があるところよりはどうやっても危険ですから」


 ディアは余程疲労が溜まっていたのか背伸びをして声にならない声をあげている。

 だがそれも仕方ないことだろう。

 いきなりこんなに深い層まで来ることになって、全方向に注意を巡らせなければならない時間を長時間続けていたのだ。

 今くらいは好きに休ませよう。


「マコト様、食事は私が作ってもいいですか?」

「どうしたんだ急に。それもこんな場所でか?」

「いつもマコト様に頼る訳にはいかないですから」

「それならディアに頼むか。何を作るんだ?」

「……よく考えるとこんな場所だと本当に何も作れませんね。火もろくに使えないとなると保存食をどうにかするくらいしか……」


 どうやらディアはそこまで考えてはいなかったようだ。


「別に腹を膨らませるだけなら保存食で十分だ。今は我慢してくれ」

「ちょっと悔しいですがそういうことにしておきます」


 不機嫌になるディアにも異界倉庫から出した黒パンと干し肉、水を手渡す。

 出来れば野菜なんかのスープがあれば良かったのだが、出発前の誠はそこまで気が回っていなかった。


「あっ、そうだ。そういえばディアに転移石渡してなかったよな」

「えっ?そうですね、私は持っていないですけど……」

「なら持っておけ。使い方はわかるか?」

「それは大丈夫です。ですがどうしてこんな高価な物を?」

「簡単に言うと復讐ついでに拝借してきた?かな。ディアと会う前に丁度、な」

「あの時ですか。それにしても復讐ついでって……私も早くあいつらを甚振って苦しめてやりたいのにマコト様だけ狡いです」


 真面目な顔でディアが復讐を早くしたいと言うものだから誠はつい笑ってしまう。


「ディアも早くやりたいよなぁ?俺だって出来るだけ早く邪神探し(こんなの)終わらせてあいつらのところに行ってやりたいよ」

「マコト様の復讐相手は沢山いるようですからね。力になれるように頑張りますよ。……それはそうと、マコト様は勇者なのですか?」


 確かにその辺の説明はしていなかったなと思い返してみる。

 誠がディアに教えていることなんて復讐の為に生きていることくらいだというのをすっかり忘れていた。


「そういえば何も言ってなかったな。ディアが言う通り俺は勇者だ。……違うな、勇者()()()が正しい」

「勇者だった……? それはどういうことなんですか?」

「えっとな、俺は別の時間軸で魔王を倒した勇者で、その後は揃いも揃って手のひら返しされてな。そいつらに復讐をする為に『強欲』の邪神と契約して召喚された時からやり直して今に至るという訳だ」

「魔王を倒した勇者? やり直し?」


 想像していたことよりも斜め上だったのか、どうやら混乱してしまっているようだ。

 でも俺もそんなことを言われたら同じ状況になる自信がある。

 そもそも誠が説明を省き過ぎている感が否めないが、それを指摘しても仕方ないことだ。


「何から説明したらいいんだこれ……まず、俺は勇者だ。一応な」

「はい、そこは理解しました」

「そして魔王を倒した後仲間だと思っていた奴らに裏切られて復讐することにした。どうだ?」

「…………マコト様が嘘を言っているようには思えませんし、私は信じます」


 異常な程の信頼だったが、それでも話が進むならいいかと考え続けることにする。


「それで『強欲』の邪神と契約して、その力で始めからやり直して復讐をしようとしてる」

「……だからマコト様は勇者だったと言ったんですね。大体は整理がつきました」

「それは良かった」


 今の雑な説明で理解出来る辺りディアは地頭がいいのだろう。

 それに俺自身のことを話しておくのは大切だ。

 いくらマモンを介して記憶を見たとはいえそれだけではわからない部分というものもある。

 これから同じ復讐者として行動を共にするならその思いの擦り合わせをしておくのは悪いことではない。


「それと、俺はあくまで復讐をする為に苦しめ、嬲って殺すんだ。殺すために殺すんじゃない、俺を地獄に落とした奴らだけを選別してこっち側に引きずり込んでやるんだ。だから、余計な奴は殺さない。これだけは俺が俺である為の最後のケジメだと思ってる」

「余計な奴は殺さない……ですか。確かに私たちの食事にゴミが混ざるのだけは死んでも嫌ですね」


 俺達は決して見境なく人殺しをしたい訳では無いのだ。

 ただ復讐という行為に伴って殺してしまうというだけだ。

 だから間違えないように、境界線を見失わないようにしなければならない。

 たとえ身を焦がすように熱い熱に侵されていたとしても、過去を見失ったとしても復讐(これから)だけはこの手で作り出さなければならないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ