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神様の名前探し 2  作者: 山本風碧
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(3)

(なんだか、ぶれてるなあ)


 願いが自分本意なものに変わってしまったようで、気持ちが悪い。自分が自分でないようで気持ちが悪い。そんな薫の憂鬱な内面を表すかのように、雲行きはどんどん怪しくなってきた。


 宗像大社への道を走っている間にも、雲はどんどん厚くなっていく。田舎だからだろうか。雨の匂いが濃厚にしはじめたかと思うと、雨粒が落ちてくる。

 雨粒は大きく、フロントガラスを叩き始める。宇宙が車の窓を閉めると、車の中にはばちばちという雨音だけが広がっていく。


「宗像大社って世界遺産になったんだろ? テレビで特集やってた」


 沈黙が嫌いな宇宙が運転しながら話しかける。

 瑛太は頷く。


「宗像大社は天照大神の娘、田心姫神《たごりひめのかみ》、湍津姫神《たぎつひめのかみ》、 市杵島姫神《いちきしまひめのかみ》っていう宗像三女神を祀ってあるんだけど、今から行く宗像三女神には市杵島姫神が祀ってあるんだ。もう、大分有名な話かもしれないけど、田心姫神は神の島と呼ばれる沖ノ島(おきのしま)の沖津宮《おきつみや》に祀られてある。沖ノ島は島全体が御神体となっていて、今でも女人禁制の伝統が守られている」


 そこで瑛太は外を指差す。見ると海。そこには島が二つ浮かんでいて、左側の大きめの島を彼は指差している。


「湍津姫神は、ほら――あの島――大島《おおしま》に祀られている神様だ。大島は普通に人が住んでいて、フェリーで行き来できるはず」


 そう聞いて薫は不安になる。


「じゃあ市杵島姫だけにしか参拝できない? フェリーは大変だし、沖ノ島は……わたしが無理だ」


 こういうふうに、女だからできないと言われるのはあまり好きじゃない。野球にしろ、相撲にしろ、昔から兄や瑛太だけ許されて、薫には許されないことがある度にどんよりとした気分になったものだ。

 すねかけていると、瑛太が肩をすくめた。


「沖ノ島は男でも簡単には参拝できないから。毎年一回だけ一般人が抽選で参拝できるらしいけど、全裸で禊をして、高い船の運賃を払わないといけないらしいから。ま、貧乏高校生には敷居が高い」

「そうなんだ」


 少し気が楽になった薫は外を眺める。雨はまだ降り続いている。



 *



 大きな石の鳥居をくぐって駐車場に入る。

 これは何百台停められるのだろう。あまりの駐車場の広さに驚いていると、


「交通安全の神様でもあるから、車のお祓いに来る人も多いんだ。正月はJRをはじめ交通関係の会社がこぞってお参りに来るらしい」


 と宇宙が言う。


「道主貴《みちぬしのむち》、か。『貴《むち》』って、最も高貴な神に贈られる尊称なんだ。つまり、ここがそれだけ重要な場所だったってことだろうな」


 念の為に持ってきていた折りたたみの傘が役に立つ。車を降りながら瑛太は呟く。薫も同様に車を降りながら今の話を頭のなかで組み立てるが、どうにも理解できずに首を傾げた。


「みちぬしのむち?」

「宗像三女神の別称」

「別称……別の名前があるわけ?」


 瑛太は頷いた。


「たまにたくさんの名前を持つ神様がいるんだけど、そういった神は強大な力を持つと言われている。だけど名前がどうしていくつもあるのか、って考えるとちょっと興味深いんだよな」


 薫はふと思い出した。


「確か……なんだっけ、そうだ。祇園が須佐之男とか言ってたやつ?」

「牛頭天王《ごずてんのう》ね」

「そうそう、それ!」


 少し前に言っていた気がする。風土記か何かに、祇園精舎《ぎおんしょうじゃ》を守る牛頭天王が、自分が須佐之男だと名乗ったとかなんとかいう話だ。


「古事記は朝廷の作った神話だって言ったろ。薫だったら、もともと祇園――牛頭天王を祀ってあった場所を制圧したいと考えたらどうすればいいと思う?」


 薫は考えるけれど、とっさには答えられない。


「宗教で紛争が起きてるのはなんでだ? 突き詰めると、崇拝している神が違うから、だろ? じゃあ同じであれば、どうなる?」


 瑛太の言いたいことがようやくわかって、なるほどと思う。


「……そっか。余計な武力を使わなくていいってことだ」

「突然やってきたやつに、支配され、更には違う神を祀れと言われたら反発する。だからこそ、別名を使ったんじゃないのかな。名前がたくさんある神様は、たくさんの部族と、彼らが信じるたくさんの神を習合《しゅうごう》し、強大な神として祀られた」


 瑛太は静かに話すけれど、声には力がある。その説に自信を持っているようだった。


「大和朝廷は、武力ではなく、神――神話を使って人の心をまとめる方法を取ってきたんじゃないのかな。この宗像の地は、中国朝鮮への交通の要所で、宗像族が治めていた。そういう地域は他にもたくさんあるけど、制圧に手間取った朝廷の苦肉の策――それが神の統合なんじゃないかって思う」


 瑛太はいろんなことを考えているのだなあと薫は不思議な気持ちになる。

 同じ時間を同じように過ごしてきたはずなのに、どうしてここまでものの見方が違うのだろう。


「相変わらず瑛太は変わったこと考えてるな」


 宇宙が茶々を入れ、話は中断する。

 とたん、薫の目はある表示を捉えた。『御朱印はこちら』という案内だ。


「あ、御朱印」


 案内されている建物は、大きく立派だが、窓が入っていたりしてどことなく新しい。駐車場に面しているから便利だが、もし、本殿がこれなら画期的すぎないか。


「え? ここが本殿?」

「いや、ここは儀式殿で、車のお祓いをする場所だな。本殿は奥」


 宇宙が言い、


「だから御朱印はあとで」


 瑛太が先を促した。


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