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十七話 麗奈救出編(S&G三)

「先攻は俺。一層目のジャンルはファンタジーか。なら、このデッキで対戦、と」


 運命は対戦のために所定の位置へと着くや、空中に表示されたバトル設定を読んでいく。次いで、手元に表示されたデッキ一覧表からファンタジージャンルを。そこに表れたデッキの数々。その数は十二だ。その中の一つを運命は選択した。


 番人のデッキはすでに設定されているのだろう。運命も手早く選んだのだが、番人の前で待機状態になっていた。


 運命がデッキを選択し終わると、すぐにバトルは開始された。運命の前にもデッキが現れ、両者ともにシャッフルが始まる。そして、それぞれに五枚のカードが手札として目の前に。運命の方には直後にもう一枚カードが飛んできた。


「さっさと終わらせる。麗奈も待ってるしな」


 運命は手札を軽く眺め、身体をくねらせ続ける番人を見据えた。すぐに勝負に片を付ける心算のようだ。


 だが、運命の取った行動はまるでそれに沿わなかった。


「ターン終了」


 何もしないのだ。一枚もフィールドにカードを出さない。キャラカードだけではなく、オプションカードさえも。これには後ろで観戦していた冬花も何がしたいのかと呆ける。冬花には運命の意図が全く読めなかった。


「ウフン、イイワ。ナラ、私ハコレカシラ?」


 しかし、番人は冬花とは違い、戸惑いも見せずに気持ち悪い動きとともに二枚のカードをフィールドに放つ。


 キャラカード『最強の守護者 カイト』

 オフェンス能力値一万

 ディフェンス能力値一万

 特殊アビリティ――――

 特殊アビリティ――――


 キャラカード『神龍 ヘル』 オフェンス能力値一万

 ディフェンス能力値九千

 特殊アビリティ――――

 特殊アビリティ――――


 番人はそこから一枚のオプションカードをフィールドにセットし、そのターンを終了させた。


 番人のターンが終了し、運命はデッキからカードを一枚手札に加える。そして、運命は宣言する。終わりを。ターンではない。バトルの終わりをだ。


「残念だったな。お前に、二ターン目は来ない。『連鎖・全解放』」


 運命は手札の全てをフィールドに解き放つ。デッキからの一枚も含め、七枚のキャラカードだ。


 『炎帝 ホムラ』

 オフェンス能力値一万

 ディフェンス能力値七千

 特殊アビリティ――――

 特殊アビリティ――――


 『雷帝 エレク』

 オフェンス能力値九千

 ディフェンス能力値八千

 特殊アビリティ――――

 特殊アビリティ――――


 『地帝 ドング』

 オフェンス能力値七千

 ディフェンス能力値一万

 特殊アビリティ――――

 特殊アビリティ――――


 『風帝 フューネ』

 オフェンス能力値八千

 ディフェンス能力値八千

 特殊アビリティ――――

 特殊アビリティ――――


 『水帝 ミネアラ』

 オフェンス能力値八千

 ディフェンス能力値九千

 特殊アビリティ――――

 特殊アビリティ――――


 『光帝 リーン』

 オフェンス能力値八千

 ディフェンス能力値一万

 特殊アビリティ――――

 特殊アビリティ――――


 『闇帝 ネル』

 オフェンス能力値一万

 ディフェンス能力値八千

 特殊アビリティ――――

 特殊アビリティ――――


「第一の連鎖。この七枚のカードがフィールドに揃った時、デッキから『創造帝 シン』を特殊召喚出来る」


 運命がデッキに手を振りかざすと、そこから一枚のカードがフィールドに放たれる。


 『創造帝 シン』

 オフェンス能力値一万

 ディフェンス能力値一万

 特殊アビリティ――――

 特殊アビリティ――――


「更に、第二の連鎖。帝の名が付けられたカードが一ターンでフィールドに八枚揃った時、オプションカード『八帝』をデッキから発動する事が出来る。これは八枚のキャラカードの特殊アビリティを一ターンだけ全て解放出来るカードだ。だが、それだけじゃない」


 次々にカードをフィールドに展開していく運命。『八帝』のカードに次いで、更にデッキに手を振りかざす。


「『八帝』の真の効果は、デッキからでしか発動しない特殊効果。デッキに残った全てのカードを解放。それに伴い、全てのカードの効果が発動される。これがどういう事か、分かるよな?」


 運命は不敵な笑みを携え、番人を見据えた。その間にもフィールドには次々にキャラカード、オプションカードが展開され、発動していく。もちろん、ストーリーカードも。


「ただし、ストーリーカードに限ってはストーリー展開の関係上、トゥルーエンドへの展開が優先される。トゥルーエンドに導くカード以外はゲームから除外されるって事だ」


 ストーリーカードの一部が淡い光とともに消滅していく光景は、勝利の祝福のようでもあった。


 運命は告げる。麗奈との決勝戦でフェイトとして告げたように。いや、それより酷い言葉で。


「地獄に堕ちろ、くそ変態野郎がっ。てめぇにはそれで十分だ」


 運命が運命では無くなる。吐き捨てるように告げた運命は、腕を頭上に上げて勢い良く振りかざす。その先に存在するのは、番人だった。


 『連鎖・全解放』


 特殊アビリティやオプションカード、ストーリーカードで能力を底上げされた十数枚のキャラカードの容赦のない一斉攻撃。被コスト値に換算して六百九十四。設定コスト値は百。それは明らかなオーバーキルだった。


 ◇


 終わってみれば何とも呆気ない対戦だった。ターン数にして、先攻の二ターン目。早いなどと言える次元ではない。最早、反則チートだ。そうとしか言いようがなかった。


 それは冬花も同じこと。怠そうに近寄ってくる運命に、混乱した様子のまま声を荒げる。


「何なんだ、あれはっ! あの番人は、最高レベルの番人だったはずだろう!? それを……」


「ギャーギャー喚くな、鬱陶しい。まだ、あと九十九戦しなきゃいけねぇってのに一々喚いてんじゃねぇよ」


「か、神野?」


「あんなもん、ただのコンボだ。運が良けりゃあれくらい出来んだ、S&Gは。分かったらさっさと行くぞ。次のステージの扉は開いてんだ。ボーっとしてんじゃねぇよ」


 冬花を黙らせた運命は踵を返し、この部屋の奥にある扉へと向かっていく。


 だが、冬花はその場から動けない。運命の変貌に意識を持って行かれてしまったらしい。呆然と立ち尽くしていた。いや、違う。呆然とではない。恍惚とした様子だ。


 冬花は胸の辺りでキュッと手を握りしめる。何か、言い知れぬ疼きを抑えているようだった。


 苛立った時や気が高ぶった時にする仕草や傲慢な態度。見下すような眼差しや荒々しい口調。あれはまさしく、と冬花は無意識にその人物の名を零す。


「フェ、フェイト……様」


 そこにあったのは、盲目的で盲信的な乙女の顔だった。いや、ただの気持ち悪い幼女か。崩れにやけた表情に涎。デヘヘ、と不気味な笑い声までしている。幼女の姿でもこれはアウトだが、現実の姿なら更に……。想像はしないでおこう。そんなもの、誰も得をしないのだから。


「ちっ、さっさと来い! 置き去りにすんぞっ!」


 冬花のそんな様子に、運命の舌打ちが飛ぶ。


「は、はい。すぐに行きます! 神野、いえ、フェイト様っ!」


 フェイトの名で呼んで駆け寄ってくる冬花に、運命は盛大に顔をしかめる。それはもう、不倶戴天の天敵にでも遭遇したかのように。事実、ある意味そうなのだが。


 運命は無言のまま、開け放たれた扉の向こう側へと去っていく。駄目だ、この生き物とは関わりたくない、そんな心の声が聞こえてくるようだった。


 それからと言うもの、運命は破竹の勢いで次々と番人を倒していった。本来の目的である麗奈救出を急ぐと言うよりは、まるで冬花から必死に逃げるように。その一方、冬花は相も変わらず気持ち悪くも崩れた笑みのまま付き従うのみ。


 運命は逃げる。一階、二階、三階…………、九十八階、九十九階、そして百階、と。


 今し方、百戦目を終えた運命の前方には、パーフェクトクリアの文字が金色に彩られて浮かぶ。何とも目が痛くなる輝きを放つそれは、しかし、運命には関係ない。今の運命に必要なのは、後ろから迫り来る気持ち悪い幼女から逃げること。そして、それに伴って負ったストレスをぶつける相手だけなのだから。


 運命は百階と頂上を繋ぐ階段を駆け上がり、登り切るや頂上の扉を蹴破る。次いで、頂上に押し入って怒号を浴びせる。


「てめぇ、この落とし前どう付ける気だっ!? 覚悟出来てんだろうなっ、あ゛!?」


 どこのチンピラだ。いや、いっそのことヤクザだ。


 運命の後ろで胸キュンしている幼女はこの際気にしない。この幼女は少し病気なのだ。反面教師としてならいざ知らず、通常は参考にする方が間違っている。


 それよりも、頂上に元々居た二人を参考にした方がまだ有意義だ。一人はS&Gでの容姿であるお嬢様な麗奈。もう一人は、麗奈と向き合って座っていた栗毛のショタ、もとい小さな少年。二人は嬉しい事に一般的な反応を示してくれているのだから。そう、驚きや恐怖を。


 特にショタ、少年の反応は素晴らしいものがある。栗毛の髪に一房だけある緩くカールしたアホ毛が、驚きのあまり逆立っている。何より、幼い子供特有の愛らしい天使のような顔立ちは恐怖から強ばり、クリクリとした赤茶色の瞳には怯えによって大粒の涙が。


 どこぞの幼女とは大違いだ。その幼女は、運命の後ろで未だに荒い息を垂れ流しているのだから。


 さて、この状況を生み出した張本人の運命は収拾をつけられるのだろうか。そもそも、収拾をつける気はあるのだろうか。未だ変なスイッチの入った状態やその目がイってるあたり、そんな気は毛頭無いようだ。


 だが、心配は無用だった。何故なら、運命の言動に身体を震わせている人物が一人居るのだから。恐怖ではなく、怒りで。


 カウントダウンはすでに始まっている。もうすぐ収拾はつくだろう。救出対象の手によって。



 これでストックが無くなりました。次の更新は早くて明日か明後日か(^^;;

 取り敢えず、一部完結までの数話は書き切ります。二部はモチベーションも上がらないので白紙に戻します。申し訳ありません。



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