十二話 麗奈救出編(日常が終わった日二)
美羽と別れ、エレベーターに乗った運命。現在、彼はトイレの一室で悶えていた。赤々とした顔を両手で覆っては、天を仰ぎながら。
「なにあれ! なにやっちゃってるんだよ、おれぇ! 死ぬ、あれは死ねる!」
恥ずかしさで地団駄を繰り返す運命は、病室での言動に正しく悶え死にかけていた。実は、エレベーターに乗った瞬間には今のような状態に陥り、急ぎトイレに駆け込んだと言うのが現状だった。
「あれだよ、あれ。なんか変なスイッチ入ったんだよ。厨二病とかじゃないんだ。違うんだよ、全然違う。あれは俺じゃない、俺じゃないぃ!」
誰に対する言い訳なのかは分からないが、どうやら悶死の波が再び襲い掛かってきたらしい。運命は何度目かの悶えを堪え忍ぶ。最早、運命のヒットポイントはゼロだ。いや、ゼロを振り切っているかもしれない。
運命は便器に座って力尽き果てていた。口から何か白い靄が抜け出してきたようにも見えたが、気のせいだろう。きっと、気のせいだ。
そうして、しばらくの間抜け殻のような状態だった運命だが、はっと正気に戻った。
「こんな事してる場合じゃなかった! 早く連絡をっ」
運命は立ち上がるなり衣服を整え、ドアを開く。と、その時、右側のドアがタイミング良く開いた。
「あ、ども……」
知らないおっちゃんだった。いつから入っていたのか、おっちゃんは気まずそうに会釈して手洗い場へと。
固まる運命。
そそくさとトイレから立ち去るおっちゃん。
何かが崩れる運命。
誰もいないトイレ。
「いやぁああぁぁぁあぁぁ!!」
運命はドアを閉めて、そのドアに頭を高速で何度も打ち付けるのだった。
有り得ない。有り得ちゃいけないんだ、と運命は混乱しきっていた。もう、麗奈のことすら忘れていそうな勢いだ。運命が復活するには、もう少し時間が掛かりそうだった。
◇
「はぁ、はぁ……、危なかった。何か、大事な物を失うところだった……」
息を切らして悲壮感を出しながらも、運命は頭を打ち付けるのはやめたようだった。何とか、羞恥心を乗り切ったようだ。
運命は痛みの残る頭を柔らかく押さえ、今度こそトイレを出る。ただし、その際に辺りを見渡すことだけは忘れなかったが。おっちゃん、だろうか。おっちゃんの存在を探したのだろうか。
ホッと運命は胸を撫で下ろす。どうやら近場には居なかったようだ。一般のおっちゃんに怯えると言うのもどうかと思うが、運命にとっては死活問題なのだろう。心底、情けない話だが。
それはさておき、運命は病院受付の辺りにある長椅子に向かって歩き出す。次いで、スマートビジョンを取り出してどこかに掛け始めた。
相手がなかなか出ないのか、発信中の状態が続く。運命が長椅子に腰を下ろした頃、ようやく通話状態となった。
「神楽悪い、寝てたか?」
『いや、今は病院に向かってる最中だ。ちょうど電車降りたところ。お前はどこだ。麗奈がS&Gに』
「知ってる。今その病院にいるから」
運命は神楽の少し焦った口調を遮り、顔をゆがめて言葉少なく答えた。麗奈の寝ている様子がありありと思い出されるのだ。正直、キツいのだろう。
それを神楽も電話越しに感じ取る。神楽は二人がどんな関係か、もちろん知っている。だからこそ、余計に運命の心境を理解出来た。
運命の心境を察した神楽は、声のトーンを若干落として会話を続ける。
『そうか。それで、どうした? 俺に知らせようとしたとかなら、向かってるところだから問題ないが』
「違う。ちょっと俺に巻き込まれてくれないかと思ってさ」
運命は何気なく、されど強い意志のもと、神楽に用件を告げた。だが、これだけでは意味が伝わらない。神楽は訝しむだろうな、と運命は苦笑を浮かべた。
案の定、神楽は聞き返してきた。しかし、そこに含まれた意味は怪訝なものではなく、確認をしているだけのような口調だった。
『どういう意味だ』
「麗奈を助けにいく」
だからこそ、運命は端的にものを言った。神楽ならば、それだけで伝わる、と。
そして、それは正しかった。神楽は僅かな躊躇もなく、了承の意を示したのだから。
『分かった。俺は何をすればいいんだ?』
「神楽は名花に連絡取ってくれ。俺、名花の番号は知らないから。麗奈を助けるために力貸して欲しいって頼んでくれ。集合場所は、国枝病院のロータリーだ。説明はその時に」
『分かった。蒼太の方にはお前が?』
「ああ、用意してもらう物もあるから俺がしとく。……悪いな」
『気にするな。名花と連絡取るから切るぞ。また、あとで』
「頼んだ」
神楽のそれを聞いた運命は、少しだけ安堵の表情を浮かべながら、通話を終了させた。これで一つ目はクリアした、と。まだ、やらなければならないことはあるが、運命は一つ小さく息を吐く。
ピースは揃っている。あとは組み立てるだけ。それで、全ては終わる。
運命は不意に浮かんだその言葉に、もう一度息を吐いた。今度は深く。集中するようにゆっくりと。
そして、運命は蒼太に連絡を入れる。
「蒼太、いきなりで悪い。必要な物があるんだ――――」
◇
国枝病院のロータリーにて。そこにベンツのリムジンで現れた。そして、お抱え運転手によって開けられたドアから、飛び出てくる人物が。
蒼太だ。その蒼太だが、どこか怒っているように見える。頬を膨らませ、眉をひそめているところを見ると、確かに怒っているのだろう。
「もう、運命はいきなり過ぎるよ。せめて理由くらい言ってくれてもいいのに。こっちは用意するの大変だったんだからねっ」
そうなるとやはり蒼太は運命に愚痴った。運命の前で腕を組んで唇を尖らせながら。ただ、それでも言われた物はしっかり用意してくるあたり、素直とも言えた。
そんな蒼太に答えたのは、運命ではなかった。
「何だ、蒼太は説明なかったのか。俺は言われたんだけどな」
「ひどっ! 神楽には言ったのに僕には何も言わなかったの!? 贔屓だ!」
苦笑気味に笑う神楽に、蒼太の非難は力を増す。これには運命も困ったように笑ってしまう。と言うか、笑って誤魔化そうとしているようだった。
「悪い、面倒で。それに、蒼太は言わなくても大差ないだろ? 拗ねるなよ、似合うから」
「今、褒めたようで馬鹿にしたでしょ!」
「いや、そもそも褒めてない」
「運命、あんまり事実を言ってやるな。うるさいから」
「神楽まで!? 本気で怒るよ!?」
軽口を叩く運命と神楽に、蒼太は両腕を振り回してその怒りを表す。ただ、その姿は怒っていても可愛らしさしかなかったが。どうにも蒼太の怒りは黒い笑みでも浮かべない限り、外には伝わらないようだった。
と、そこに横槍を入れてくる女性が一人。
「あー、はいはい。むさ苦しい男三人衆のコントはいいから、私達を集めた理由を説明してよ。麗奈を助けるって、具体的にどうする気? こっちは苛ついてるんだから早くしてよ」
神楽や蒼太と同じく、運命に呼び出された名花だった。その言葉通り、名花は苛立ちを含んだ視線を運命達三人に送っている。
余談だが、今日の名花は緩く巻いた髪を前髪だけ垂らし、あとはポニーテールの要領で束ねているようだ。名花自身が美人とあって、その髪型はかなり魅力的だった。
だが、それも苛立ちがなければの話だ。運命と神楽は肩を組んで名花の様子を囁き合う。
「神楽、何で名花は若干キレてるんだよっ。何やらかしたっ」
「ちげぇよ。あいつ、俺が事情説明するまで麗奈の状況知らなかったから。それで、ああなってんだっ」
「ネットとかテレビでS&Gの事件、大々的に報道してて?」
「らしい。元々、あいつはS&Gにはあんま興味無いからな。麗奈に連れられて夏と冬のイベントに参加するくらいで、VRの方は気になるイベントがあれば参加するって程度らしいし。何より、ゴールデンウイークは寂しい」
「何こそこそ話してるのよ。それと、神楽。あんまり変なこと言ってると、殴るからね?」
と、そこにまたしても名花の横槍が。今度はもっと間近で。具体的に言うならば、肩を組んでいた二人の真後ろ、二人の肩に手を置いた状態でだった。
情けなくも、二人はそれだけでビクつく。首を縦に小刻みに振って、口をキツく閉ざしていた。
だが、なおも締め付けられる肩。冷や汗を垂れ流す二人。どうにも、この状況はすぐには終わりそうになかった。
と、思っていたが。意外にも、蒼太の助け船によって事態は収束する事となる。
「はぁ、話進まないから名花ちゃんもそれくらいにしとこ? 取り敢えず、車に乗っちゃってよ。それから運命に説明してもらえばいいし、ね?」
蒼太は注目を集めるように手を叩き、それだけ言ってリムジンを指差す。そこには、お抱え運転手が後部座席のドアの前で待っていた。
「しょうがないわね」
蒼太の提案に最初に応じたのは名花だった。二人の肩から手を離し、少し興味ありげにリムジンへと歩んでいく。
その姿に、運命と神楽は胸を撫で下ろす。助かった、と。
「二人とも、名花ちゃんだけは怒らせないでよね。二人が物理的に潰されるだけならともかく、こっちにまで火の粉が飛んできたらどうするのさ」
そんな二人に、蒼太は小声で告げた。遠まわしに、あまり馬鹿なことはするな、と。運命も神楽も反省はしているらしく、名花に聞かれないよう小さく謝っていた。
それから場所は移り、移動中のリムジンの中。
「それで? 結局のところ、どうする気なんだ。運命」
リムジンに乗り込んだ四人は、早速本題へと移った。その始まりを切り出したのは、神楽だった。
神楽の問い掛けに、運命は水を口に含みながら答える。
「ん、今から説明する。取り敢えず、最初に役割分担だけ指示しとく。まず、蒼太。お前はもう分かってるよな」
「そだね。僕の役割は、情報収集と物資確保かな? あ、てことはもう役割はほとんど終わってるって感じ?」
最初に話を振られたのは蒼太。蒼太はこれまでの状況と自身の行動を照らし合わせ、その答えを導き出した。
そして、その答えは概ね運命の期待通りのものだった。運命は蒼太に頷いて肯定を示す。ただ、まだ蒼太の役割は終わっていない。それだけは忘れないよう告げる。
「まぁ、大体はそれで合ってる。ただ、まだやってもらうこともあるから、よろしく頼むよ」
「オッケー、頼まれた」
蒼太も軽いノリでそれを承諾した。思いのほか、ノリノリだ。オーケーサインを運命に見せている。
運命はそれにもう一度頷き、今度は名花の方に視線を移した。ただ、どうしてか深呼吸をしてみたり、不安げな表情を見せたりと、挙動不審で気になるが。そうして、何度かそれを繰り返した運命は、ようやくその重い口を開いた。
「そんで、名花。先に言っておくけど、絶対怒るなよ。頼むから、落ち着いて聞いてくれよ?」
「分かったからさっさと言ってよ。何をさせる気?」
視線を向けてきたわりに、視線を合わせようとしない運命に対し、痺れを切らした名花が話を促す。
運命もこれにはさすがに覚悟を決めたのか、意を決して言った。とても馬鹿げた内容を、かなり真剣に。
「名花は、その、何て言うか、詰まるところ、緊急時の戦闘要員だ。要は、S&G社の警備員さんとバトッて下さい」
「……ねぇ、殴っていい?」
当然、名花は怒る。両手の骨を小気味良く鳴らしながら。だが、運命とて言い分はあるのだ。それが如何に情けない言い分だとしても。
運命は名花に怯えながらも、叫んだ。声を裏返さなかったのは、天からのせめてもの情けか。それとも運命の振り絞った勇気の賜物か。
「だから怒るなよって言ったろ!? しょうがないじゃん! 蒼太は喧嘩弱くて出来ないし、俺だってあそこの警備員となんか戦えるかってんだ!」
「神楽がいるじゃない! 神楽にやらせればいいことでしょ! こいつ、何気に喧嘩強いじゃない!」
「神楽にも役割があるんだよ! てか、ぶっちゃけて言えば、神楽がいないとこの作戦の意味が成り立たなくなるんだよ!」
最早、二人のそれは怒鳴り合いでしかない。ただ、名花の目は怒鳴り合いに相応しく据わったものになっているものの、運命の方は怯えに怯えた目となっていたが。
今にも泣きそうな運命。麗奈の時には泣かないとしていたのに、ここで泣きそうとはこれ如何に。答えは心底どうでもいい話である。
と、そんな下らない事を言っていると、名指し指差しを繰り返しされた神楽がその怒鳴り合いに待ったを掛ける。本人をまるっきり無視してんじゃねぇよ、とばかりに。
「おい、その前に俺だってあそこの警備員なんかとはやり合いたくねぇよ。ただのヤンキーとか不良ならともかく、あそこの警備員だけは断固拒否する。あそこの警備員って、自衛隊上がりとかがアメリカの傭兵派遣会社で何ヶ月も地獄の戦闘訓練受けて、そっから更に選抜された精鋭ぞろいの連中だぞ? んなのと戦えるわけねぇだろ……」
神楽は自分で言っていて、げんなりとした様子を見せる。確かにそんな警備員など誰も相手にはしたくない。馬鹿げているにも程がある。神楽の気持ちも分かるし、それは実に正しいものだった。
だが、神楽がそうなのだ。名花がそれを聞いて承諾するわけがない。案の定、名花は全力でもって拒否の意を告げてきた。
「そんなの私だって嫌よ! 神楽が断固拒否する相手なんて、戦えるわけないでしょ! 私これでもか弱い女子高生なんですけど!?」
「いや、お前をか弱いとは言わないだろ。神楽を指一本で瞬殺出来る段階で、か弱いとか本当のか弱い女子高生に失礼だから」
運命は失笑の漏れる状態で名花を諌める。つい先程まで本気で怯えていたはずが、今では生暖かい眼差しを送る始末。これには名花も満面の笑みでもって応えた。ゆっくりとした色気のある口調で、物騒な一言を交えて。
「ぶち殺されたいの、運命?」
「いえ、滅相も御座いません! ただ、麗奈を助けるためには名花さんがやってくれると有り難いってだけです!」
見事なまでの変わり身の早さだった。何なら土下座でもしそうな勢いだ。いくらリムジンとは言え、車でそれは不可能だが。
だが、運命のその言葉に名花の笑みが曇る。何か名花の心を揺するものがあったらしい。
「……っ、分かったわよ。麗奈の名前出すとか、案外、あんたも卑怯者よね」
名花は僅かに視線を俯かせ、それを上げた時には運命に肯定を示していた。麗奈、その名前が名花に覚悟を決めさせたようだ。自他共に認める親友と言う関係。たった二文字だ。その二文字の関係を守るために、名花は選択した。ここで逃げたら、もう二度とその関係には戻れないような、そんな気がして。
ただ一つ言うならば、運命にそんな意図はまるでなかった。つい口から出てしまっただけだ。他意はない。
しかし、それでも名花がやる気になったのだ。ならば、ここは名花の言葉に乗っかるのが得策として、運命は語る。嘘偽りのない本心も交えながら。
「卑怯者上等。麗奈助けられるなら、何て言われようが構わない。何なら、犯罪者にだって成り下がってやるよ。もちろん、お前らも巻き込んでな」
「それこそ上等だ。それくらいの気概が無きゃ、やれないような作戦なんだろ。なら、素直に巻き込まれてやるよ」
それに答えたのは、神楽だ。足を大雑把に組んで、不敵に笑って見せた。蒼太や名花もそれぞれに頷いて笑う。それが当然だと言わんばかりに。
そうして、神楽は本題に戻ることにした。大体の予想は付いているが、直接聞いておきたかったのだ。自分の役割は何なのか。それに付随して、作戦はどんなものなのかを。
「んで、俺の役割ってのは?」
「薄々察してる通り、神楽の役割は得意分野。ハッキングだ。これから行くS&G社から第五サーバーに直接ハッキングしてくれ。可能ならセカンドもどうにかしてほしい」
最後の方は、運命も無茶を承知で神楽に言っている。半分冗談だ。サーバーをハッキングする事は、神楽ならばどうにか出来るだろう。しかし、セカンド自体までとなると、世界有数のハッカーである神楽をもってしても、相応の人員と準備が必要だ。この短時間でそれを行えと言うのも、酷なことだった。
「やっぱ、そうか。まぁ、やるだけやってやるよ。ただし、セカンド本体までは絶対無理だけどな。一人じゃサーバーにハッキングが精々。高望みはするなっての」
神楽は溜め息混じりに苦笑を作る。とは言え、セカンドとの対戦は一度はしてみたいものだとも神楽は考えていた。ハッカーとしての欲求だった。ここでそれを告げることはしなかったが。
「十分だ、よろしく頼むよ」
運命は何とか全員の役割を承諾してもらい、安堵からか短く息を吐いた。次いで、持っていたペットボトルの水で渇いた喉を潤す。ここからが一番重要となる作戦の説明だ。運命は気を張り直すため、もう一度ゆっくりと息を吐く。そして、始める。麗奈救出作戦の説明を。
「それじゃ、作戦の概要を説明する。この作戦はかなりアバウトになるから、そこは肝に銘じておいてほしい。蒼太、データ頼む」
「了解、ちょっと待ってね。ほい、これでいいかな」
蒼太はスマートビジョンを操り、ホログラムの他者可視化を行う。そして、運命に促されてデータを起こした。それはS&Gの見取り図のようだ。
「サンキュ、蒼太。これは見ての通り、S&Gの見取り図だ。まずは入り口だけど、通常の入り口はマスコミとか警察関係なんかで封鎖されてるから、ここは通らない。代わりに、ここ。地下駐車場だ。ここなら、この車で簡単に入り込める。何たって、蒼太の家はS&G社の筆頭株主だからな。IDを見せれば楽勝だ」
運命はホログラムで浮かび上がった見取り図の一部を拡大し、地下駐車場の位置を指差す。次いで、一度蒼太を見て確認する。それで間違いない、と蒼太も頷いた。IDは運転手に渡してあり、運命の言う通りスムーズに事は運べる。
それよりも問題は次だ。入り込めたあと、どうするか。無論、運命はきっちり考えていた。
「それで入り込んだら、次はこの通路を少し行った辺りにあるこの階段。生憎、エレベーターは途中でバレた時に遠隔操作で止められるから危険だし、乗れない。だから、この非常階段を使う。ここなら鍵も掛かってないから、簡単だ」
運命は次々に見取り図でルートを示していく。それを見る限り、運命は目的地までの最短ルートを示していっているようだった。そして、それもあと少しのようだ。運命は最後のルートを指差す。
「ここから地下三階に下りて、目指すはサーバー室。この地下三階に警備員が居るようなら、最初は蒼太の脅しでねじ伏せる。駄目なら名花の出番だ」
「この短時間でよくもまぁ、考えたな」
「素直に凄いわね。単純だけど、ううん。単純だからこそ効率的なのね」
ルート説明を終えた運命に神楽と名花の感心した声が挙がる。頻りに頷いてはルートを確認していた。だが、運命としては納得のいくものではなかったようだ。複雑そうな顔をしている。
「二人が来る前に、蒼太から見取り図データ送ってもらってたから。ただ、かなりアバウトな感じは否めないし、その場その場で臨機応変に動かなきゃいけない。結局は行き当たりばったりの作戦なんだよな」
「運命、良いこと教えてあげる。綿密な作戦は破綻すれば脆いけど、大まかな作戦は破綻してもその場で機転が利かせ易い分、成功し易いんだよ」
「そりゃプロの話だろ。てか、それ言ってたドラマは俺も見たぞ」
「あ、私も多分そうかも」
どこかで聞きかじったような内容を口にした蒼太に、神楽と名花の茶々が入る。そこから話はドラマの方へと逸れていってしまい、なかなか戻ることはなかった。終いには説明していた運命すら話に加わっているのだから、それも当然か。
それから一頻りドラマなどについて話した四人は、本題を忘れていたことに気付く。何ともマイペースな四人である。そして、その緩い雰囲気のまま話は本題へと戻ることに。
「それで、このあとはサーバー室に侵入してハッキングか」
「あ、いや、ちょっと違う。サーバー室に入るのに暗証番号とかIDがいるのか分からないんだ。だからもし必要なら、そこを先に何とかしないと。一応、それに必要な物は蒼太に用意してもらったけどな」
「そんくらいなら、肩慣らしにはちょうど良いか。大丈夫だ、問題ない」
運命と話しながら、神楽は蒼太に手渡されたショルダーバッグの中身を確認する。確かに必要な物は揃っていたのか、神楽は特に何かを言うこともなく、それを閉じた。
「それで? ハッキングしたあとはどうする。何か考えてあるんだろ?」
次いで、神楽は最終的な着地点をどうするのか、運命に問い掛けた。これが一番重要なところだ。これの如何によっては、今回の作戦の有無も変わってくるのだから。
「もちろん。ただ、それはハッキングしてからのお楽しみって事で」
だが、運命がそれに答えることはなかった。何か考えがあるのは分かったが、それを話そうとはしない。話せば止められるような無茶を仕出かす、そう言うことなのだろうか。それを知っている者が運命一人では、何とも言えなかった。
神楽は溜め息混じりに苦笑を浮かべる。見れば、蒼太や名花も同様の態度を取っていた。了承した、と言う意味のようだ。どちらにしろ、ここまで来たら後には引けない。なら、信じて実行するしかない、と。
それに応えるかのように、運命らを乗せたリムジンの速度は上がった。




