↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/4

第2話「初めての魔法」

朝。


アルスは、昨日と同じ部屋で目を覚ました。


「……異世界、か」


窓から差し込む光を見ながら、アルスは小さく呟いた。


昨日までなら、夢だと思っていたかもしれない。


魔法。

モンスター。

見たこともない街。


そして――自分自身の新しい身体。


アルスはベッドから起き上がり、手を握った。


「せっかく二度目の人生をもらったんだ。まずは……この世界のことを知ろう」


◆ 魔法を教えてもらう


朝食を終えたアルスは、昨日の女性に尋ねた。


「魔法って……誰でも使えるの?」


「誰でも、というわけではないわね」


女性は笑いながら答えた。


「人によって得意な魔法も違うし、魔力の量も違うのよ」


「魔力……」


アルスは自分の手を見る。


「俺にもあるのかな?」


「もちろん」


そう言うと、女性はアルスの手を取った。


「目を閉じて。自分の中に流れているものを感じてみて」


「流れているもの……」


アルスは目を閉じた。


何もない。


……いや。


ほんの少しだけ、身体の奥に温かいものを感じる。


心臓の近くから、腕へ。


そして手のひらへ。


「……これ?」


「そう。それが魔力よ」


アルスは目を開いた。


「これが……魔力」


前の人生では、絶対に存在しなかったもの。


それが今、自分の身体の中にある。


「じゃあ、魔法を使うにはどうすればいい?」


「まずは自分の魔力を動かすこと。それから――」


女性が指先を前に向ける。


小さな炎が生まれた。


「魔力に、自分の意思を与えるの」


「……すごい」


炎は彼女の指先で静かに揺れている。


「やってみる?」


「もちろん」


アルスは両手を前に出した。


「……炎」


何も起こらない。


「……もう一回」


何も起こらない。


「炎!」


やっぱり何も起こらない。


「…………」


「ふふっ」


女性が笑う。


「そんなに簡単にはいかないわよ」


「分かってるよ」


アルスは少しむっとした。


「でも……できるようになりたい」


◆ 失敗


それからしばらく、アルスは魔力を動かす練習を続けた。


魔力を手に集める。


集中する。


形を作る。


しかし――


「……また失敗」


小さな光が一瞬だけ現れて消える。


「惜しいわね」


「惜しい?」


「今、少しだけ魔力が動いたわ」


アルスは手を見る。


「本当に?」


「ええ」


その言葉を聞いた瞬間。


アルスの顔に笑みが浮かんだ。


「じゃあ、もう一回!」


何度失敗してもいい。


前の人生では、失敗することが怖かった。


だから何もしなかった。


何かを始める前に、


「どうせ無理だ」


そう思って諦めていた。


でも今は違う。


「……できるまでやればいい」


アルスは再び集中する。


「魔力……集まれ」


身体の奥から何かが流れてくる。


指先へ。


さらにその先へ。


そして――


ボッ。


小さな炎が生まれた。


「……!」


アルスは目を見開いた。


「できた……」


炎はほんの数秒で消えてしまった。


それでも。


「できた……!」


アルスは笑った。


心の底から笑った。


◆ 街へ


昼過ぎ。


アルスは街へ出た。


昨日よりも、少し違った視点で世界を見る。


商人が風の魔法で荷物を運んでいる。


子供が水を操って遊んでいる。


鍛冶屋では炎の魔法が使われている。


魔法は特別なものではない。


この世界では――生活の一部だった。


「面白いな……」


アルスは歩きながら周囲を眺める。


その時。


「アルス!」


後ろから声がした。


振り返る。


そこにいたのは、同じくらいの年齢に見える少女だった。


「……誰?」


「昨日会ったばかりなのに、もう忘れたの?」


少女は少し不満そうな顔をする。


アルスは首を傾げる。


「昨日?」


「……まあいいわ」


少女はため息をついた。


「私はリリア」


「リリア……」


「あなた、今日ずっと魔法の練習してたでしょ?」


「見てたのか?」


「少しだけね」


彼女は笑った。


「炎、小さかったけど」


「……言うな」


アルスは恥ずかしそうに顔を逸らした。


「でも、初めてなら十分だと思うよ」


「本当?」


「うん」


リリアは空を見上げた。


「魔法って、最初から上手く使える人のほうが少ないから」


「そうなのか」


「だから焦らなくていいよ」


アルスは少し考える。


そして笑った。


「ありがとう」


これまでの人生で。


こんな何気ない会話を大切に思ったことがあっただろうか。


◆ 初めての友達


二人は街を歩いた。


アルスはこの世界について質問し続けた。


国。


冒険者。


魔物。


魔法。


そして――


「この世界には、どんな場所があるんだ?」


「たくさんあるよ」


リリアは楽しそうに話す。


「遠くには大きな帝国もあるし、魔物がたくさん住んでる森もある。海の向こうには、私たちがまだ行ったことのない国もあるって」


アルスは目を輝かせた。


「……行ってみたい」


「え?」


「全部」


アルスは笑う。


「この世界を、自分の目で見てみたい」


リリアは一瞬驚いた。


そして――


「……アルスって、変な人だね」


「なんでだよ」


「まだ魔法もまともに使えないのに、世界を全部見たいなんて言うから」


「関係ないだろ」


「ふふっ」


二人は笑った。


その日。


アルスには初めて、この世界で友達と呼べる存在ができた。


◆ 夜


その夜。


アルスは一人で窓の外を眺めていた。


「……友達、か」


前の人生では、何かを失うことばかり恐れていた。


だから人との距離を取った。


傷つくのが怖かった。


でも――


「今度は違う」


アルスは胸に手を当てる。


「逃げない」


その瞬間。


ドクン。


「……っ」


心臓が一度だけ強く鼓動した。


「今の……」


アルスは胸を押さえる。


何だったのか分からない。


ただ――


ほんの一瞬。


身体の奥から、冷たい何かを感じた。


そして同時に。


窓の外にいた小さな鳥が、突然飛び去った。


「……?」


アルスは空を見上げた。


何もない。


静かな夜だった。


◆ 一方、その頃


街から遠く離れた場所。


誰も訪れない古い遺跡。


そこには、巨大な石碑が立っていた。


長い年月によって表面は崩れ、刻まれた文字もほとんど読めない。


――しかし。


その中央に刻まれた奇妙な紋様が、


一瞬だけ淡く輝いた。


「…………」


そして、再び静寂が訪れる。


何も起きなかったかのように。


だが。


世界のどこかで――


何かが、少しずつ動き始めていた。


次回予告


第3話「魔法学院への道」


アルスは本格的に魔法を学ぶことを決意する。


しかし、魔力を測定する日。


アルスの結果だけが――なぜか正常な数値を示さなかった。


「……もう一度、測定します」


そしてアルスの前に現れる、初めての大きな壁。


「魔法が使える」ことと、「魔法を理解する」ことは違う。


アルスの異世界での人生が、少しずつ動き始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。