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第3話「魔力測定」

朝。


アルスはいつもより早く目を覚ました。


昨日、初めて魔法を使えた。


ほんの小さな炎だった。


それでも、アルスにとっては特別なものだった。


「今日はもっと上手く使えるようになるぞ」


ベッドから起き上がった、その時。


コンコン。


扉を叩く音がした。


「アルス、起きてる?」


「起きてるよ」


扉が開く。


「今日は街の魔導師が来る日よ。魔力を測ってもらいましょう」


「魔力を測る?」


「ええ。あなたも一度、自分の魔力について知っておいたほうがいいわ」


アルスは少し興味を持った。


「……俺の魔力が、どれくらいあるのか分かるってこと?」


「そういうこと」


「行こう」


即答だった。


◆ 魔力測定


街の中央にある小さな魔法施設。


そこには数人の子供や若者が集まっていた。


中央には、透明な水晶が置かれている。


アルスは水晶を見つめる。


「これで測るのか?」


「そうだよ」


隣から声がした。


振り向くと、リリアが立っていた。


「リリア!」


「おはよう、アルス」


「君も測定?」


「うん」


リリアは水晶を見ながら言った。


「自分の魔力の量と、魔法の適性を調べるんだって」


「適性……」


アルスは少し緊張した。


前世では、何かを評価されることが嫌いだった。


失敗するのが怖かった。


でも――


今は違う。


「まあ、結果が悪くてもいいか」


「珍しいね」


「何が?」


「アルスがそんなに落ち着いてるの」


アルスは笑った。


「一回失敗したくらいで、人生が終わるわけじゃないからな」


リリアは少し驚いた。


「……なんか、大人みたいなこと言うね」


「そうか?」


「うん」


アルスは苦笑した。


自分でも不思議だった。


前の人生を知っているからこそ、そう思えるのかもしれない。


◆ 最初の測定


魔導師が水晶の前に立った。


「では、順番に測定します」


一人目。


少女が水晶に手を置く。


――淡い光。


「魔力量、平均値。属性適性は水」


「やった!」


少女が嬉しそうに笑う。


二人目。


少年が手を置く。


――今度は赤い光。


「火属性」


「よし!」


次々と結果が出ていく。


そして――


「次」


リリアが前に出た。


「はい」


彼女が水晶に手を置く。


その瞬間。


水晶の中に小さな光が浮かんだ。


一つ。


二つ。


三つ。


やがて――


いくつもの光が水晶の中を流れ始める。


「……?」


魔導師の表情が変わった。


「これは……」


リリアが不安そうに尋ねる。


「何か問題ありますか?」


「いや……」


魔導師は水晶を確認する。


「珍しい魔力反応だ」


「珍しい?」


「詳しい適性はまだ分からない。ただ……」


魔導師は少し考えた。


「星のような反応が出ている」


リリアは目を丸くする。


「星……?」


「現時点では、それ以上は判断できない」


アルスは興味深そうに彼女を見る。


「すごいじゃん」


「そうかな?」


「星の魔法って、なんか格好いい」


リリアは少し照れた。


「……ありがとう」


◆ アルスの番


「次、アルス」


「はい」


アルスは水晶の前に立った。


深呼吸。


そして手を置く。


――。


何も起こらない。


「……?」


アルスは待つ。


五秒。


十秒。


水晶は沈黙したままだ。


周囲がざわつき始める。


「壊れてるんじゃない?」


誰かが言った。


魔導師が水晶を確認する。


「いや、正常だ」


「じゃあ……」


アルスはもう一度手を置く。


「……」


何もない。


「魔力がないの?」


誰かが呟いた。


アルスの表情が少し曇る。


魔導師は首を振った。


「いや、それは違う」


「え?」


「昨日まで魔力がなかった人間ならともかく、この水晶は魔力そのものを感知している」


魔導師はアルスを見る。


「君には魔力がある」


「じゃあ、どうして反応しないんですか?」


「分からない」


その言葉に、周囲が静かになった。


魔導師は水晶にもう一度魔力を流す。


「もう一度やってみよう」


アルスは手を置く。


――その瞬間。


水晶の奥に、


黒い線が一本だけ走った。


「……!」


アルスが目を見開く。


だが――


一瞬で消えた。


「今の……見えました?」


魔導師は答えなかった。


水晶をじっと見つめている。


「……もう一度」


アルスは再び手を置いた。


何も起きない。


「……」


魔導師は困惑した表情を浮かべた。


「測定不能」


その言葉が、部屋に響いた。


◆ 測定不能


「測定……不能?」


アルスが聞き返す。


「そうだ」


魔導師は水晶から手を離す。


「魔力量が低すぎるわけではない。逆に高すぎるとも断定できない」


「じゃあ、どういうこと?」


「水晶が君の魔力を正しく読み取れないんだ」


アルスは自分の手を見る。


「……変なの」


「少なくとも、私が知っている一般的な反応ではない」


魔導師はそう言った。


だが、すぐに表情を柔らかくする。


「ただし、気にする必要はない」


「え?」


「魔力測定はあくまで目安だ。魔法の強さが人生のすべてを決めるわけではない」


その言葉を聞いて、アルスは少し笑った。


「……そうですよね」


前の人生なら。


「才能がない」


そう言われただけで、何もかも諦めていたかもしれない。


でも今は違う。


「俺、自分で確かめます」


「何を?」


アルスは拳を握る。


「自分に何ができるのか」


◆ 初めての練習


その日の午後。


アルスは街の外れにある広場で魔法の練習をしていた。


「火……」


小さな炎。


「もう少し……」


炎が揺れる。


「大きく……!」


ボッ!


炎が少し大きくなる。


「おおっ!」


だが――


すぐに消えた。


「……まだまだだな」


アルスは笑った。


失敗しても、以前ほど嫌ではない。


むしろ。


「次はできるかもしれない」


そう思える。


もう一度。


「火よ――」


その時。


背後から声が聞こえた。


「その使い方じゃ、魔力を無駄にしてるよ」


アルスが振り返る。


そこにリリアがいた。


「リリア?」


「見てた」


「またかよ」


「だって面白いんだもん」


リリアはアルスの隣に立つ。


「魔法って、力を込めればいいわけじゃないよ」


「じゃあ?」


「魔力を流すんじゃなくて……」


彼女は手を前に出す。


小さな光が生まれた。


「イメージするの」


光が少しずつ形を変える。


球体。


そして――


小さな星の形になる。


アルスは驚いた。


「すごい……」


「魔法は、自分がどうしたいのかを魔力に伝えるものだから」


「イメージ……」


アルスは目を閉じた。


炎を想像する。


ただ燃やすのではなく。


そこにある熱。


光。


動き。


すべてを想像する。


そして――


「……!」


指先に炎が生まれた。


昨日より大きい。


「できた……!」


しかし、その炎の中心に――


ほんの一瞬。


黒い影が混ざった。


リリアは気づかなかった。


アルス自身も。


炎が消えた後には、何も残っていなかった。


◆ 夜の異変


その夜。


街は静かだった。


アルスはベッドに横になっていた。


「魔力測定は失敗……か」


少し考える。


でも。


「まあ、いいか」


測れなくてもいい。


分からなくてもいい。


自分で少しずつ知っていけばいい。


そう思った瞬間。


ドクン。


心臓が強く鳴った。


「……またか」


胸に手を当てる。


昨日と同じ。


一度だけ。


強い鼓動。


しかし今回は――


その直後。


アルスの指先に、小さな黒い光が現れた。


「……?」


アルスが見る。


黒い光は、まるで何かを探すように揺れ――


消えた。


「……なんだったんだ?」


答えはない。


ただ、アルスはまだ知らなかった。


今日の魔力測定で、


水晶が読み取れなかったものが何だったのか。


そして――


彼の身体の中には、自分自身さえ知らない何かが眠っていることを。


次回予告

第4話「初めての冒険」


街の近くで魔物が目撃される。


アルスとリリアは偶然、その現場に遭遇する。


まだ戦い方も分からないアルス。


しかし、魔物が彼を見た瞬間――


その動きが止まった。


「……なんで、あいつ……俺を見てる?」


初めての実戦。


そして、アルスの身体に眠る力がほんの少しだけ姿を見せる。

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