↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
81/110

第81話

 カノン班はゴクリと唾を呑み込む。彼女の放つ一言一言が泡のように消え入ってしまいそうな儚さを備えている。それと目の前の非現実的とも言える映像が相まって、カノン班に夢のような錯覚を与える。


「あなたたちが来てくれて本当に良かったわ。私は水の中でしか動けないから、いくらリリアを探したくてもできなくて……。とてももどかしかったの」


 本当に心配していたのだろう。セフィアは表情を歪め、伏せた目から青い雫が零れ落ちた。それが彼女の流した涙だということに気付くのに数秒かかった。


「青い涙……?」


 目を瞠るツバサに、目元の涙を細い指で弾いたセフィアは微笑んだ。


「人魚の涙は人間のものと違って青いのよ。昔はね、もっと人魚も棲んでいて、彼らが流した涙の分だけ水が青くなっていったの。今では私しかここにいなくなってしまったのだけどね」


 寂しそうに笑うセフィア。彼女が仲間から離れてもこの場所を動こうとしなかったのは、恐らく愛娘のリリアがこの地にいたから。


「セフィアさん、クロードさんをご存知ですよね?」


 ツバサの問いかけにセフィアは、勿論、と頷く。事態は緊急を要する。ツバサは早速本題を話し始めた。


「クロードさんが作成した〝人魚の涙〟という作品が今どこにあるかご存知ですか?」


 緊張で喉が渇く。目の前にたっぷりある美しい水を全て飲み尽くしてしまいたいほどに。


「ええ、知っているわ。それは――リリアが持っているわ」


 カノン班は顔を見合わせる。昨晩ツバサが立てた仮説は正しかったのだ。


「リリアはそれをどこに持っているかご存知ですか!?」

「多分、宝石箱の中だと思うわ。あの子、大切なものは鍵のかかる宝石箱の中に入れるって言っていたから。本当は肌身離さず持っていたかったのかもしれないけれど、首から提げていても知らない間にチェーンがはずれてしまったり、人魚になった時にどこかも知らないところに身に付けているもの全て転送されてしまったりして失くしたら嫌だからって。でも宝石箱の鍵はネックレスにして服の中に提げていたみたいだけれど」


 となると次の疑問は、そもそもなぜ〝人魚の涙〟がミスティ湖に沈んでいたのかということだ。それを先回りするかのように、セフィアは語を紡ぐ。


「十五年前、丁度今のあなたたちくらいの年齢の少年が〝人魚の涙〟をミスティ湖に投げ入れたの。なぜかは分からないわ。でもきっと、クロードが彼に頼んだのよ。彼がリリアを置いて私に背中を向けた時、彼は二度と戻って来ないような気がした。それから三十分後くらいかしら。激しい轟音とともに街は見ていられないほど眩しい橙に包まれて……。クロードはミスティ湖にもう戻れないと判断して、その少年に〝人魚の涙〟を託したのだと思うわ……」


 過去を思い出し、セフィアの瞳からは絶えず青い雫が零れ落ちる。それは音も立てずに湖に落ちて同化した。


「最後にもう一つ教えて下さい。十五年前、クロードさんはセフィアさんやリリアを置いて危険な街に戻った。三人の生存より優先して戻らなくてはならなかった理由は〝人魚の涙〟ですね?」


 セフィアは静かに頷く。これからツバサが口にするのは、最後にして最大の疑問。彼女の首肯を確認し、ツバサはそれを言葉にする。


「なぜ〝人魚の涙〟という危険なものを取りに戻る必要があったんですか?」


 風が一時止み、湖も細波一つ立たない。ツバサたちのいる空間が見えない力によって意図的に作られたのではないかと思わせるほどの静寂。そんな中、セフィアは呼吸を整えるように一拍置き、ツバサたちカノン班全員を真っ直ぐ見据えて口を開いた。


「それは――――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。