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第80話

 モカが出て行ってから約二時間後、ツバサたちカノン班はミスティ湖にいた。目の前に広がるはコバルトブルーに輝く穏やかな湖、それを囲うように埋め尽くすライトグリーンの柔らかな苔。ここへ来たのには、ある目的がある。


 先ほどまでは強い風が吹いていたというのに、この場所はさほどではない。周囲の樹木に守られているからだろうか。


 ツバサは淵に跪き、水面をじっと覗いた。映る自分の顔の奥、見えない湖の底。カノンたちは背後で立ったまま様子を見ている。ツバサはスッと息を吸い込んだ。


「リリアのお母さん、いたらお話聞かせて下さい! リリアが誰かに攫われてしまいました。おれたちは彼女を助けたいんです! どうか力を貸して下さい!!」


 穏やかだった水面が僅かに揺らぎ、コバルトブルーの湖の中に何かが映った。それは徐々に近付き、ぼやけていた外郭が露わになる。ツバサの目の前の水が隆起し、静かに上品に彼女は姿を現した。


 本当にいた! そう思ったのはツバサだけではない。ラックは、すげぇ……、と漏らし、さすがのカノンも本物の人魚を前に言葉を失っている。


 長く艶のある髪、芯の強そうなシーブルーの瞳、白雪の肌。リリアは間違いなく母親似だと断言できる。膨よかな胸を覆う大きな貝殻、華奢な体、水の中に透ける下半身の尾ひれは、童話で知る人魚そのものの姿。


 ワンレンの髪を耳にかけ、目の前の人魚は愛おしそうにツバサを見つめる。


「ツバサ……よね? あなたが湖に投げ込まれる前、リリアがそう叫んでいたわ」


 後方にいたカノンもラックもダイスもツバサの左右にやって来て、間近で人魚を視界に捉える。


「あの時湖に沈んだおれを助けてくれたのは、あなただったんですね」


 ツバサの台詞に人魚は微笑で返す。


「ちゃんと話すのは初めてね。私はセフィア。あなたたちが認識している通り、リリアの母親よ」

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