第59話
ゼノンが通り過ぎてから二十分後、ディノは呼ばれて二階へ上がった。二十代半ばの真面目そうな男性秘書が出迎える。そこでディノは思わず秘書を凝視した。
胡散臭い。
どこがと問われても答えに窮してしまうが、それでも目の前の秘書からは何となく真面目さが感じられない。インテリアイテムであるグレーフレームのメガネをかけているのだが、なぜ胡散臭く映るのだろう。昔はこんな秘書を雇っていただろうかとディノは小首を傾げる。
プレジデントルームへ案内され、ディノはノックしてから部屋に入った。秘書が一緒に入らないところを見ると、エルイ=スラッファが予め人払いをしてくれていることが窺える。
プレジデントルームはあまり広くない。横に長い長方形で、床には臙脂色の絨毯が敷き詰められている。左奥にデスクがあり、正面には来客用のテーブルとその両脇に二人がけの黒いソファが配置されている。
ディノはデスクからソファに移動する父親の姿を視界に映す。パリッと着こなされたチャコールグレーのスーツ、品の良いワインレッドのネクタイ、きれいにまとめられた髪。
挨拶のために三日前に会ったばかりだが、その時ディノは三班の中の一人として埋もれており、会話すらできなかった。しかも班の中で最も若かったため、後方に控えていて父親の姿をよく見ることができなかった。
ちゃんと会うのはWGSに入学してから初めてだ。まだ一年半しか経っていないが、随分と久しい感じがする。目尻に浮かぶ皺が以前より増えたような気がした。
「久しぶりだなディノ。前より少し逞しくなったか」
エルイに手で促され、ディノは右側のソファに腰かけた。テーブルを挟み、父親と対面する。
「久しぶり。ちょっとは筋肉ついたよ」
腕を曲げて見せる息子にエルイは軽く笑う。
「で、話って何だ? 悪いが時間が長く取れなくてね」
ディノは座り直し、真面目な表情で父親に対峙する。
「〝人魚の涙〟について」
ディノはその言葉を出したらエルイは僅かでも驚くと思っていた。しかし彼は眉一つ動かさず、変わらぬ平静さを保っている。ディノがここへ何を訊きに来るかを粗方予想していたということか。
「今ここに保管されてるらしいけど、是非見せてほしくてさ」
「それはできない」




