第60話
「どうして?」
「まだ鑑定中だからね」
ふーん、とディノは鼻を鳴らすが、内心では酷く落胆していた。息子であろうと本当のことは言えない。今目の前にいるのは父親としてのエルイではなく、セルバーンのプレジデントとしてのエルイ。そしてディノは息子としてではなく、依頼を受けたWGS生としてこの場にいるとエルイは認識しているのだ。
「依頼を受けた湖の監視だけど、いつもいた団体が今日になっていなくなってた」
「そうか……」
エルイは眉を顰める。何か熟考しているのが窺える。彼が何かを隠しているのは明白だ。
ディノは僅かに目を細め、それから肩の力を抜いた。
「父さん、俺だったら父さんの味方になれるよ」
伏し目がちだったエルイの顔が上がる。彼の瞳が真っ直ぐにディノを見据える。
「父さんがもし何か隠していることがあれば、それはきっとセルバーンのため。俺さ、小さい頃から父さんのことずっと尊敬してて。いつもセルバーンの国民のことを一番に考えて、一生懸命働いてる父さんのこと誇りに思ってた。それは今も変わらない」
ディノはそこで一度区切ってから、笑顔を浮かべた。
「父さんが何か悩みとか抱えてるなら、俺力になりたい。今はもう昔の幼い俺じゃないよ。WGSで常にA判定を取る班の一人。各国の要請にも応えられると判断されて派遣されてるプロだ」
エルイの眼差しが柔らかくなる。ディノの成長に父親として嬉しく思っているのだろう。
「セルバーンのために何かしたいのは俺だって一緒だよ。プロだから守秘義務もきちんと守る。だから父さん、俺にも協力させてよ」
「ディノ……」
ディノは解っていた。相手がプレジデントとしてこの場にいる以上、いくらこちらの把握する事実を並べ攻めても口を割らない。否定されるか、証拠を以ってしても沈黙を貫かれるのがオチだ。であれば、相手の感情に訴える方が有効である。相手の思いに同調し、自分が敵でないこと、味方になればどれだけメリットがあるかを伝える。
ディノにはWGSという優秀な人材が集まる組織の中でA判定を常に取っているという実績がある。これは大きなアドバンテージだ。
「お前は父さんが思っていたよりも成長していたらしいな……。信じられる、お前ならできるかもしれないと思わせられるよ」
ディノは静かに頷き、エルイの言葉を待つ。彼は強い意思をその瞳に宿し、口を開いた。
「父さんは〝人魚の涙〟を狙う輩より先にそれを入手しなければならない。――〝人魚の涙〟は世界を一瞬で崩壊させるだけの力を持つ危険な代物なのだよ」




