第58話
ディノはツバサとの電話の後、単身でドロマ地区からケントロ地区へ向かった。
許可が下りるまでは任務地を離れることなど許されない。そのため班の残りのメンバーを残して、ディノだけがセルバーンの中央区であるケントロ地区へ向かうことにしたのだ。それに、プレジデントである父親と話をするのに自分だけいれば充分だと思ったことも理由としてある。
WGSの制服を身に纏うディノは、路面電車が走ったり、今時の服装を身に付けた人々が行き交ったりするケントロ地区を歩いていた。買い物に来ている他のWGS生も少なくない。ディノが向かうは、プレジデントがいて、更に〝人魚の涙〟が保管されているとされる議会所だ。
議会所は国の方針や政策を決めるために利用される施設である。古びたロマネスク様式の建物で、厳かな雰囲気が漂う。セルバーンの国自体がそんなに大きいわけではないので、議会所も二階建てのシンプルなものだ。ディノの父親であるエルイ=スラッファはこの議会所で一日の半分以上を過ごす。
本当であれば実家に赴き、母親や弟妹の顔を見たかったが、今はそんな悠長なことをしている場合ではない。ディノは溜息を漏らしながら、議会所の幅広の階段を上る。
受付でWGSの学生証を提示し、父親との面会を請う。秘書に連絡を取ってもらい、三十分後に十五分だけ時間を取ってもらうことができた。
ディノが受付横のダークブラウンのソファに腰かけて待っていると、入口から随分と若い少年が入って来た。年齢はディノと同じくらいに見える。銀髪に真紅の瞳。年の割に落ち着いていて、怜悧な顔つきがより一層その印象を強める。彼の後ろにベージュのスーツを着たグラマーな女性が一人付いている。隙がなさそうで、近寄りがたい。
ディノはその少年を目で追いながら、受付の女性に声をかける。
「すみません、あの子って誰か知ってます? ノーパスで議会所に入ってますけど」
受付の女性は、あら知らないの? と言って話し始めた。
「前回の選挙の時に議員になった子でね、名前はゼノン=リーヴァって言うの。賢くて大人顔負けの弁論にあの整った容姿。ファンも多くて、大多数の票を獲得して議員になったのよ」
しかも時々とっても可愛い笑顔を見せるのよ、と女性は実に楽しそうに話す。彼女もゼノンのファンらしい。
「どうしてゼノンは議員になろうと?」
「選挙前の演説では、セルバーン国民がもっと元気になれるような国づくりを手伝いたいって言ってたわよ。セルバーンって十五年前に敗戦してから実質的にノエール国の植民地になってるじゃない? 今のセルバーンに不満を持ってる層も少なくないのよ。そういう人たちも笑って暮らせるような、より良い国をつくりたいと思っている優しい子なのよ、ゼノン君は」
ディノは、ふーん、と鼻を鳴らす。




