第49話
「おれ、年の離れた兄貴がいるんだ。兄貴はWGSを主席で卒業して、今はある国で参謀やってる」
「優秀なのね」
ツバサは苦笑する。
「でも、優秀過ぎるが故に何を考えているのか解らない」
リリアは意味が解らないといったように、首を傾げている。
「兄貴が参謀やってる国は、おれの国と敵対関係にあるんだ。兄貴は目標を達成するなら何を犠牲にしても構わないと思う人間でさ、自分の努力も惜しみなく注ぎ込むし、一方で人の命でさえもモノと同等くらいにしか思ってない冷酷な生き物なんだ。そんな奴だからさ、敵国と契約したってことは、それが有益だと判断したってことなんだと思う」
「…………」
「もう五年も前になる。兄貴が突然家に帰ってきて、父さんも母さんも喜んでた。久々に家族四人で食事ができるって。その時はまだ兄貴がどこで何してるかなんて知らなくてさ。楽しい食卓を囲んだよ。でもその一週間後、おれは地獄を見ることになったんだ」
リリアの瞳が一瞬揺れ動いたのを捉えた。ツバサの話に不安を抱いていることが分かる。
「おれが学校から帰ったら、母さんがいつものように出迎えてくれた。でもどこか違和感を覚えて……」
ツバサは奥歯を噛みしめ、拳を握りしめた。
「それ、母さんじゃなかったんだ!」