第50話
「どういう……こと?」
「それは母さんを模した、母さんの行動パターンをプログラムされた人造人間だったんだ」
「!?」
「おれが学校、父さんが会社に行ってる間に、兄貴が母さんを拉致。……あいつは母さんの脳をいじってデータ化して、人造人間に母さんを……母さんの魂をチップのように埋め込んだんだ!!」
リリアが思わず両手を口元に当てる。想像を超える非道さに瞳孔が拡張する。
「どうしておれがそんなこと知ってると思う? ……あいつがわざわざおれに教えに来てくれたんだよ。『母さんどうだった? 巧く機能してる?』って」
今思い出すだけでも、腸が煮えくり返る。だが何よりも悔しいのは、母親がすり替わっていることをツバサ自身が見抜けなかったことだ。何となく違う気はしていたが、顔も声も一緒で、気のせいくらいにしか思っていなかった。
「それから家族は崩壊したよ。父さんは抜け殻のようになって暫く仕事を休んでた。でも、ある日突然仕事を再開したんだ。本当にただ仕事をするだけの人間。母さんがいなくなった喪失感から一切の感情が欠落して、言われたことをこなすロボットみたいになっちゃってさ……。人形みたいに魂のない目をしてるんだ。家には母さんの人造人間が居座ってて、まるで本物の母さんのようにおれを出迎える。あまりに精巧な作りをしてるから、もしかしたら本当の母さんかもしれないって期待がよぎって無下にもできないから、性質が悪い」
ツバサは拳を握り締め、奥歯を噛み締める。
「おれは絶対あいつを許さない! あいつを叩きのめすために、おれはWGSに入ったんだ。あいつに対抗する知恵と力を身に付けるために!!」
感情が高ぶり思わず叫んだツバサは、ふと我に返ってリリアに目を向けた。怯えているかと思ったが、彼女はツバサを真っ直ぐ見つめて、自分の痛みであるかのように呟く。
「辛いわね」
その言葉は、ツバサの中の様々な思いを溢れ返らせるには充分だった。鼻の奥がツンとし、一気に感情が涙となって零れ落ちそうだった。
しかし、実際に零れるよりも前に背後から複数人の足音が聞こえてきて、ツバサは俊敏に振り返った。今のリリアの姿を見られてはマズいと思ったのだ。
ツバサの視界に映ったのは、三十代、四十代くらいの男女四人。手には金属バットを持っているから穏やかでない。
ツバサは立ち上がり、こちらを囲むようにやって来る連中を睨み付ける。
「こんな場所でこんな時間に何の用ですか」




