第48話
「ずっとそんな風に生きてきたから、女学校のクラスメイトには陰で、態度が上からだとか、みんなのことをバカにしてるとか言われてて、人にそういう接し方しかできなくなってた。そんな時、わたしにやたらと関わりたがる人に出逢ったの」
リリアはずっと外していた視線をツバサへ向けた。一瞬ドキリとする。
「わたしはいつも通り、向こうから自然に距離を取ってくれるように冷たい態度を取ってたはずだった。なのに、あなただけは違った。両親がいないと話した時の返答、パイプオルガンの時の反応。それと、まるでわたしの心を見透かしているような言葉。わたしが人との関わりを怖がっていることを正面から言ってきたのは、あなただけよ」
微笑するリリアの頬は薄らと紅潮している。
「本当は嬉しかったの。でも、あなたを信じて裏切られるのが怖かった。わたしは臆病だから、あなたから優しくされても突っぱねることしかできなかったの……。でも今、わたしのこの姿を見て、あなたは拒絶しなかった。わたしにはそれだけで充分過ぎるくらいよ」
聖女の微笑み、否、〝人魚の微笑み〟かもしれない。姿は変わっても、彼女の心の底から湧き上がる微笑みは、眩しいくらいに可憐で、美しい。
ツバサの胸の高鳴りは先ほどから止むことを知らない。
「ねえ、セレティスさん」
「リリアでいいわよ」
予想しなかった許可に内心舞い踊りながら、唾を呑んで早速名前で呼んでみる。
「じゃあお言葉に甘えて……、リリア、ちょっとした疑問なんだけど、陸で呼吸できてるってことは肺呼吸? 水の中では皮膚呼吸?」
「さあ……? 実はこの姿になって水の中に入ってみたことって一度もないのよね。どうなのかしら?」
二人は少しだけ他愛もない話をして笑ってから、一区切りついてリリアがツバサを見つめる。本人は意識していないだろうが、上目使いがとても気になる。
「ねえ……、ツバサはどうしてWGSに入ったの?」
リリアは、別に話したくなければ無理にとは言わないけれど、と付け加えた。
ツバサは少し逡巡してから、自分の過去を彼女に話すことにした。彼女は自分の秘密を打ち明けてくれたのだ。ツバサもそれに応えたいと思った。




