第31話
自分がしたいと思うように行動すればいい。ツバサはそう思う。しかし、言うのは簡単だが、実際にはとても難しい。様々な制約や障壁があり、それを乗り越えなければ手が届かないからだ。
だが二つ、それらを簡単に越えられるものがある。〝意思の強さ〟と〝覚悟〟だ。それがどうしても自分の成し遂げたいことであり、更に成し遂げる過程でどんなことが起こったとしても受け入れる覚悟さえできていれば、自分の望む通りに行動することは左程難しくない。ツバサは自分の経験からそう考えている。
リリアが世界に旅立つためには、マザーへ恩返しをしないと割り切るか、マザーへの恩返しがこの教会にいて修道女になることではないと理解するかのどちらかが必要となる。世界を回り、貢献するということは、実家に戻る機会はほぼなくなるということだ。それに生きて戻って来られるかさえ不確定である。勿論家族の情報が入って来るのは遅くなる。年を重ね、マザーの体が不自由になったとしても助けられない、死に目にも会えないかもしれない。それでもいいと切り捨てる覚悟が必要である。
だがそれはリリアが決めることだ。ツバサがいくら考えても仕方のないこと。それより、ツバサには気になることがあった。
一口紅茶を含み、話を切り出す。
「依頼のあった護衛ですが……、それについてマザーは何か相談を受けていたんですか? 周囲で誰かから襲われたとか、ストーカー被害に遭っているとか……」
カノン班がここへ来るための〝護衛〟という依頼は、リリアが特段の理由もなく作り上げた話なのか、それとも……。
ツバサの問いかけに、マザーは伏し目がちに心配そうな表情を浮かべる。瞳が僅かに揺れ動く。




