第30話
マザーの瞳の奥に宿る母性のようなものを感じ、ツバサは小首を傾げた。それに気づき、マザーは語を継ぐ。
「あの子には両親がいないのです。――ミスティ湖の近くに捨てられているのを偶然私が見つけました」
ツバサは紅茶を静かに啜りながら、マザーの話に耳を傾ける。
「私が母親代わりにリリアを育てました。ですが、血の繋がりというものはどうすることもできないようですね……。教会にも時々相談にいらっしゃる方がいます。夫婦の間にお子さんが宿らず、それでも親になりたくて施設からお子さんを引き取って育てたと。愛情を沢山注ぎ、大切に育てたつもりだった。それでも、育ったお子さんは生みの親を探そうとするのだと。リリアは私のことを本当の母親のように大切にしてくれます。ですが、ふとした時に寂しそうな表情を見せるのです。遠慮があるのか、あまり甘えることもしません。元々勘の鋭い子でしたし、最初から教会で育った彼女は、私が本当の母親でないことはすぐに分かったのでしょう。リリアは優しい子です。そのことに言及してしまったら私が傷つくと思ったのか、あの子からその手の話をされたことはありません。でもだからこそ、あの子はいつも独りなのです。真の意味でリリアを理解できる人はいません。彼女もそのことを理解しています。だから人といつも一定の距離を取り、深入りはしない。女学校の友達もどこか上辺の付き合いで、彼女たちからするとリリアは付き合いにくい存在だと思われているのだと思います」
リリアが強がる理由。生まれた時から孤独であった少女は十五歳になった今でも、虚勢を張らずには生きていけない。弱さを見せてしまったら最後、リリアという人間が崩壊してしまう。彼女はそれを恐れているのだ。
「そんなリリアが最近凄く嬉しそうな表情を見せたのが、外の世界を見られると知った時でした。護衛をして下さる方々は世界中を旅する船に乗っていて、様々な土地で人助けをしているのだと。今回依頼するにあたり、その船に少しだけ乗せてもらえることになったのだと、それはもう嬉しそうで……。そこで思ったのです。リリアはここに留まるより、広い世界を見て回る方が幸せなのではないかと」
「今の言い方だと、セレティスさん自身がここに留まることを希望しているように聞こえたんですが……?」
マザーは苦笑を浮かべながら、静かに息を吐いた。
「実はこの教会では、自分が今後どのように生きていくか、十五歳で決めなくてはなりません。正式に修道女となるのは十六歳からで、それ以降は俗世を捨て、神のため、迷える子羊たちのために務めます。修道女になったらもうこの地から離れることができません。育てた私に恩を返すため、リリアはここで修道女になると言ってくれていますが、本心ではもっと違う世界を見てみたいと思っているのではないかと、そう思っているのです」
半分ほど紅茶が残ったティーカップを掴むツバサの両手に力が入る。




