第102話
「急げ――――!!」
ラックの大声で各々の速度が更に上がる。足がもつれて転げ落ちそうになるのを何とか気を付け、素早く下る。背後からは熱気が押し寄せてくる。
「ツバサ!」
後ろに振り向いて状況を確認したらしいリリアが叫ぶ。
「爆発の炎が迫ってる!」
「何!?」
一体どんだけ強力な爆弾作ったんだよ!? 火薬の量、間違えたんじゃないか!?
呼吸を荒げ、背後から爆風を纏って迫り来る炎から逃げる逃げる。肺が苦しい。死にそうになりながら必死に下り続ける。
「追いつかれるわ!」
ツバサの肩を掴むリリアの手がギュッと握られた。と思ったら、時計塔の出口が視界に入った。あと一回折り返せば外に出られる。しかし背後からは容赦なく熱風が吹きつける。
「あと少し……!」
ツバサは階段を下り終え、外に向かって直走る。外は外で混乱しているらしく、人々が逃げ惑う様子が断片的に映る。炎はすぐ後ろに控えている。
「リリア前に来て!」
ツバサはそう叫ぶと、首に回されていたリリアの細い腕を前方に引っ張り、彼女の体を強制的に前に持ってきた。そのまま全速力で走る。
直後、ドゴ――――ン! という轟音とともに、ツバサの体は爆風で時計塔の外へ吹き飛ばされた。リリアを守るように背中を丸める。
時計塔の入口は爆発によって崩れ去り、灰色の煙が辺りを包む。
爆風により飛ばされている最中に意識的に体を反転させたツバサ。そのお陰で、時計塔正面の建物に激しく背中を打ちつけたのはリリアではなく、ツバサだった。
「ツバサ……?」
弱々しく瞳を開けたリリアが、自分を庇うように抱いてくれているツバサに声をかける。
「ねえツバサ、大丈夫? ツバサ……?」
だが彼から返答がない。リリアの声が震える。
「ツバサ……、ツバサ、ねえ……目開けてよ……」
泣きそうな顔でツバサの胸に縋るように手を当てるリリア。
街はバアル地区に流れる水にポンプを浸し、消火活動に当たっていた。そのお陰で濃い煙が徐々に薄まり、カノン、ラック、ダイス、ディノの四人が二人を見つけてやって来る。
ラックは、煤に汚れ怪我を負うツバサとリリアを視界に捉えた時、息が詰まり、表情が固まった。近寄り、ツバサの体を揺する。
「おいツバサ……嘘だろ……? ツバサ、ツバサ―――――!!」
ラックが腹の底から喉が枯れるほど大声で叫んだ。リリアは咽び泣く。
「嘘……だろ?」
ディノも呆然とその場に立ち尽くす。カノンは唇を噛み、押し黙る。
暫し、誰も何も言えなかった。ダイスに至っては呼吸すらままならなかった。自分の作った作品でツバサが……。
「――ゴホッゴホッ」
突如、魂が吹き込まれたかのように派手な咳をした人物。煤で顔が黒ずんでいる彼が、薄目を開ける。
「ツバサ!」
リリアもラックもその場にいた全員が、ツバサが目を覚ましたことに安堵し、笑顔を見せる。
「ツバサ……良かった……!」
リリアはツバサを優しく抱きしめ、
「ったく無茶しやがって!」
ラックは目尻に薄らと溜まった涙を弾き、
《ツバサ殿ー、生きてて良かったのだー!》
ダイスは濁声で喚き散らし、
「バッサーは悪運強いからねー」
カノンは言葉の割に柔らかい表情を浮かべ、
「ツバサは死にそうにないと思ってたよ」
ディノは湿った瞳で笑っていた。
そんな彼らをぼんやりと眺め、ツバサは弱々しく微笑む。
「おれのこと、勝手に殺さないで下さいよ」
消火活動の甲斐あって、そろそろ時計塔は鎮火しそうだった。




