第101話
「隊長、どうするんですか!」
カノンに注目が集まる。彼女は組んでいた腕を解いて高らかに言い放った。
「プランDで行くしかないでしょー」
「プランD!? それって……」
ツバサは定期テストを思い出す。プランDとは確か……。
「戦略的撤退!?」
「その通り! 早く逃げるよー」
カノンはさっさと一人で逃げようとする。
「ちょ、ちょっと待って下さい! ここにいる人たちどうするんですか!」
ツバサが敵方を指差す。カノンは振り返り、ツバサを見据えた。
「バッサー、冷静になるんだよー。ラックンが風のスペルカード使えば、ここにいる人たちくらいだったら地上まで移動させられるでしょ。コントロールは難しいけど、ラックンだったらきっとできる!」
ビシッと親指を立てられ、本当は置き去りにしようとしませんでした? という言葉を呑み込み、ツバサはラックに視線を移した。すると彼は生命の危機を感じているのか、カノンに言われてすぐにカードを取り出していた。ツバサはそれを見て、急いで敵方を一つの場所へ集める。カノンは文字盤に数発発砲。下半円分のガラスが砕け散り、そこから瞬く星々、丸く光る月、それらを覆う銀色の雲が顔を覗かせる。
準備が整うと早速ラックが唱え始めていた。
「アネモス ウペーポ ビース!」
カードは二枚。一枚で運べる人数はマックス八人程度。まず初めの八人の体がふわりと宙に浮き、穴の開いた文字盤から外に出た。ラックも文字盤から下を覗く。八人はそのまま、といっても遊園地のフリーフォール並みの速さで地上に向かって落下。地面すれすれのところで風を少し上に引き上げ、衝撃を和らげる。そうして無事彼らは地上に辿り着いた。続けて残りの八人も同じ要領で時計塔の外に運ぶ。
彼らには時計塔から離れてもらわなくてはならないが、そこまで構ってはいられない。自力で逃げてもらう他ない。動ける人も少しはいるし、何とかなるだろう。ラックはすぐに出口へと向かう。
端の方にリリアに貸していた黒いパーカーが放られていたが、そちらには一瞥もくれず、ツバサは本物の〝人魚の涙〟だけを拾い、リリアに手渡す。
「リリア、ちょっといい?」
「え?」
ツバサはしゃがみ、背中をリリアに向けて両手を添える。
「負ぶって行くから早く!」
「で、でも……」
「大丈夫! おれ、こんな見た目だけど、剣の稽古のお陰で力あるから!」
若干逡巡したが、リリアはすぐにツバサの背中に体を預けた。温かい体温と柔らかな弾力が背中から伝わり、首の左右からは彼女の細い両腕が回される。ツバサは思わず弛緩しそうになる顔を引き締めた。
「行くよ!」
カノンが先頭、次いでカノン班が見捨てた球体を拾った心優しきディノ、ラック、最後に頭にモカを乗せたツバサ、背負われたリリアが続く。十五段ずつの折り返しで続く石造りの階段を二回折り返したところだった。
ドカ――――ン! という激しい爆発音が轟き、時計塔が大きくぐらついた。レンガや石の破片がぼろぼろと降って来る。




