第100話
《我は見ていたのだが、模造品を腹のポケットに入れたモカ殿は時計塔に着いてツバサ殿の方へ向かった。しかし丁度ゼノン殿が攻撃を仕かける時で、ツバサ殿も剣を振るった。その剣先に当たりそうになったモカ殿はそれを避けるように宙で一回転して……それでポケットから模造品が落ちてしまったのだ》
「……ダイス先輩、仮に〝人魚の涙〟が危険なものだったとしても、偽物まで危険なものにする必要ってなかったんじゃないですか……?」
《……言われてみると確かにそうであるな! ツバサ殿は賢いのだな! ……というか、なぜツバサ殿の声はそんなにも低いのだ? まるで怒っているような……》
次の瞬間、ツバサは宙に浮かぶダイスをガシッと掴み、カメラにめいっぱい顔を近づけ冷笑を浮かべた。
「そんなの……怒るに決まってますよね」
言うが早いかツバサはダイスを床に叩きつけた。球体がピキッという音を発し、一部表面が剥がれる。だがそれでもツバサの冷え切った視線は消えない。
「……で? ダイス先輩。コレあと何分で爆発するんですか?」
《……さ、さあ? 起動してから十分で爆発することになっているが、既に何分経ったかまでは分からぬ……》
「………………」
一瞬の静寂があってからラックが狂ったように叫ぶ。
「おおおお―――――いっ! どうすんだよ―――っ!」
ツバサは部屋を見渡した。敵は基本的に全員動けない。彼らを連れてこの時計塔から脱出するには時間が足りない。
「ダイス先輩! この爆弾、十秒前になったらさっきから鳴ってる機械音が速くなるとか、そんな仕掛けにしてますか?」
これでダイスがそうだと言えば、タイミングを見計らって空に投げてしまえばいい。しかし彼から返ってきた答えは、ツバサの望んだものではなかった。
《そんな仕掛けはしておらぬ……。何せ時間がなかったからな》
殴りたくなるのを押さえ、カノンを見やる。こんな議論をしている内に、爆発の瞬間は刻一刻と迫っている。




