第103話
盛大に破壊された時計塔は、これから修復されるらしい。綺麗に改修が終わった時計塔は、今まで止まっていた十二時十五分という時刻に針を合わせるのではなく、きちんと歯車もメンテナンスして現在の時刻を示すようにするようだ。
ゼノンやティーナなど世界征服を画策したメンバーはセルバーンによって捕らえられた。しかし彼らの行動の真の目的はノエール国には勿論、セルバーン内にも報道されていない。ノエール国を潰すために科学兵器と思われた〝人魚の涙〟を入手しようとしたことが分かれば、彼らの命は元より、他にも奪われる命があるかもしれない。真実を伝えることは、セルバーンや世界にとってデメリットしかないと判断された。
あの日から三日が経過した。各地に待機していたWGSの他の班は帰還命令が下り、既にキャンパス・シップに戻っているらしい。カノン班は傷がある程度癒えてからの帰還でよいという伝達が届いている。無傷のディノは命令が下ると同時に先に帰還した。
雲一つない美しい月夜、カノン班はリリアとマザーとともにミスティ湖にやって来ていた。水面には黄金色の満月が反射し、足元には仄かに淡く光を放つライトグリーンの苔が敷き詰められている。静かで神聖な雰囲気が漂い、幻想的な風景が眼前に広がる。
まだ傷が完全に治ったわけではなかったが、随分と良くなった。
「……こっち見ないでよ?」
リリアが恥ずかしそうにツバサとラックをキッと睨み付ける。ダイスはツバサがしっかり握り締めている。
「テメェの裸なんぞ興味ねーっての!」
ラックは後ろに振り向きながら吐き捨てる。なんてことを言うんだと、ツバサは溜息をつきながら背を向けた。きっとリリアはラックに視線を突き刺しているに違いない。
ミスティ湖にはセフィアもいる。リリアは目深に被っていたケープのフードをゆっくり外した。月光が彼女を優しく照らす。リリアの体が眩く光り、その姿を人魚へと変えた。
背後でポチャンという音が聞こえてからリリアの、もういいわよ、という声でツバサとラックは振り返った。
「――――っ!」
ツバサは静かに湖の中に佇むリリアを目にして息を呑んだ。白く滑らかな肌、セフィアが用意してくれたと思しき貝のブラジャー、月光に晒されて艶めく髪。周囲を樹木に囲まれた青き湖。これ以上絵になる景色はないのではないかと思わせるほどの美しさ。
ツバサに凝視されて、リリアは恥ずかしそうに視線を逸らす。
「……変?」
「え!? 全然そんなことないよ! むしろ綺麗で見惚れてたくらい!」
リリアは顔を赤らめ、そう……、と小さく呟くと、セフィアと湖を泳ぎ始めた。
リリアだけでなく、セフィアもとても楽しそうだ。




