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呪われていた勇者は世界を喰い尽くす ~殺すたびに増える魔力と記憶、そして死者の議席~  作者: 祐祐
第1章

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第5話:魔喰い

 脳へと流れ込んでくる情報を無視する事ができない。


 見張り役がさっきまで見ていたであろう小屋の前に広がる風景。俺との会話。

 俺と会う前の偵察の様子。第2防衛拠点の偵察部隊エリアの詳細。

 休みの日に友人と食事をしているシーン。


 膨大な情報が脳に流れ込んでくる。

 その情報量に、脳が焼ききられるのではないかと錯覚し、上半身がぐらついた。俺は這いつくばり、絶叫すら上げられずにただ耐え続けた。



 ハァハァ。

 どれだけの時間が経ったのだろうか。

 気がつくと、脳に流れ込んでくる情報は止まっている。



 どういう事だ? 何が起きている?

 あいつを殺して、魔喰いスキルが発動した。そして奴の魔力を取り込んだ所まではいい。いつも通りで、何度も経験してきた事だ。


 たが、魔力だけでなく、その後に記憶まで取り込んだのか?

 そんな事、今まで一度も無かったぞ。


 15歳になった時に故郷の村にやってきた人類軍、いや魔王軍か。その魔王軍の奴に勇者として選ばれて、訓練を始めた。

 1年間訓練を続けていき、その中で俺のスキルを確認するために、もうすぐ死にそうな老人が連れてこられて、初めて人を殺した。

 そしてその時に魔喰いスキルが発動して、魔力を初めて取り込んだ。

 今思うとあの老人も魔族だったのだろうな。


 その後もたまに死にそうな年寄りや罪人が連れてこられて、魔喰いスキルの発動のために殺してきた。

 そして、この間の特務部隊の任務で敵の防衛拠点に攻め込んだ。その戦闘の中で何度も魔喰いスキルを発動してきた。


 何度発動したか分からないが、そのどれもが魔力を取り込むだけで、魔力以外のものを取り込んだ覚えはない。

 それなのに、この見張り役を殺したらどうして記憶も取り込んだのか?


 今までと何かが違うという事なのか?

 考えられるのは、呪いを解いた事、人魔両性スキルを獲得して使っていた事。あるいは、何度も魔喰いを使ってきた影響でスキルが強くなった事、殺した相手の魔力が強かった事とかか?

 理由は分からないが1つだけ確かな事がある。今の俺は、殺せば記憶も取り込めるようになったって事だ。これからは魔王軍から情報を聞き出す必要が無くなったわけだ。


 ただ、殺すたびにこの頭痛が襲ってくるとなると、頭が痛くて連続して殺すのが難しくなりそうだ。いや、そこは慣れて耐えるしかないか。頭が痛いだけで記憶が手に入るなら安いもんだ。



 とりあえずは残り2人。俺の部屋から聞こえた音から推測すると、俺のいた部屋から一番遠い部屋に最後の見張り役が寝ているはずだ。

 最初の見張り役より最後の見張り役の方が起きやすいだろうと判断して、こいつから殺していく。もう片方を相手している間に起きてこられるのが一番厄介だからな。


 小屋の中へと戻り、部屋の扉を慎重に開けて、中の様子を確認する。


 グガァー、ゴォー……


 そこにはベッドの上でいびきをかいて寝ている魔族の姿があった。魔族でもいびきをかくのだな。

 足音を立てないように近づき、手にしていた剣を首元へと一気に突き刺した。


 ドスッ、バキバキッ


 剣はしっかり首へと突き刺さったが、勢い余ってその下のベッドにも刺さり、木製のベッドを破壊した音が響く。まずいな、隣の部屋に聞こえてないといいのだが……

 これ以上の音を出さないように、ゆっくりと剣を引き抜くと、魔族は目を開けて口を僅かに動かしている。何かを言おうとしているのだろう。まぁそれはお前が死ねば、記憶として俺の中に取り込まれて分かるだろう。


 こいつが死ぬのを待っていると、1分もかからずに魔力が流れ込んできた。

 そして予想通り、膨大な情報が脳に押し込まれていく。こうなる事が分かっていたから、俺はあらかじめベッドに両手をついて待ち構えていたが、やはり強烈だ。戦闘中に急に来たら大きな隙を作ってしまうだろう。

 手にしていた剣は、魔力が流れ込んできてすぐにベッドの上に投げたので大きな音は立てずに済んだ。



 記憶が流れ込んでくるのが止むまで耐え続ける。

 数分で流れが落ち着いた所で周りを見回すが、特に問題はない。すぐに部屋の扉に耳をつけるが、外から音はしない。気づかれずに済んだようだ。


 初回も今回も、全く違う景色が、人がその情報には見えていた。これはそれぞれの記憶という事で間違い無いだろう。

 記憶の確認については、もう1人を殺してからゆっくりする事にしよう。重要な情報が含まれている可能性が高いからな。



 部屋の扉をそっと開き、最後の部屋へと向かう。こいつを殺したら、朝までゆっくりと寝させてもらおう。


 部屋の前まで移動して、2人目と同じようにゆっくりと扉を開ける。

 よし、こいつも寝ているな。


 扉を閉め、そろりそろりと足を進め、真横に到着した所で剣を振り上げた。これで終わりだ。

 首を目がけて勢いよく振り下ろす。


 その瞬間。

 寝ていたはずの魔族が目をカッと見開き、素早く横へと寝返りを打った。

 両手で振り下ろしていた剣から咄嗟に左手を離し、右手一本で逃げようとした敵に当たるように奥へと腕を伸ばす。


 サシュッ

 バキッ


 剣先が僅かに首筋を掠め、ベッドに傷を付けた。

 クソっ。傷は浅そうだな。

 敵は痛々しく首を押さえながら、ベッドから大きく飛び退いた。


「貴様っ! 何を考えている!」


 そんなもの1つしかないだろ。


「お前らを殺す事に決まってる!」


 剣を手元に引き戻し、鋭い踏み込みで敵に飛びかかる。

 敵も偵察部隊とはいえ、戦闘訓練は受けていたのだろう。俺の動きに合わせて距離を取るように後ろへと下がっていく。

 だがここは部屋の中。敵はすぐに背中を壁にぶち当てた。その隣には部屋の外へと続く扉があるが、万が一の事を考えて扉を閉めておいて良かった。


「お前は我らの勇者だろうが! どうして味方を殺そうとする!」


 その言葉には、裏切られた者特有の困惑と怒りが混じっていた。

 わざわざそれに答える必要も無いが、冥土の土産という事で答えてやる。


「味方じゃねえだろうが、魔王軍!」


 敵が避けられないように、腰の高さに横薙ぎで剣を振る。敵はそれをしゃがんで避けようとするが、強引に剣の軌道を斜め下へと叩き落とすと、敵の頭部へと剣が吸い込まれていき、脳天を深々と斬り裂いた。

 血飛沫と共にこちらに倒れ込んでくるのを、身体をさばいて避け、上を向いていた後頭部へと剣を突き刺し息の根を止めた。


 ジワッ


 魔力が来た。この後の流れは分かっている。

 これに慣れるために、剣を持ったまましっかりと構える。


「くっ……」


 俺との戦闘シーンに、偵察の様子と次々に記憶が流れ込んでくる。

 俺との戦闘を敵目線で見るのは不思議だ。俺の姿はしっかりと魔族に見えているな。


 ハァハァ。

 他2人よりも長く感じた記憶の吸収が終わると、血濡れた剣を杖代わりに床へ突き立てて立ち尽くした。


 唯一、俺の攻撃に反応したし、記憶の吸収が長かった気がする。こいつがこの3人のリーダーであり、一番年上で強かったのだろうか。

 すぐに記憶の確認をしたい所だが、血を洗い流してから朝まで寝るのが先決だ。



 朝までに他の偵察部隊が小屋にやってくる事は無いだろうが、念のため、それだけは記憶で確認しておくか。


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