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呪われていた勇者は世界を喰い尽くす ~殺すたびに増える魔力と記憶、そして死者の議席~  作者: 祐祐
第1章

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第4話:偵察部隊

 翌朝、身支度を整えた俺は、出発前にもう一度だけスキルを試す事にした。

 昨夜と同じく、魔族の姿になりたいと強く願う。


『スキル人魔両性を発動します』


 視界の端に見える自分の手が、鋭い爪を持つ魔族のそれに変わり、皮膚が黒く染まっていく。

 俺は近くにあった、雨水の溜まった水たまりの前へと歩み寄り、その水面を覗き込んだ。


「……っ、おぞましいな」


 そこに映っていたのは、かつて俺が敵として何度も斬り伏せてきた憎き魔族の姿そのものだった。頭から生えた2本の角に、短いが鋭利な牙。

 だが、その水面に映る角を触ろうとしても、手は虚空をかくだけで何の手応えもない。爪で自分の頬をそっとなぞってみても、皮膚を裂く痛みはない。指先が触れている感触は、いつもの人間の皮膚の柔らかさのままだ。


 やはり、肉体そのものが作り変わっているわけではない。視覚だけが変わっている、偽られているという事か。

 俺は再びスキルを発動させ、波紋で乱れる水面を見つめ続ける。

 あっという間に変化していき、いつもの人間の顔へと戻っていった。



 さて、今日も魔王軍の拠点に向かって進んでいくとするか。

 まだ人類軍の防衛拠点の方が近いから、今日は人間の見た目のままで歩いていくとしよう。



◇◇◇



 人類軍の防衛拠点を出発してから4日目。

 道のりは順調だった。道にも迷わず、3日でここまで行ければ上出来だと言われた所で昨日は夜を過ごした。つまり、魔王軍の拠点までの道のりの半分は超えた事になる。


 ここまでは人類軍、魔王軍のどちらとも遭遇せずに済んだ。ただ、位置的にそろそろ魔王軍に遭遇するかもしれない。少なくとも拠点に着くまでに一度は会って人魔両性スキルの効果を確認しておきたい。

 意図的に魔王軍に遭遇するのは無理だが、会う確率は上がっていくはずだ。ならば、今日からは人魔両性で魔族の姿になって進んでいく事にしよう。俺は素早く魔族の姿へと変わり、荷物を背負い直して歩き出した。




 今日も地図の通りに進み続け、あと1時間もすれば日が暮れるだろうという頃になって、ようやく魔王軍を発見した。

 敵の数は3体。人類軍が攻め込んできていない事を確認するために派遣されている偵察部隊だろう。


 自分の姿を再確認する。

 黒い皮膚。鋭い爪。角と顔は確認できないが、しっかりと魔族の姿のはずだ。


 深く息を吐き、心を落ち着かせる。剣を右手にしっかりと握り、堂々と偵察部隊へと近づいていく。


 ザッザッ


「っ! 何者だ!……なんだ、味方か。ビックリさせるなよ」


 偵察部隊の1体がこちらに気づいて武器に手をかけたが、どうやらちゃんと魔族の姿として見えているようだ。


「どうしたんだ。おっ。こんな所に味方がいるとは珍しい。というかどうしてこんな所に1人でいるんだ?」


 奥から他の2体も近づいてきたが、こいつらにも魔族の姿として見えているらしい。

 人魔両性スキルは問題なく、魔王軍の連中も欺けるみたいだな。


 さて、こいつらは後で殺すとしても、情報を取れるだけ取っておきたい。

 そのためには適当な、でも嘘だとバレない程度に会話をしないと。


「……味方に出会えて良かった。ここがどこだか教えて欲しい。拠点まで帰りたいんだが、戦場から何とか逃げてきたら道が分からなくなってしまった」


「なるほど。ここは第2防衛拠点から西に1日半進んだ場所だぞ。戦場って、お前どこの所属だ?」


 目的地にちゃんと近づいているな。


「第15特務部隊所属の蘭だ」


 俺が勇者として所属していた部隊名を伝える。


「本当か!? この間の戦いで全滅したって聞いてたが、生き残りがいたのか。ってか蘭って勇者だよな」


 やはり全滅扱いになっていたか。俺の呪いが解けた事を知られていないのは、これで確実になったわけだな。

 ただ、こいつらは俺が勇者だとは知っているのか。でも、俺が人間だとは知らされていないのか?


「あぁ。勇者として訓練してきたけど勝てなかった。それで、何とか追っ手から逃げ続けていたら迷ったわけだ」


「それは災難だったな。だが、生き残っていて良かったな。拠点に戻って休んだら、今度こそ敵を倒してくれよ」


 敵? 魔王軍とか人類軍という言い方ではないんだな。訓練場や特務部隊では魔王軍って言われてたのに。


「あぁ。絶対に倒してやる」


 本当の魔王軍を。


「すまないが、今日は一緒に休ませてもらえないか?

 ここまで1人で逃げてきたから、ゆっくり寝れなかったんだ」


「構わないぞ。俺たち偵察部隊が使っている小屋まで案内しよう」


 俺は3体の魔族の後について、道を進んでいく。

 しばらく歩いていくと、そこには周囲からカモフラージュされた小さな小屋があった。偵察部隊も毎回拠点まで戻るのは大変だもんな。


「寝ている間の偵察というか警戒はどうするんだ?」


「3人で交代で見張りをするんだ。21時から3時間ずつ交代だな。蘭は見張りはしないで、しっかり休んでいいぞ」


「そうか、それはありがたい。ゆっくり休ませてもらおう」


 差し出された、魔王軍特有の味のない食事を胃に流し込み、俺は割り当てられた寝室へと入り、眠りにつく。寝室は4つあり、その1つを提供してもらった形だった。

 ちなみに、荷物は追っ手を殺した時に奪ったものだと説明しておいたから、そのまま持ってきている。





 眠りについて3時間後。俺はそっと目を覚ます。

 そろそろ見張りの交代の時間だろう。寝室の扉に耳を付けて、部屋の外の様子を伺う。


 しばらくそのまま耳をそばだてていると、隣の部屋の扉が開き、外へと出ていく足音が聞こえる。隣の奴が次の見張り役か。

 その後、外から戻ってくる足音がして、違う部屋の扉が開かれ、足音の主は部屋へと入っていった。


 俺はそのまま30分待機してから、行動を開始する。30分も経てば戻った奴も確実に寝ているだろう。

 音を立てないように、そっと扉を開けて部屋の外へ出る。

 そして、小屋の窓まで近づき、小屋の外の様子を確認する。見張り役はどこに……いた。小屋の玄関のすぐ先にある階段に座っているな。


 この小屋には裏口はなく、出入口は1つだけ。つまり、気づかれずに外に出たり、見張り役に接近するのは不可能だろう。

 となると、出入口を開きながら突撃するか、目が覚めたから外の空気を吸いに来たと説明するか。

 前者のリスクは音が大きく、寝ている2人に気づかれる可能性がある事。

 後者のリスクは寝れていないと言った事と食い違うという事。


 こっちだな。

 方針を決めた俺は玄関に向かい、堂々と扉を開けた。


「っ! なんだ、お前か。驚かすなよ」


「すまない。目が覚めてしまったから、少し外の空気を吸いに来た。隣いいか?」


「あぁ、構わないぞ」


 吐き気がするほど平和なやり取りだな。

 あまり時間をかけられないが、少しは情報収集をしておこう。


「3人は第2防衛拠点所属の偵察部隊なんだよな?」


「そうだぞ。同じ拠点にいても、特務部隊と会う事はまず無いけどな」


「3人でチームを組んでいるのは普通なのか? 特務部隊は人数が多かったから少ないと思ってな」


「大体3人か4人だな。偵察部隊だから戦闘はしないし、大人数だと敵に見つかりやすいからな」


 最大でも4体か。偵察部隊だし、俺が戦闘で負ける事は無いだろう。問題は逃げられる事だな。それだけは避けないといけない。俺が裏切っている事がバレたら、拠点に潜入できなくなるし、家族が狙われる可能性もある。


「拠点の外で行動するのも大変だろう」


「まぁな。だが、戦闘はしないでいいから、死ぬ可能性は戦闘部隊よりは低い。俺みたいな奴にはこっちの方が合ってるよ」


 やっぱり偵察部隊は戦闘は得意じゃなさそうだな。


「そうか。最近、敵の動きはどうなんだ?」


「何も無いな。お前の特務部隊が攻め込んだのもあって、そこに戦力が集中しているんだろう。その前も基本的に敵は守るしかできてないから、なおさら俺らは安全だな」


 つまり、偵察部隊は油断している可能性が高い。


「他の防衛拠点の状況とかは知ってるのか?」


「他の情報は俺たちみたいな下っ端には入ってこないな。特務部隊にも入ってこないだろ?」


「あぁ。次に戦う敵の情報だけだな。あんたは偵察部隊に入って長いのか?」


「もうすぐ10年だな。拠点が前進するのに合わせて、俺も動いているけど、今の第2防衛拠点に来てから5年だな」


「10年って、あんたいくつなんだ?」


「今22歳だぞ。お前よりは多分年上だな」


「そうだな。俺は16歳だから6つ年上だな。でも12歳から偵察部隊にいるのか。早くないか?」


 俺は15歳から訓練を開始したのに、12歳からってかなり早くから軍にいるのか?


「特別早い方って訳じゃないな。一応年齢制限はあるが10歳以上だし、平均したら13歳くらいじゃないか。遅い奴だと18歳とかもいるけどな」


 ……俺が住んでいた村では、15歳で選ばれたものが勇者として軍に行く形になっていた。それより前に軍に行く奴は、少なくとも俺は見た事がない。

 魔族と人間で年齢の扱いに違いがあるんだろうか。


「どうした? 急に黙って」


「いや、なんでもない。話していたら眠気が戻ってきてな。もう一眠りさせてもらうよ」


「そうか。しっかり休めよ」


「あぁ。おやすみ」


 永遠にな。


 階段から立ち上がり、小屋の中に向かうように見せかけ、腰に下げていた剣を素早く引き抜いた。そして、滑らかに剣先が弧を描き、見張り役の首へと吸い込まれていく。


「あ゙?」


 剣はまっすぐに首を斬り裂き、奴の頭と胴体は切り離された。変な声を出していたが、気づくのが遅い。もうお前には死ぬ道しか残されていないんだよ。

 断たれた頭部が、重力に従ってゴロゴロと階段を虚しく転がり落ちる。

 俺は剣についた血を振り払い、ゆっくりと小屋の扉へと向かっていく。あと2体だな。


『スキル魔喰いを発動します』


 アナウンスと共に、奴の魔力が血のように俺の中に溶けていく。馴染みのある、力が底上げされる感覚。これで俺は、また少し強くなっただろう。


 だが直後、異変が起きた。


「っ!? あ、が……っ!?」


 なんだ? 魔力だけじゃない、重苦しい何かが頭の中に流れ込んでくる!

 激痛に耐えられず、頭を押さえながら、思わず階段に膝をついた。


 夜空。いつも聞いている俺の声。どこかの森の中。防衛拠点の門。聞いた事もない誰かの声と食べた事のない食べ物。

 ……これは、記憶?


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