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呪われていた勇者は世界を喰い尽くす ~殺すたびに増える魔力と記憶、そして死者の議席~  作者: 祐祐
第1章

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第3話:人魔両性

 資料を左手に持ち、周りに見えるものを確認しながら進んでいく。

 まだ後ろを振り返れば人類軍の防衛拠点が見えているくらいしか進んでいないが、しばらくはこの道に沿って進んでいけばいいはずだ。ここから先は、誰の助けも届かない。俺1人だけの行軍だ。


 ここから魔王軍の拠点までは歩いて4日間。

 しかしそれは最短距離を歩いた場合であり、今回の遠回りとなる道筋だと、迷わずに進んだとしても5日半。迷ったりすれば1週間かかってもおかしくない、と言われた。


 ただ、実際にそうなるとは限らない。天候が悪くなるかも知れないし、道が分断されているかもしれない。人類軍の他の部隊が現れて足止めをくらうかもしれないし、魔王軍を発見して戦闘になるかもしれない。



 そして、魔王軍や人類軍に遭う前に、あの力のテストもしておかないといけない。

 スキル人魔両性。

 あの戦場で、尾田部隊長の前で俺が魔族の姿になったこのスキル。だが、こんなスキルいつ獲得したんだ?

 勇者になる前に鑑定スキルでスキルを調べられて、その後に勇者に選ばれたが、その時には無かったはずだ。少なくともこのスキルについて言われた事は無い。

 それならいつ手に入れたのか。もし魔喰いスキルで他人のスキルも獲得できるとしたら、人類軍を倒した時に手に入れたのかもしれない。だが、こんな潜入に特化したスキルを人類軍が持っていたら、俺ではなくそいつが魔王軍に潜入しているだろうし、そもそも魔喰いスキルで他人のスキルを獲得した事もない。

 だとしたら……考えられるのは俺が魔族の姿として人類軍には見えていたという呪いの影響か。首輪が砕けて呪いは解けたはずだが、呪いが解けた影響でスキルになったという可能性はある。

 もしそうなら、俺を操っていた鎖が、今度は俺の牙になったということか。皮肉な話だ。ただ、それはどうでもいい。とにかく使えれば構わない。


 人類軍の防衛拠点にいた時は危険だったので試せなかったが、魔王軍への怒りで姿が変わるのか、それとも次からは違う方法でも、それこそ変身したいと願うだけでも変わるのか。

 今すぐに試してみたいが、もう少し人類軍の防衛拠点から離れてからにしよう。




 日が暮れようかという所で、大きな建物がボロボロに崩れたかのような場所を見つけた。

 ここは地図に書いてある、娯楽施設の跡地というやつだろう。大きな建物は、ここに遊びに来た人が泊まるためのものであり、その近くの山をソリのようなもので滑ったり、近くの湖で釣りをしたりして楽しんでいたそうだ。かつての人間たちが謳歌していた平和の痕跡か。

 魔王軍の拠点や俺の村にはそういうものは無かったし、人類軍の防衛拠点にも見当たらなかったが、魔王軍が侵攻してからはそういうもので楽しむ余裕も無くなったのだろうか。

 そして人類の幸せな生活を奪い、建物を壊したのは、魔王軍の侵攻によるものなのだろう。魔王軍への怒りが胸の奥で更に大きくなっていく。


 ここまで1日で到着すれば順調だと言われたので、いいペースで進めているようだ。分かりやすい場所だし、ここで今日は休む事にしよう。


 周囲から見つからないように気をつけながら、跡地の中で野営に適した場所を探していくと、四方を崩れた壁に囲まれて、焚き火の光が外へ漏れない場所を見つけたので、そこへと降りていく。

 部隊長から支給された野営道具を取り出して、野営の準備をする。寝袋に水に携行食。必要最低限だが、これはありがたい。火を簡単に起こす道具もあって便利だな。



 携行食で腹を満たして後は寝るだけとなった所で、人魔両性スキルをテストしておこう。

 あの時は混乱して、とにかく必死だったのでどういうスキルなのかを把握できていない。

 まずは自分で制御して魔族の姿と人間の姿を変えられるのかを確認するべきだろう。


 人魔両性スキル、起動。


 スキル人魔両性、起動。


 人魔両性スキル、発動、始動、作動、稼働、実行、スタート、スイッチオン。


 ……スキルが発動しない。発動の鍵になるのはスキル名ではないという事か。

 あの時は確か魔王軍への、魔王への怒りで一杯だったが、それが必要なのか?


 目を閉じて、魔王軍への憎しみ、怒りを思い浮かべる。

 今すぐにでも滅ぼしてやりたい。


 ……目を開いたが、俺の手も足も人間のままだ。どうすればいいのか。

 あの時は他に何かあったか?


 魔王軍への、魔王への怒り。

 何をしてでも、絶対に殺す。

 魔族になってでも。


『スキル人魔両性を発動します』


 魔喰いが発動した時と同じような機械的なアナウンスと同時に、視界の端にあった足が魔族の黒い皮膚に覆われていった。

 正解はこれか。必要なのは魔族になるという強い意思、想いなのか?


 そのまま全身が変わっていき、俺の身体は魔族の見た目へとなった。

 それなら戻すのも同じ仕組みだろう。


 強く願う。人間に戻りたい。俺は人間だ。


『スキル人魔両性を発動します』


 再びアナウンスが聞こえた後、すぐに手も足も皮膚が元に戻っていく。

 成功だ。これで人魔両性の制御が可能だと確認できた。鍵はスキル名ではなく、魔族の姿、人間の姿になりたいという強い想いか。

 焦ると上手く発動できなさそうなのは懸念点だけど、とりあえず発動できたので一安心だ。



 まだ寝るまでに時間もあるし、魔族の姿となった俺の事をもう少し確認しよう。


『スキル人魔両性を発動します』


 再び魔族になりたいと強く願うと、指先から魔族の姿へと変わっていく。全身が変わるまで5秒程度か。

 両手を開いて閉じて。右足を上げて、左足を上げて。上半身を後ろに反って、捻って。


 うん、違和感は無い。普通に動かせる。

 というか、普通に動かせすぎる。人間が魔族の姿になったら、もっと違和感があってもおかしくないだろ、普通は。

 おかしいよな。でもこのスキル自体がおかしなものだし、言っても仕方無いか。

 腕を組み、次は何を確認しようかと考える。


 うん?

 普通に腕を組んだけど、爪はどうした?

 腕を組もうとすれば、鋭い爪で皮膚を斬り裂いたり、少なくとも引っ掻いてしまうはずだ。でもそんな事は感じずに、スルッと腕を組めた。


 俺は恐る恐る、その爪を地面へと突き立てた。

 ……全く抵抗がない。土を抉る手応えはゼロだ。そのまま指先が地面へと当たったので引き抜き、そして地面を確認するが、地面には何も跡が無い。刺さっていれば地面に穴が空いているはずなのに、指先が当たった部分が少し凹んでいるだけだ。


 それならと、周りの崩れた石壁へと爪を突き立てる。

 ……貫通しているよな。それをそのまま横へ、斜めへ、上下へと動かす。全く抵抗が無い。


 これはもの凄い斬れ味、という事ではなく、爪が実際は無いのではないか。

 恐る恐る自分の頭を触ってみるが、あるはずの角を触る事はできなかった。


 なるほど。

 あの呪いがキッカケでこのスキルが獲得されたとするならば、このスキルも実際に魔族の姿になれるのではなく、魔族の姿と認識させているだけなのではないか。


 呪いでは俺自身は人間に見えていたが、部隊長たちは魔族に見えていた。

 そして人魔両性のスキルでは、俺自身は俺にも部隊長たちにも魔族に見えていた。


 そういう事なのか?

 正直、今の段階ではこれ以上の事は分からない。

 腰に下げていた剣を持ってみても、感じる重さは変わらないので肉体的に強くなったりもしていない。


 まだまだ謎は多いが、スキルの性質は分かった。

 あとは、魔王軍の連中にも俺の事が魔族に見えるかどうかだな。確認せずに拠点に攻め込むのは危険だろう。拠点の外で魔王軍の兵士を見つけて確認するとしようか。

 失敗したら、その時は正面から倒して、人類軍の防衛拠点に戻り、普通に人類軍の一員として戦わせてもらえばいいだけだ。




 スキルの検証を終えたので、寝袋を使って一夜を明かしていく。

 明日からも魔王軍の拠点へと進んでいこう。一日でも早く魔王を殺すために。


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