第18話:破壊工作
人類軍の防衛拠点で一夜を過ごし、魔王軍の第2防衛拠点からの移動による疲れはどうにか回復した。
今日は偵察部隊として、防衛拠点の外を見て回るフリをしながら、出会った偵察部隊を暗殺していく。それと同時に、非戦闘員を殺す方法を見つけなければならない。ただ殺す以前に、接触する機会もほとんど無さそうなんだよな……
防衛拠点の門をくぐり、防衛拠点から離れるように駆け出す。防衛拠点の近くは、拠点からの監視の目が届きそうで暗殺に不向きだ。それに、離れた方が偵察部隊も少人数にバラけている可能性が高くなりそうだからな。
ひたすらに防衛拠点から離れていく。いい感じに出会える事を期待したい。
1日を費やした成果として、偵察部隊を6人殺害できた。ソロで動いていたのが2人に、2人組で行動していたのが2組。悪くない結果だろう。
気軽に声をかけながら近づき、油断した所で背後から首をはねた。この動きにも慣れてきた。
そして夕闇が迫る頃、偵察を終えて、何食わぬ顔で防衛拠点へと帰ってきた。
「尾田部隊長へ報告がある。取り次いでもらえないか?」
俺は門番へと尾田部隊長への連絡を依頼した。殺した6人を有効活用するために。
「何か報告があるようだな」
執務室の机で書類に目を走らせていた尾田部隊長が、顔を上げる。
「今日の偵察中に6人の死体を発見した。これがその6人が持っていたものだ」
俺は6人を殺した後に奪った身分証を机の上へ置いた。
「6人か……」
「俺が見つけた時には、既に事切れていた。死体を持ってくるのは流石に無理だから、身分証だけは持ってきた」
という事にして、苦々しく身分証を見つめる部隊長を前に、俺は神妙な顔を作った。
「敵はかなり近づいてきていると思う。非戦闘員を早急に避難させた方がいいんじゃないか?」
「……少し考えさせてもらう。俺だけでは決められないからな。司令官と相談させてもらうぞ」
「分かった。もし避難させる場合は、できれば俺をその避難の護衛担当にして欲しい。これだけ偵察部隊がやられているんだ、敵には手練がいると思う。俺がそいつの対応をする」
これが俺の考えた作戦だ。
防衛拠点の中で殺すのが難しいなら、外に連れ出せばいい。教官の時と同じだ。そして、油断している所で全員殺す。人数を稼ぎつつ、なるべく戦闘要員を殺さないように。
「……なるべく希望通りにしてやろう。ただ、絶対じゃないから理解しておけ」
上手くいくといいんだけどな。
「偵察部隊の被害状況を鑑みて、司令官から非戦闘員の一部を後方の安全な拠点へと避難させる命令が下った。
蘭、お前はその部隊の戦闘要員として護衛を担当してもらう。もし魔王軍に襲われた時は味方を混乱させてもいいから魔族の姿も活用して倒せ。そして、魔族の姿となった場合は、味方の混乱を避けるために隊列から離れて戻ってこい」
翌朝、朝食後に偵察へと向かおうとしていた俺の元へ、部隊長から呼び出しがあり、その決定を告げられた。
護衛、そして魔族の姿になったら戻るな、というのは都合がいい。
「分かった。その非戦闘員の避難先やルートなんかを教えてもらえるか。できれば事前に確認しておきたい」
「そうだな。おい、蘭に資料を渡しておけ」
部隊長の言葉を受けた側近の人が俺に資料を渡してきた。
「ってお前読めなかったな。説明しておけ」
「分かりました。それでは説明していきますので、何かメモが必要だったら書き込んで下さい」
それは助かる。脳内にいる人類側の議員に聞けば分かりそうだけど、解説してもらえるならそれに越した事はない。
「まず避難開始は明日の午前、朝食後すぐとなっている。お前も含めて、メンバーは早朝に集合してもらう。その後、この脱出経路で防衛拠点を出て、西の後方拠点へと向かう。移動は4日間で4日目の夕方あたりに到着予定だ」
4日間か。そこまで時間は無いな。
「いくつか確認だが、まず非戦闘員と俺のような護衛の人数を教えてくれ」
「非戦闘員が15人、主に隊員の子供たちだ。そして護衛はお前を含めて6人。もっと増やしたい所だが、魔王軍への警戒を薄くするわけにもいかないからこの人数だ」
子供か。殺したくはないが、未来の戦力の可能性よりも今の戦力の方が重要だ。
そして、俺以外で護衛は5人か。なんとかなりそうだな。
「あと、この脱出経路って何なんだ? 普通に門から出ていくものかと思っていたんだが」
「あぁ、これか。お前の言う通り普通は門から出ていくが、この非戦闘員以外にも防衛拠点に残る非戦闘員がいる。文官の連中とか料理人とかだな。そいつらが脱出する時はここを使う事になるんだが、今まで使われた事が無いからこの機会にちゃんと使えるのを確認する訓練を兼ねて、ここを通る事になったんだよ」
なるほど。脱出経路か。
破壊工作のターゲットとしてはありなんじゃないか?
「理解した。今日は明日に向けてその脱出経路を確認してきていいか?」
「そうだな……まぁいいだろう。案内は必要か?」
「この資料通りに進めばいいんだろ? それなら1人で大丈夫だ。確認して何かあったらあんたに言えばいいか?」
「俺はここにいるだろうし、尾田部隊長にも聞かせるべきだから、その時はまたここに来てくれ」
「分かった。それじゃあ行ってくる」
そう言って、俺は尾田部隊長の執務室を後にした。
「本当に脱出経路だな。拠点内の出入口も分かりにくいが、拠点外の出入口はもっと分かりにくいみたいだし。こりゃ知らなきゃ見つけるのは無理だ」
資料の通りに脱出経路を探して辿り着いたのは、防衛拠点の西にあるゴミ捨て場だった。そこにあるゴミを入れる大きな鉄製の箱のうち1つを開けると、中にはゴミはなく下へと続くハシゴが据え付けられていた。言われなきゃ分からねぇわ。
松明に火を灯し、ハシゴを降りていく。降りきった所には、間違って投げ入れられたと思われるゴミが散乱していた。脱出経路ならちゃんとキレイにしておけよ。だが、それだけ秘匿されているという証拠でもあるな。
降りた所からは一本の道が続いており、そこを10分ちょっと進むと上へと伸びるハシゴが現れた。それを登っていくと、最上部は蓋で閉じられていた。
蓋を押し上げて外に出ると、そこは防衛拠点の外の森の中だった。周りに何か目印になるものは……無いな。更にその出入口を閉じていた蓋を確認すると、内側には取っ手がついていたが、外側には何も無かった。つまり、外側から開ける事ができない構造になっていたのだ。
うーん。これを外側から開けられるようにすれば、破壊工作って事にならないか?
まぁ開けられるようにしても、ここに出入口があるなんて普通は分からないだろうから、何とか言いくるめて取っ手を付けてもらうか。
いや、勝手にやってしまえばいいか。でもどうやって?
鉄製の蓋に付けるのか。すぐには無理だろ……俺にはできない。
(何かいい案無いか?)
アイデアが思い浮かばないので、脳内の議員たちに問いかける。
『蓋は出入口にぴったりハマっているのか?
上に乗っているだけなら、周りの土を少し掘れば開けられるんじゃないか?』
その声は小隊長か。その考えを実行に移して、出入口の周りを掘り返してみる。
……蓋の周りは石でできた脱出路になっていて、隙間は無いな。この重さだと針くらいの細さのものを差し込めても持ち上がらないだろう。
この方法はダメか。
『その蓋の鉄板の厚みは分かるか?』
その声は教官か。鉄板に近づいて確認するが、厚みは……説明できん。
(見えてるだろ? これで分かるか?)
『蓋の厚みが分かるようにした状態で、お前の手も見せろ』
(手? こうでいいか?)
両手で蓋の縁を掴んでみる。
『ふむ。お前の身体を使っていた時の感じだと……2mmから3mmという所だな。
それくらいなら、ハンマーを用意して縁から少し内側を叩けば、鉄板が歪んで隙間ができるだろう。そうすれば手を突っ込んで持ち上げられるはずだ』
(えっと、力技だな。破壊工作ってそれでいいのか?)
『十分だ。本来はしっかりと破壊したい所だが、魔王軍がこの脱出経路を知っていると知られるのは困る。むしろ知らないままだと勘違いさせて、こちらが侵入経路として使えるようにした方が遥かに価値がある』
魔王軍がここから奇襲をかけやすくなるという事か。
まぁあんたらが解任決議を提出しないなら構わないけど。
『その代わりに、この出入口が分かるように目印を考えないとな。他の奴には分からないものだと良いが』
俺だけが分かる目印か。意味というよりは、普通の人は気づかないものだよな。
周りを改めて見渡すが、やっぱり目印になるようなものは無いな。
『おい、防衛拠点の方を見てくれ』
小隊長の声が響く。指示通りに防衛拠点の方を見ると、
『この防衛拠点にも塔があるのだな。ここは防衛拠点から西の方に進んだ場所で間違いないか?』
(あぁ。ゴミ捨て場所は西の端の方だったし、脱出した後が西の後方拠点って事だったからな)
『なら問題ない。私なら再度ここの近くに来れば場所が分かるだろう』
(えっ? マジ?)
『偵察部隊の力をナメるな。大まかな方向、城壁と2つの塔の見え方から分かる。お前の力でこの光景の記憶をちゃんと後で記憶として見れるのであれば、なおさら間違えるはずがない』
小隊長ってスゴイんだな。ひとまず、俺はこの風景をしっかりと眺めておく。これを見ている議員たちも記憶してくれるだろう。
じゃあこれで確認と破壊工作はOKって事でいいか?
ちなみに、明日以降の予定は……
教官と小隊長から、脳内に共有した内容なら解任決議は出さないとお墨付きをもらったので、俺は脱出経路を逆に辿って防衛拠点へと戻っていった。
至上命題に多少反しても、議員たちが解任決議を出さないように根回ししておけばいいんだな。




