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呪われていた勇者は世界を喰い尽くす ~殺すたびに増える魔力と記憶、そして死者の議席~  作者: 祐祐
第1章

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第12話:教官の記憶

◇◇◇



 幼い時から剣術に励んでいた俺は、10歳になったタイミングで魔王軍への入隊を志願した。

 周りの大人たちからは、天才だ、将来は魔王軍の四天王間違いなしだ、と言われていた。それを真に受けていた俺は、自信満々に入隊試験を受けた。

 入隊試験の結果はトップ合格。入隊後も、ひたすらに剣術を磨いていった。

 そんなある日、あの御方に出会った。



 入隊してから1年後。

 俺は最年少で小隊長へと昇進していた。俺を止めるものなど誰もいない、将来の四天王の座は俺のものだと思っていた。


 そんなある日。


「お前がガートナーか。中々強いらしいじゃないか」


 上司から特別教官がやってくると聞いていたが、訓練場にいたのは今まで見た誰よりも背が高く、筋骨隆々で逞しい男だった。年齢は俺より一回り上くらいだろうか。


「あなたが今日の特別教官でしょうか」


 傲慢な笑みを浮かべる男に、俺は若さゆえの対抗心を隠さず尋ねた。


「あぁそうだ。俺はレイブン。第1侵攻部隊の副隊長をしている」


 その時の俺はまだ知らなかった。世界にはどれほど腕を磨いても届かないような本物の強者が存在する事を。

 俺は自信満々に木剣を構え、鋭い踏み込みと共にレイブンへ打ちかかった。


 !?

 次の瞬間、視界には青空が広がっていた。


 俺は訓練場の地面の上に転がされていた。何が起きたのか、脳の理解が追いつかない。一歩踏み込み、完璧なタイミングで斬りかかったはずだった。しかし、振り下ろした剣の勢いをそのまま利用され、身体が回転して腕が下へ、足が上へと向いていた。

 くそっ!

 跳ねるように立ち上がり、再び挑む。今度は全力の連撃。だが、レイブンは片手にした木剣で全てをいなし、余裕の表情を浮かべていた。


「終わりか? 天才と持て囃されてもその程度か」


 その言葉に頭が真っ白になった。俺はがむしゃらに剣を振り回したが、最後は彼の放った軽い一蹴りで、訓練場に沈み込んだ。

 完敗だった。勝てるビジョンどころか、背中すら見えない。

 だが、絶望と同時に、俺の胸にはかつてない高揚感が宿っていた。

 この男の元にいれば、俺は本物の強さを手にできる、少なくともそれを知る事ができる。


 俺はその場で跪いた。


「レイブン殿! 俺をあなたの部下にして欲しい!」


 レイブンの部下になる事を志願した。



 それからの日々は、過酷だが、充実した日々を過ごしていた。

 レイブン殿の部下として第1侵攻部隊に配属された俺は、彼に追いつくために訓練に励み、彼の背中を追い、戦場を駆け抜けた。共に人類軍の拠点を落とし、功績を上げた。

 そして数年後。レイブン殿がその圧倒的な武勲により、新設された第2防衛拠点を指揮する司令官へと昇格した。


「ガートナー。お前も付いてこい。お前も戦場での武勲で昇格するタイミングだろ?

 防衛拠点に『特務部隊』っていうものが作られるから、その部隊の隊長と教官をお前に任せる。しっかり成果を出せよ」


 俺は喜んでその役職を受け取った。憧れの方から任された、新しい任務。

 しかし、特務部隊とはどんなものかその時は全く知らなかった。



 第2防衛拠点に着任してしばらく経った頃、レイブン殿の執務室である司令室へと呼び出された。


「ようやく特務部隊の人員が揃ってきたそうで、来週ここに到着する。

 それにあたって、お前には知っておいてもらう必要がある」


「な、何をでしょうか」


「特務部隊が何なのかという事だ。そもそも、俺とお前がいたのは侵攻部隊だ。魔王軍には、侵攻部隊、偵察部隊、防衛部隊の主に3つの部隊に分かれている」


「はい、理解しています。この第2防衛拠点は主に防衛部隊が多く駐留する場所になります」


「そうだ。ではこの3つに含まれていない特務部隊は何だ?」


 そう、特務部隊とは何なのか。攻める、守る、調べる。他に必要な要素?


「……俺には分かりません」


「それが普通だ、気にするなよ。俺も最初は分からなかったからな」


 レイブン殿ですら分からない特務部隊とは……


「それで特務部隊だが、目的は人類軍への侵攻で侵攻部隊とやる事は同じだ。メンバーも侵攻部隊からある程度移籍する形になる。では何が違うのかという事だが、この特務部隊にはある特別なメンバーが所属する」


「特別なメンバー、ですか?」


「あぁ。それは勇者と呼ばれる特務部隊用のメンバーだ。小隊につき最低1人は勇者が配属される」


 勇者……聞いた事が無い。


「その勇者とは何なのでしょうか。聞いた事がありませんが」


「それはな……人間だ」


「人間!? 人間が魔王軍の一員として人類軍と戦うという事でしょうか?」


「そうだ」


「あの……我々魔王軍の指示に従うものでしょうか。確実に裏切ると思います」


「俺も同じ事を思ったさ。ただ、実際に目にするとスゴイんだよな。

 勇者には呪いの首輪という見えない呪具が付けられているそうだ。そしてその呪いの効果でな、周りのやつからは魔族の姿に見えているんだよ。しかも、勇者は俺ら魔族が人間に、人間が魔族に見えているらしくて、俺らを普通に仲間だと思い込んでいるだとさ。つまり、呪いの首輪を付けたもの同士だと、人間同士に見えるらしい」


「何なんですかそれ……」


 呪いの首輪か。そんなものが存在するとは。


「それで、お前の役割は特務部隊に配属するためにやってくる勇者を鍛え上げて、人類軍との戦いで使える兵士に育てる事、そしてそれを使って人類軍へと侵攻する事だ。多少厳しくしごいて構わん。まぁもったいないから、壊れるような事まではするなよ。

 あと、その呪いの効果があるから、特務部隊では人類軍、魔王軍という言い方は厳禁だ。我々、我が軍、敵軍、敵部隊、敵拠点、そういう表現が絶対だ。特務部隊に配属される連中にも徹底させるが、お前の方でもしっかり見ておけ」


「かしこまりました」


「人類軍にいると勘違いさせたまま、敵である人類軍へと攻める手駒としてしっかり有効に活用しろよ」


 俺が強くなるのとは別ベクトルの役割だが、他の奴に教える事は自分の勉強にもなると聞くし、勇者を鍛える事が俺の強さになるかもしれないな。



 そうして俺は次々と送り込まれてくる勇者を育てては、人類軍への侵攻部隊として戦場へと投入し続けた。

 第2防衛拠点の場所までは順調に侵攻してきたが、危機感を覚えたのか、人類軍の守りも手強くなり、ここ20年ほどは最前線の場所が変わっていない。

 やってくる勇者は、魔力が高かったり、戦闘向きなスキルを持っている奴が多い。だが、俺を超えるような逸材は見つからない。そういう奴がいれば、しっかり鍛え上げて俺の代わりに人類軍への急先鋒になってくれるのだが。


 今日もまた新しい勇者が送られてきた。どこから来ているのか聞いた事はないが、聞かない方が良さそうだ。


「本日からお世話になります、蘭です」


「しっかり鍛えてやるから覚悟しろよ」


「はい! 敵を倒せるようになるために、ご指導よろしくお願いします!」


 気合と礼儀はしっかりしているな。まぁある程度鍛えたら戦場で使い潰すだけだがな。

 こいつの能力はと……なんだこのスキルは。研究所の調査結果には、殺した相手の魔力やスキルを吸収するとある。

 ふむ。それなら人類軍を殺し続ければ、無限に強くなるという事か?

 少し丁寧に育ててみるか。



 面白そうなスキルを持っていた蘭という勇者だったが、思ったほどは強くならなかった。正直期待外れだ。

 死にかけの老魔族を殺させたり、捕まえて情報を取り終えた人間を殺させたりしたが、強くなる幅は僅かだった。これでは、こいつが死ぬまでに俺の強さを超える事にはならなそうだな。

 これ以上特別扱いをするのは時間の無駄だ。ガンガン人類軍へ侵攻させて、運よく生き延びて強くなったら儲けものくらいに考えよう。

 はぁ~。俺を退屈させないような、いい逸材が来ないものか。



 先日の人類軍への侵攻で全滅したと思っていたあいつが生き延びていたらしい。部隊の他のメンバーが全員死んだのに、あいつだけか。

 出撃前よりは強くなったのだとは思うが、それでもまだまだ弱いままだろう。さっさと再度出撃させるか。



 何? 俺に来て欲しいと? 俺なら勝てる相手で、そいつを倒せば敵は崩壊すると。

 敵の強者か……この拠点での日々は退屈だ。それなら、たまには俺も戦場に出て、楽しませてもらおうか。


 それにしても、俺に物申してくるとはな。人間同士で殺し合うために頑張るなんて滑稽だ。自分が人類軍だと勘違いしながら、最後まで我が魔王軍の役に立ってもらうぞ。

 死ぬ瞬間まで、自分が正義の味方だと信じて事切れるがいい。



◇◇◇


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