第11話:暗殺
教官のテントの明かりを消して、静かに外へと出る。暗くなっていれば寝ていると思って誰も入らないだろう。その間に殺し尽くす。
まずは見張りの2体からだ。
俺のテントは教官のテントの入口の正面に位置しているから、まずは右後ろのテントへと向かう。
明かりを持ち、テントの脇を音を立てないように通る。耳を澄ませたが、中から音は聞こえてこない。大人しく寝ていろよ。後で殺しに来てやるから。
そのままテントを通り過ぎ、裏手に回り込むと、その奥に見張り役を見つけた。
足音を忍ばせて近づいたが、草を踏みしめた僅かな音が響く。
「ん、何だ? お前の見張り場所に戻れよ」
「さっきまで教官の所で作戦内容について話していて、その内容を共有するよう言われたんだよ」
そんなもの無いけどな。あえて言えば、俺が敵だって事か?
「共有? わざわざ夜にするのか? 明日の移動中で良いだろうが」
「教官がそう判断したんだよ。俺だってお前と同じ事を思ったけど、命令されたら従うしかないだろ」
「まぁ命令なら仕方ないか。お前も大変だな。それでどんな内容なんだ?」
「見張りをしながら聞いてくれ。こっちは向かないでいいぞ」
しっかりと隙を見せろよ。
「そうだな。何か見逃したら、ぜってぇやばいシゴキが待ってるわ。はぁー、やだやだ」
そうぼやき、見張りは野営地の外側へと視線を戻した。
俺は腰に下げた教官の剣へと手をかざす。
「共有しろと言われた内容は……お前らの未来だ」
鞘から抜き放ち、言葉の終わりと同時にうなじへと剣を滑り込ませる。
ザシュッ
俺の剣より教官の剣の方がこの攻撃方法には向いてるな。いつもよりキレイに肉を断った感覚がある。
奴の頭はごとりとその場に落ち、身体も前へと崩れ落ちた。ちょっと大きな音を出してしまったか……
ゔっ……ふぅ。魔力と記憶を喰いきり、周りの様子を確認する。もう1体の見張りには気づかれてないようだ。真面目に見張りしてたら気づいててもおかしくないんだがな。サボってたなら俺には好都合だ。
交代の時間まではまだ余裕があるから死体は放置して、もう1体の見張りの所に向かう。
最初の奴は明かりですぐに場所が分かったが、2体目は場所が分からない。見張りをする時は真っ暗ではなく、多少は手元の明かりを付けていていいと教えられたが、この見張りは明かりをつけないタイプなのか?
大体この辺りだろうと思う所を探していくと、俺の明かりが地面に座り込んだ魔族を照らし出した。
「……寝てるのか? ちゃんと起きて見張りしてるかー?」
……声をかけるが反応がない。本当に寝てるようだ。周りを確認するが何も見えない。
……殺るか。
さっきの奴と同じように居合斬りで首をはねた。寝てなけりゃ……いや、起きててもさっきの奴と同じように後ろから殺してたから、結末は同じか。
い゙っ……すぅー、はぁー。教官を喰った時ほどじゃないが、少しずつ楽になってる気がするな。
さて、見張りは殺し終えたから、次はテントで寝てる連中だな。1箇所に2体ずつ。片方を殺した時の音でもう片方が起きないように注意しないといけない。
……それなら同時に両方殺せばいいじゃねえか。ちょうど剣は2本あるんだし。多少音が出ても、全員寝てるから気づかないだろう。
使い慣れた俺の剣を右手に、左手には奪いたての教官の剣を握り、すぐ後ろにあるテントへと向かう。
そっと入口を開けて中に入ると、2体の魔族が眠っている。入口から漏れる月明かりで辛うじて見えるが、今殺されようとしているのに、それに気づかずに無防備なこって。
それじゃあ、おやすみ。
両方の剣を振り上げ、それぞれの首を目がけて振り下ろす。
ザザッ
左手の剣先が勢い余って地面へと突き刺さりながらも、2体の首を深々と斬り裂いた。同時に攻撃する事を優先すると、ちょうどいい位置から攻撃できず、一撃で斬り落とすのは難しかった。それでも8割以上は切れているだろう。これなら悲鳴をあげる事も、反撃をする事もできないだろう。
剣を地面から引き抜き、残り2割を完全に断ち切るように、剣先を地面スレスレに動かしてゆっくりと引き切る。完全に切り離されて、頭が胴体から離れていくのを確認して、もう1体の首も切り離す。
がっ……あ゙っ……ハァハァ。2体同時に魔力と記憶を喰うのはまた違うな。頭への負担が大きい。でもあと4体だ。そこまで終われば作戦内容完了だ。
次のテントである、俺のテントで寝ている2体もサクッと首を飛ばした。
教官の元に行く時に配置を見ていたから、テント内を観察したりする必要がなかったのは楽だった。
という事であと1箇所だ。
最後のテントの入口を開けて中を確認する。2体ともしっかりと寝ている。
さぁこれで作戦完了だ。終わったら必要なものを持って、別の所で夜を明かそう。
両手の剣を振り下ろした、まさにその瞬間だった。
バッ、ドドドッ
左側の魔族が突如目を覚まし、剣のリーチの外へと即座に転がっていった。右側の魔族の首はしっかりと俺の剣が斬り裂いているのだが。
「テメェ、何してやがる!」
暗闇のテントに怒号が響き渡る。気づかれたか。
「よく気づいたな。目を覚ましたのはお前だけだぞ」
「ふざけるな! 何をしたのか分かってるのか! 同胞殺しは重罪だぞ!」
確かに教官からよく言われたよ。
「あぁよく知っている。まぁ何の問題も無いけどな」
「何を言ってやがる!」
「お前らと同胞なんかじゃないからな!」
グッ……
両手の剣を振り回そうとした所で魔力と記憶が流れ込んできた。このタイミングで起きなかった方が死んだみたいだ。
不意の頭痛に思わず目を閉じ、右手で頭を抑える。視界は悪くなるし、動きも鈍くなる。戦闘中に記憶を喰うのは、危険すぎる。だが止められない……
「……急に苦しみだしたし訳わからんが、死ねぇ!」
俺の様子を見て好機と見た魔族は、近くに置いてあった剣を素早く掴み取った。そして、それを俺の左側から振り抜いてきた。
ここで殺られてたまるかぁ!
歯を食いしばり、左手の剣を縦に構えて攻撃を防ぐ。
キンッ!
鋭い金属音が響く。攻撃を防ぎ、敵は剣を引き戻して、俺から距離を取って構え直した。
……カラン
その瞬間、左手の剣は攻撃を受け止めた場所から折れてしまった。
チッ。教官の細い剣で技術が必要って言ってたけど、俺に技術は無いし、しかも攻撃じゃなくて防御に使ったらこうなるだろうな。戦場じゃ、最後まで共にいてくれる頑丈さの方が重要だな。
すぐさま折れた剣をゴミのように投げ捨てて、俺の剣を両手で握り直す。
ハァハァ。魔喰いのピークは過ぎたようで、少しずつ楽になっていく。更に吸収した魔力が、今度は俺を突き動かす感覚に変わっていく
「なんで気づいたんだ?」
まだ体調は万全ではない。確実に殺すために、話しかけて気をそらす。
「……あんだけの殺気を放ってれば分かるだろうが。戦場のド真ん中かと思ったぜ」
「戦場経験があるのか。お前の名前を聞いてなかったな」
「……アルフ、それが貴様を殺す者の名前だ!」
再びアルフが剣を振るい始めた。今度は両手で俺の剣を使って攻撃を防いでいく。アルフの剣も俺のと同じ支給品のようで、簡単には折れそうにない。
だが……余裕だな。力強くはあるが俺より弱く、アルフが技術的に優れているようにも感じない。教官がこの間の人類軍との戦闘前では同格だと評価していたが、そこから人類軍の兵士を何人も取り込み、更に魔王軍も、その中でも教官という強者を取り込んだんだ。
この差が覆る事は無い。俺が記憶を取り込んで苦しんでいる時以外で、こいつに負ける未来なんて訪れないな。
アルフの攻撃に合わせて、剣を斬り上げて強く打ちつける。
「んなっ!」
剣はアルフの手を離れ飛んでいき、その先でテントを斬り裂き、地面へと落ちていった。
「おやすみ、永遠に」
ガラ空きになったアルフの肩から腰へと剣を振り下ろした。大きく斬り裂かれたアルフから大量の血が吹き出したが、それを避けずに首へと剣を突き刺した。
「いや、俺の中で魔力と記憶だけは生き続けるかもな。俺の中で、俺のために生き続けろ」
突き刺した剣をねじり、首へ更にダメージを与えて引き抜く。
前へと倒れ込むのを避けて、剣についた血を振り払う。
お゙っ……他の隊員よりは魔力はあったな。ふぅ。これで作戦完了だ。
血のついた服を着替えて、荷物を整理したら出ていくか。
どこか落ち着ける場所を探して、記憶を確認しないとな。
着替えと荷物整理を終えて、野営地を離れていく。あんな所で寝ていて、もし偵察部隊に見つかったら面倒だ。
森を越え、川を越えて、1時間ほど歩いた所で、周りから見えにくい崖下を見つけたので、そこで一晩を過ごす事にした。
一夜明けて翌朝。目を覚ましたが、周囲に変わった様子は無い。
ここからは人類軍の防衛拠点へと向けて移動していく。目的は魔王軍の防衛拠点に関する情報の提供だ。人類軍の力を借りて、あいつらを1体残らず地獄に落としてやる。
移動中も、少しでも多くの魔王軍の偵察部隊を見つけて狩りながら行きたいところだ。
まだ比較的魔王軍の防衛拠点に近いからか、今日だけで6体の魔族を発見して殺した。出会った時の話と身体の動かし方を見る限り、6体とも偵察部隊だと思われるが、戦闘にすらならなかったのは人魔両性がちゃんと発動されているからか、それともあいつらに警戒心が無いだけか。
これで魔王軍を倒したのは21体。強い奴は教官くらいしか倒せてないが、初回の遠征でここまでやれれば十分だろう。
魔喰いのおかげで順調に強くなっているし、教官の記憶も吸収したのだ。
休める場所も見つけた事だし、少し早い時間だが今日はここで休んで、教官の記憶を確認しようか。どこに重要な情報があるか分からないから、人生を丸ごと……いや、魔王軍に入る所からでいいか。気づいたら朝になってたりしないよな?
時間の確認のために、ロウソクに火を点けて置いておく。
さて、目を閉じて、自分の脳に語りかける。
教官の記憶を、魔王軍に入る所から全て見せてくれ。
お前が何を見て、何を知って、教官をやっていたのか。
……意識が、教官の人生という名の情報の濁流に沈んでいく。




