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呪われていた勇者は世界を喰い尽くす ~殺すたびに増える魔力と記憶、そして死者の議席~  作者: 祐祐
第1章

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第10話:作戦開始

 4日間。俺は獲物の品定めに奔走した。

 訓練場では軽く素振りをしながら、魔族同士が近づいていたら、話し声が聞こえる場所まで行って耳をそばだてた。

 食堂では全ての会話が聞こえるように中央付近に陣取り、大盛りにしてもらって、ゆっくりと味わいながら周りの会話に聞き耳を立てた。

 風呂場ではのぼせないギリギリまで湯船に浸かりながら長風呂をして、名前が出てきたらピクッとして集中した。

 更に出発当日に誰が休みなのかも、訓練場で会話をしたり、教官の部下にそれとなく聞いてみたりした。





 だが、結果は散々なものだった。名前はかなりの数が分かったが、肝心の見た目と名前が一致しない。見慣れていない魔族の姿では、分かりやすい特徴が無いと判別ができないのだ。小隊長の記憶を元にしても、偵察部隊は分かるが特務部隊はほとんど分からない。

 おまけに、教官が部隊を編成した影響というか、俺のいた部隊の隊員が全員いなくなり、その上で教官と共に出撃するメンバーを他の特務部隊から持ってきた影響で、出発当日に休みの隊員がわずかになってしまった。


 その両方の要因が重なった結果……

 防衛拠点で殺すのは無理だと判断した。今回へまをして見つかってしまったら、次回以降防衛拠点に入れなくなる。それは元も子もない。超強敵であるレイブンを、その先の魔王を殺すためには、焦るのは良くない。

 教官とそれ以外の隊員8体については、野営中に1体ずつ襲えば大丈夫だろう。教官さえ倒せれば魔力も大きく増えて強化されるはずだし、メンバーが決まってから訓練場で観察しても俺より強い奴はいない印象だった。

 手を抜いている可能性はあったが、少なくとも教官にも確認をしたから間違いないだろう。



「教官。この編成で一番強いのが教官なのは間違いないですが、その次は誰ですか?」


「何故それを知る必要がある?」


 両手を顔の前に組んで、鋭い目つきでこちらへと問いかけてくる。


「教官が強敵を相手するなら、その間、誰が次に偉いのか決まっていないと……その、困ると思って。俺が代わりに指図してもいいんですか?」


「指揮系統の事か。まぁその通りだな。2番目か。以前ならお前とアルフがほぼ同じだったが、お前は魔喰いスキルがあるから、この間の戦闘で強くなってるだろう。実際どれくらい強くなったんだ?」


「どれくらい……出撃する前に教官から課されていた訓練を昨日やりましたが、以前より楽にできてますね」


「そう考えるとお前が2番目だ。自分で言い出したんだから、しっかりと指示を出せよ」


「分かりました」


 というやり取りをしたのだ。余計なやり取りはバレる可能性を考えてしたくなかったが、必要な情報だったし、そもそも部隊編成が決まったから教えるという理由で部屋に呼ばれたのだから仕方ない。

 アルフか。俺よりは弱いとしても、どの程度なのかは分かりにくい。用心をするに越した事はないな。





 そんな数日を過ごして、あっという間に出発当日の朝となった。昨日までに荷物を整理して、人類軍の防衛拠点に戻るまでに必要な食料の他に、今回の部隊メンバーの情報や防衛拠点の図を書いた紙も入れている。

 人類軍が求めているのは防衛拠点の図だろうが、こういうメンバーがいるというのも重要な情報だろう。口頭だけだと伝わらない事もあるだろうから、ここ数日で準備しておいた。書いた自分でも何とか分かる程度の下手な図だけど、無いよりマシだろう。


「全員揃っているな。今回の作戦は既に伝えた通り、少数精鋭による敵拠点への強襲となる。3日目以降は敵から見つかりにくいルートで接近して、敵の主戦力を叩く。

 前回の戦いから生き延びた蘭の情報を元にしたものであり、敵の強者や拠点の情報も伝えた通りだ。敵拠点を奪取し、我らの勢力を今度こそ広げるぞ!」


「「「おうっ!」」」


 教官が檄を飛ばし、部隊メンバーが獣のような咆哮で呼応した。俺もその熱狂に同調する振りをした。気合が入ってない、などと教官に文句を言われると面倒だ。


「それでは出撃!」



 第2防衛拠点の門をくぐり、人類軍の防衛拠点のある西へと進み出す。この道を通るのは2度目だ。前回は『偽りの勇者』として同胞を殺しに、今回は『裏切りの勇者』として、隣を歩くこいつらを喰らい尽くすために。

 一同は、俺と行軍に慣れているらしいメンバーが先頭となり、教官を部隊中央に配置した形で進んでいく。走ればもっと早く着くだろうが、さすがに教官も万全の状態で戦闘に望みたいらしい。





「今日はここで野営とする。各自野営の準備に取り掛かれ!」


 日がほぼ暮れた所で、教官からの指示が出た。俺はテント設営の担当のため、もう3体のテント設営担当者と協力して、背負っていたテントを順番に立てていく。しっかりと地面に杭を打ち、簡単には動かないようにする。

 今回の行軍でのテントの数は全部で4つ。教官だけは1体用で、他は3体用となる。各テントの3体のうち1体が見張り役になり、常に3体が見張りに付いている形だ。そのため、教官用のテントを中心にして、10mほど離れた場所3方向に3体用テントを設置していく。


 テントを張り終えると、食事担当が用意した食事が配られた。偵察部隊の小屋にあったのと同じものだな。本当に魔王軍は食事を栄養補給としか考えてないんだろうな。とはいえ食わなきゃやっていけないので、味を無視して水で流し込む。




「教官、後で時間をもらえますか?」


 全員が食事を終えてテントに戻る間際、俺は教官へと声をかけた。


「何の用だ?」


「作戦内容に漏れが無いか最終確認をさせて下さい。初めて隊員に指示をするので万全の状態にしておきたいので」


「まぁいいだろ。確か見張りの順番は最初だったよな。その前に来い。すぐには寝ないから安心しろ」


「ありがとうございます」


 さて、いよいよ作戦開始だ。




 俺は自分のテントを後にする。見張りの順番ではない2体は寝始めた。野営においてはいかにすぐに寝れるかも重要になるから、すぐに眠ってくれるだろう。

 野営地に明かりは無く、森の静けさが広がっている。


「教官、よろしいでしょうか」


「あぁ、入れ」


 この後は見張りなので、剣を持っていても怪しまれずにテントに入れるのはいい事だな。

 テントの中には教官の寝袋の他に、簡易的な机と椅子が用意されており、教官はそこに座っていた。


「しっかり休むために、早く始めるぞ」


「分かりました」


 そこから作戦内容を確認していく。大した内容ではない。教官が尾田部隊長の相手をして、それ以外を俺とアルフたちで相手をする。教官がサポートが必要と判断したら声をあげて、アルフが向かい、俺は引き続き他のメンバーを率いる。


「初めての指揮で心配になるのは分かるが気負いすぎるな。いつも通り、訓練通りに動けばいい。視野を広く、冷静に動くように心がけよ」


 教官はまるで本物の部下を労るかのような口調で言った。


「ありがとうございます。そういえば、教官の剣は私が使っているものと違うと聞いたのですが本当ですか?」


「ん? あぁ。お前が使っている剣より少し細長いものを使っている」


「どうしてでしょう? 何か利点があるのですか?」


「一番はリーチが長い方が有利だからだ。敵の刃が届かない間合いから、俺の攻撃だけ当てられるからな。ただ、そのまま長くするだけだと重くなるから、その分細くしている」


「脆くならないのですか?」


「そこは俺の技術でカバーだな」


「なるほど、技術ですか。俺にはまだ早そうですけど、その剣を見せていただけませんか?」


「ふん。まぁいいだろう。この作戦の副官をしっかりと務める報酬だ」


 俺は、憧れを隠しきれない熱心な部下を完璧に演じきり、上司の隙に付け入った。


 教官が脇に置いていた剣を鞘ごと差し出してくる。

 それを受け取り、鞘から引き抜いて、剣の刃を眺める。


「長いですけど、持ちにくさや振りにくさは感じませんね」


 教官に当たらないように、左を向いて剣を軽く振る。


「お前も活躍すれば、好みの剣を使えるようになるだろう。そこまで頑張れ」


「分かりました……ありがとうございました」


 武器を手放してくれてな。


 素振りをしていた剣を振り下ろすと見せかけて、左手を剣から離し、右足を教官の方へと踏み込む。そして、右手一本で強引に剣を右へと振り抜く。


 ドスッ


「な……に……?」


 驚愕に目を見開くがもう遅い。俺の思惑を見抜けなかったあんたの負けだ。

 剣は教官の首を深く斬り裂いた。首を斬り落とす事はできなかったが、首の皮一枚繋がっている程度だ。

 それ以上の言葉を紡ぐ前に、俺は返しの刃で残った皮を完全に断ち切った。ゴトリ、と重苦しい音を立てて、頭が地面を転がる。


 油断しすぎだ、この野郎。自慢の剣で殺されるのはどんな気分だ?


 ぐっ……


 剣についた血を払い落として鞘に収めると、教官の魔力と記憶が流れ込んでくる。

 ここまで大きな魔力を感じたのは初めてだ。濃密な魔力が全身の隅々まで巡り、そのおかげか、悶絶するはずの記憶の濁流すら、今はちょっと苦しい程度の刺激に感じる。やっぱりこいつは強者だったんだな。


 ハァ。それでも記憶が流れ込んでくるのは慣れないな。

 早く教官の記憶を確認したい所だが、まだ8体の魔族が残っている。見張りの2体とテントで寝ている6体。隙を見せたら俺が殺られる可能性が出てくるんだ。気を引き締めていくぞ。


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