第7話:予言者という配信者 - 野坂エリ視点
「は〜い、こんばんは〜!
予言者VTuber ソースィーだよ〜!
あっという間に年末だねぇ!
みんなはどう過ごしてる?」
>こんばんは〜!
>はじまった!
>今日仕事納めだった
>今日あたった。
>明日も仕事
あたしが動くのに合わせて、ぎこちなくアニメ絵の女の子が動く。
ちょっと動きが雑。
横を向けない、斜めも得意じゃない。
かなり可動域も狭いし、髪のパーツもほぼ一体化で、企業のVTuberと比べたら本当に最低限。
汎用モデル5,000円ならこんなもんだね。
ま、どのみち前を向いて話をしてるだけなら、これで十分でしょ。
「お仕事の民、おつかれ〜!
ソースィーは今冬休みだよ〜。
26日に終業式があってね、始業式は1月6日だからあんまり長くないんだよねぇ〜。
宿題も出たから、いうほど遊ぶ暇ないんだよね。」
>いや十分ながい
>社会人のワイ、30日から3日まで
「そっか〜、大人な民は大変だなぁ〜。」
>やさしぃ……
>次の予言いつ?
>今日勝てたありがとう
>まじで当たった!ありがとう
>¥10,000 まじでミッキー負けるとは思わんかった!おすすめの馬買っといてよかった!!そのお礼です、受け取って!!
>¥5,000 まさか本当に当たるとは思ってなかった、神!
「わ〜、早速のスパチャありがとう〜〜!
金額無理しないでね〜!
でも、ソースィーの事信じてくれた結果だねぇ、ありがと〜〜♪
そういうわけで〜、はい!
じゃじゃ〜〜〜〜んっ!!
今日のレースの結果から行ってみよっかぁ〜♪」
こういうのが好きなんでしょ?
知ってる知ってる。
先週画面に映していたノートには、日付と1着予想の馬の名前。
馬の名前の横に、はなまると単勝 11番 1,190円の結果を赤ペンで書く。
最初っからバリバリツールを使いこなしているところは見せない。
デジタルに不慣れな、辿々しく配信を始めたばかりな女の子。
女子高生のお小遣いで頑張って購入した安い汎用モデル。
今は、おじさんたちの庇護欲を育てる時期。
ちゃんと女の子だとわかる様に、手指のケアも忘れない。
可愛いネイルと可愛い文具。
文字は少しくらい崩れているほうがウケる。
わかりやすい女の子っぽさを演出してやるほうが、おじさんたちには刺さるでしょ。
>まじですごい。ここのところずっと当たってる!
>6回中6回とも当てるのすごい
>競馬予想回もっと増やしてくれ
>次はいつやるの?次のGⅢは?
あたしは、野坂エリ。予言者ソースィーの名前でVTuberをやっている。
まだこのリスナーたちは、あたしの配信で得をするとわかっているから来てるだけ。
まだあたしを愛してない。
全然足りてない。
「次がいつっていうのは、ちょっとわかんないんだよねぇ〜。
ごめんね〜。
私は馬の夢を見るだけだからなぁ〜。
期待させちゃってたら、ホントごめんね〜。
夢次第だから、また突発予想回になっちゃうと思うんだよねぇ。
だから、配信チェックしておいてね〜。
あ、告知はSNSでも流すので、あっちもフォローしてね〜。」
突発でなんて嘘だけど。
毎回定期にしちゃうと、その時にしかリスナーたち来ないもんね。
競馬の予想の部分は切り抜きNGにしてる。
普通の配信でも突発で予想を言っちゃうかんじで。
見逃しちゃうと損しちゃう。
だから、おじさんたちが集まってくる。
今は多分3周目。
1回目の死は、電車の中でよくわからずに死んじゃった。
2回目の死は覚えてる。
衝突事故を現場で配信したらバズるんじゃない?
そう思って、現場の近くで待機してたのがまずかった。
電車の事故だと思ってたら、通路まで爆発するとは1回目に死んだ時はわからなかったし。
あの爆発で、通路でワーワー声をあげている人たちも一緒に死んじゃったんだろうね。
前の3年間で、競馬の結果をたくさん見てきたから、しばらくはこれでいける。
株や為替のカードも残しているけど、すぐに答えが出る競馬が一番わかりやすい。
ーーー
これは障害なのか、ギフトなのか。
超記憶症候群という病名がついた。
要するになんでも覚えちゃう。忘れられない。
良いことも、悪いことも、どうでもいいことも。
初めは、漢字の書き取りテストで悪い点をとった友達が言った一言。
「エリー、本当に頭がいいね。
こんなのよく覚えられるよねぇ。」
テストは100点だった。
クラスの平均は58点で、先生にも友達にも褒められた。
だけど、空欄を埋めるのはただの作業だった。
当時は、覚えられないものがあること自体知らなかった。
だって1度見たら頭の中に残るんだもん。
自宅に帰って、母親に聞いたら
「まだ小学校のテストだもの、100点取れるのは別におかしいことじゃないわ。
まぁ、高学年になったら急に難しくなってくるんだからね」
高学年になっても、覚えるだけの問題は特に苦労したことがなかった。
友人のいう、覚えられないという概念が理解できなかった。
母からは褒められていた。
ある時、父を街で見かけた。
父は女の人と歩いていた。
しばらくたってまた違う女の人と歩いている父を見かけた。
何人か違う女性と歩いていたが、その当時は疑問に思うこともなかった。
その間、父のスマホのロック画面にポップアップのメッセージが出た瞬間を目撃した。
何人か違う名前のポップアップも見かけた。
全部覚えていた。
家族3人での食事中、何かのきっかけで母が言った。
「昔のことすぎて忘れちゃった。」
理解ができずに、質問をした。
「忘れるってなに?」
自分は見たものは全部覚えているよと言うと、普通は一瞬見た程度のものは忘れても不思議ではないと言われた。
だから話したのだ。
母が数年前に、ショップの軒先で青い帽子が素敵と言っていたこと。
その帽子の値段。
母はびっくりしていたけど、すごいね!と褒められた。
だから調子に乗ってしまったんだと思う。
父と歩いていた日付と女性の容姿、スマホに映ったポップアップに書かれていたメッセージの冒頭のテキスト。
1回見ただけだけど忘れてないよ、そのくらいのノリでポロリと口に出ただけだった。
父は蒼白な顔をして、母は愕然とした顔をしていた。
その顔は初めて見る顔だった。
結果。
父は複数の女性と浮気をしていて、母が離婚で家を出て、あたしは父に気味が悪いと捨てられた。
いや、戸籍は抜けてないし、学費や生活費はもらってる。
お手伝いさんが家事をしてくれる。
ただ父が家に帰らなくなっただけ。
ーーー
>ソースィーは馬の収支どのくらい?
「あ〜、私はね〜、まだ高校生だから、馬券買ったことないんだよねぇ。
良い子の民もハタチになるまでは買っちゃだめだよ〜。」
あたしは買ったことないよ、あたしはね。
これは嘘じゃない。
はは。笑える。
>じゃぁ、ただ予想するだけ?
>ただの競馬好き!?
>勿体無い!!
>¥10,000 ソースィーに還元!
>¥10,000 ちょっと早いけどお年玉
>¥10,000 おじさんお小遣いあげたくなってきた
「ちょ、ちょっと待って待って。
民はちょっとおちついて〜〜〜っ!
も〜、大丈夫だよ〜、ハタチになったらいっぱい馬券買うから〜〜〜〜」
いつもよりスパチャが多いのは、不憫に思ったせいか、財布の紐が緩くなったせいか。
個人Vで活動を始めて2ヶ月弱。チャンネル登録者数は8,000を超えて、スパチャも解禁されて収益も増えてきた。
あたしとシンクロして動くアニメ絵が無邪気に笑った。
>どんなトリック?
>中身おっさんだよ、たぶん。
>馬の関係者でしょ。八百長してんじゃねぇの?
うわぁ、アンチだ。
まぁ、こういうのは相手されたくてウザ絡みしてくるんだよね。
「えっと……あ、そうそう、今日はね、
人狼ゲームをやろうと思ってます!」
>気にしちゃだめ
>こいつらブロックだな。
>いいね、ソースィーちゃんは占い師っぽいし。
>頑張れ!
>人狼ゲーム楽しみ!
ちょっと傷ついたフリで間を持たせて、それでも健気に笑ったりして。
ほら、そうしたらおじさんたちが応援してくるの。
「は〜い!
じゃぁ、最初に人狼ゲームの説明をするね〜。」
ゲームの結果は、まぁ、お察し。
この界隈で流行っているから取り上げてみたけど、いまいち。
複数人でワイワイするのが面白さなのに、NPC相手で盛り上がれるわけないじゃん。
>予言者なのに、全然当たらないw
>ゲーム下手
>しゃぁ〜ない〜
>当たらなすぎて笑う
「うぅ……。
初めてのゲーム難しかったですが、次回あったら頑張る〜。」
>次回は競馬予想?
>次のGⅢ予想やって〜!
>競馬以外も予言してくれないと、本物とはわかんねぇよな。
>株予想すると、それだけで変動しちゃうからむずかしくね?
>本物って証明ほしいよな。
「次回はどうしよっかな〜。
SNSで告知するので、興味あったら見にきてね〜。
は〜い、そう言うわけで、今日の配信はこの辺で〜。
まったね〜♪」
カメラのライトが消えて、配信画面も終了。
息を吐く様に、「まじでうざぃ」と声が漏れた。
ーーー
ガチャリとドアが開く。
「恵子さん〜、配当金どうだった?」
「はい、エリちゃんお疲れ様。
うん、言われた通り口座に入れてきたわよ」
「はいはい。
こっちの恵子さんへの手数料は抜いてる?」
「ええ、4割いただいたわ。
でも、本当に当たるのね。
当たりすぎて怖いくらい。
私結構な金額をもらっている状態だけど、本当にこれ、大丈夫?」
テーブルに置かれた通帳を、ペラペラとめくりながら口角が上がる。
「ま、あたしの予想は外れないからね〜。
だけど配信で出しているレースは、倍率下がっちゃったから、渋いねぇ。
元々が90倍だったから期待してたけど、11倍になっちゃうんだよね。
しょぼ〜」
恵子さんは父の用意した家政婦さん。
まぁすでに買収済みで、あたしの代わりに競馬での集金を頼んでる。
手数料は2割。何もしなくても2割は稼げるんだから、完全に作業だけど。
「エリちゃん、もう結構なお金が貯まってて……。
これ本当に私の個人口座に4割も入れてもらうのって、もらいすぎじゃない?」
「馬券も所得税も恵子さん名義のものなんだから、別に言うほど多くはないと思うよ。
所得税ってさ、恵子さんに実際に渡したお金の8割くらいは持ってかれるから。」
「え、そんなに?」
いや知らないけど。
多分いっぱい取られるって言うのは知ってる。
「そーそー。それに、口止め料もコミなのわかってる?
無駄遣いしないほうがいいよ、ね、しゃちょ〜。」
そう。
あたしは、恵子さんを建前上の社長にしてる。
個人VTuberの社長を恵子さんとしておけば、企業扱いもできるし。
そこに競馬の売り上げを入れてもらってる。
このお金を元に、株や投資を始めてもいい。
記憶している知識のストックは3年分。
だから勝負はこの3年だと思ってるんだよね。
「ね、エリちゃん、これ本当に違法じゃない?
私大丈夫なんだよね?」
「何ひよってんの?
大人なんだから堂々としてなよ。
未成年のあたしは競馬では1円も稼いでないし、恵子さんが競馬の利益で会社を経営して、所属しているVに給料出しているだけなんだから、どこにも悪いところないじゃん。」
「そうよね。
……それに問題あるなら、きっとエリちゃんならわかると思うし……
大丈夫よね。」
しぶしぶキッチンの作業に戻る恵子さんの後ろ姿を見ながら、あたしはスマホでSNSのエゴサをする。
これはほぼ日課。
自分の配信を見たおじさんが、何をコメントしてるのか。
あたしを褒める言葉より、アンチ側のコメントの方が目につく。
あぁ、イライラする。
競馬が当たったって報告もあるけど、最近特にアンチが増えてきたなって思う。
当たるんだからいいじゃん。
配信見れば、全部本当だってわかるのに、文句を言う奴って、あたしの配信見ないで文句を言うんだよね。
まじでむかつく。
ちゃんと配信見てから文句言えって。
>競馬以外も予言してくれないと、本物とはわかんねぇよな。
「競馬以外か……」
配信部屋に隠している大学ノートを開く。
何のレースを話そうか計画をまとめているノートには、前回記憶していた事故や事件のメモもかいていた。
「化学工場の火災って、年明けに学校再開して早々にニュースになってたよね……。」
緊急速報のテロップと、バラエティ番組を遮るニュース番組。
暗闇に火災の赤と、煙と火花、それから空を塗りつぶすオレンジ。
ニュースで流れる映像に、消防車のサイレン。
夜の火災だったから、施設は稼働していなくて、警備の人が死んだくらいで済んだんだっけ。
あぁ、これくらいがちょうどいいかもね、と女の子らしいファンシーな赤ペンで丸をつけた。




