↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/11

第4話:未来が金に変わった - 斉藤雄介視点

 リモート勤務のいいところは、スケジュール進行さえ守れていたら、多少の融通がきくところだ。

 過去に戻るだなんて現実が受け入れられず、手につかずに午前を過ごしてしまった。

 朝から何も食べていなかったので、昼休憩時間にレトルトのカレーを温めて腹に入れた。

 電気ケトルでお湯を沸かして、食後にドリップコーヒーを飲んだあたりで、腹をくくらねばという気持ちになった。



「ちぃちゃんごめん」



 早苗が妊娠したのは、確か次の夏だったはず。

 だから、今はどこを探しても、ちぃはいない。

 だから、今することはちぃを探すことじゃない。



 それに、あの電車の夢。



「俺やっぱり死んで戻ってきたんだろうか……」



 今週提出の仕事を前にどうなるかと思ったものの、記憶が薄れてはいても、当時は試行錯誤で苦労していたことも、3年の経験値を持って対応すれば割とどうとでもなった。

 夕方には作業は終わっていたし、ひょっとすると前回よりも良いものを作ってしまったかもしれない。



 早苗からメッセージアプリのLIMEにメッセージが届いていた。



 早苗

『今日急遽飲み会になった、ごめん!』15:20



 雄介

『了解、気をつけて』15:42



 早苗はやっぱり浮気をしていたのか、今はまだしていないのか、そもそも本当に浮気だったのか。

 ひょっとすると夫婦としてちゃんとやり直せば、あの未来が変わるんじゃないか。

 せめてタイムリープする前に、弁護士の先生の話を聞いておきたかったと思いながら、早苗と顔を合わせるまでに時間の猶予ができたことに安堵している自分もいた。



 ーーー



 ひょっとしたら、これはチャンスを与えられたと言うことではないか。



 日本には800万の神様がいるんだったか?

 まぁ、宗教には詳しくないが、少なくとも人間がどう頑張ったってタイムリープなんてことはできないと思う。

 できないよな?

 いずれにせよ、おそらく俺はチャンスをもらったんだ。


 何のチャンスかと考えたら、やっぱり、家庭崩壊の危機を乗り越えるってことじゃないか?

 次点であの電車の事故で死なないことか?

 でもそれなら、1時間前に戻るだけで充分だと思うから、3年も前に戻ったってことを考えると、夫婦仲の修復をする期間なんじゃないかって思うんだ。



「よしっ」



 パンと頬を叩いて、気合を入れた。

 俺が頑張れば、未来が変わるんだ!



 そうなってくるとやらないといけないタスクが浮かんでくる。


 夫として早苗を満足させて、愛情不足を感じさせない

 生活基盤の不安を解消する


 夜の営みを考えると、早苗から誘ってくることが多かったのも不満だったのかもしれない。

 性欲の不一致は離婚理由にも浮気理由にもなると聞いたこともあるし。

 ……まぁ、そ、それは、個人的には困らない話だけども、うん、まぁ一旦置いておいて。


 そもそも、あの喧嘩になった話題の原因を考えたら、自分のリストラが発端だったと思うんだ。

 マンションのローンもあって、それに早苗の育児休業中は貯金を削ってしまっていたせいなのかも。

 だったら逆に、生活に困らないだけの金を持っていればいいだけのことだ。


 この会社は3年後に自分の配属してる開発部が解散になる。

 俺が3年先の未来の知識で売り上げを……は、流石に無理があるな……。

 多少の効率が上がったとしても、会社の方針が動くほどの影響を与えるというのは無理だ。


 じゃぁ早めの転職かとも思ったが、年収400万の実績しかない俺が、増えたところで500万。

 劇的な改善策には色々足りない。


 バカ売れするアプリを開発して……。

 バカ売れしたアプリって何だ?この先AIサービスが急激に増えたくらいの記憶しかない。

 むしろ、そのAIサービスの躍進でエンジニアがリストラ対象となったようにも思えてきた……。



 うぅ……。



 でもそれよりももっと簡単な方法を思いついた。

 いや、魔がさしたとも言える。


 競馬や投資、答えを知っているなら確実に勝てるんじゃないか?


 ……競馬?


 あぁそうだ。競馬をやろう。



 これは、タイムリープ前の職場での話。

 俺には、馬の擬人化のレースゲームにハマってから、実際の競馬にも手を出して競馬にのめりこんだ後輩の山田君がいる。

 俺も付き合いでアプリをインストールして、昼休憩にゲームや競馬の話をよく聞いていた。


 その中でちょっと記憶に残っていたのが、11月の最初の週末のGⅢレースで大当たりをしたという話だ。

 16頭走るレースで、11番人気の馬が勝ったというもので、その配当は、実に90.7倍という。

 馬の名前は、サンライズ……何だったか、ちょっと記憶が怪しいが、日の出のような景気のいい名前だと思った記憶がある。

 その時山田君は、1,000円分の馬券を買って、9万円を超える配当金を得たと言っていた。

 まぁ、ただ友人グループと打ち上げに行って、気前良く酒を奢って、そもそも外れた分の金額を差し引くと、手元には1万円も残らなかったと笑っていたが。


 そしてレースは次の日曜だ。


 ゴクリ。

 思わず自分の通帳の残高を確認してしまった。



 俺は2つの通帳がある。

 1つはローンを引き落とされる銀行の通帳と、自分の給料が振り込まれる別の銀行の通帳。

 毎月ローン口座に生活費とともに15万円移動させている。

 残り7万円は自分の昼飯代と小遣いで消えていくわけだが、リモートワークが増えて家から出ずに過ごしていた影響もあって、実は結構口座に残っている。


 その額およそ50万円。


 要するに、その50万円でその馬券を買うと、4,500万円を超える収入になるという形だ。

 競馬で稼いだお金は確定申告の対象となるだろうから、税金のことを考えると、実際の自由にできる金額で言うなら3,600万円を下回るだろうけど、それでもその金で家のローンを完済すればいいんじゃないか?



 ーーー



 夜中に早苗が帰宅した。



「ただいま〜。雄介今日はごめんねぇ〜。」



「お……おかえり。水飲む?」



「飲む飲む〜。」



 同僚とガッツリ盛り上がってから帰宅した彼女は、実に楽しそうに今日の二次会の店のどの酒が美味しかったのかを語っていた。

 うん、あの頃の早苗だ。

 正直に言って可愛い。久しぶりにこういう可愛さを見たなと、何だか懐かしさも感じる。

 彼女の社交的なところも好きだ。

 どちらかと言えば受け身になってしまう自分にとっては、その積極性に助けられていたんだと思う。


 そう考えると、育児休業中の早苗はストレスが溜まっていたんだろうなと申し訳なくなる。

 愛猫は、うるさく酒臭い飼い主に体を擦り付けて挨拶をしたものの、とっとと別の部屋へ移動してしまった。



「……あのさ、」



「なぁに?」



「……いや、俺、頑張るよ。」





 ーーー



 11月5日(土)19時。

 オンライン購入で馬券が買えるサービスに登録して、馬券を買った。

 1口100円を5,000口。


 タイムリープそのものが自分の勘違いで、ここから先の未来の記憶が丸っと夢で、明日レースが外れたら……。

 取り消しができないとわかっていながらも、購入画面を閉じることができなかった。



「そうそう、明日なんだけど、美容院予約してて、午後から出かけるね。

 何か買うものあったらお使いするけど、何かある?」



「だ、大丈夫。

 俺は明日は家でゆっくりしてるよ。」



 スマホに気を取られながら、口角を引き上げて返事をする。

 多分、何も手につかない自信があるから、家で結果をじっと待つ方が安全だ。




 ーーー




 そして、翌日の15時40分。

 案の定、なかなか寝付けずにいて、眠気と気だるさを抱えながらPCの画面に向き合っていた。



 この時期、競馬を取り扱っているサービスやアプリではリアルタイムで動画視聴もできたとは思う。

 できたとは思うが、その緊張に耐えられそうにないと、文字で結果を確認できるWEBアプリでの速報を待つことにした。


 賭け事で遊ぶ経験が全くなかったので、こんなに怖い思いをするとは思っていなかった。



「えっ」



 アプリで確認すると、記憶の通りの馬を選んで買ったはずが、そもそも11番人気ではなかった。

 最終的に10番人気になっていた。オッズも変わっていた。


 ……そりゃぁそうか、自分がいっぱい買ったんだし。


 15時45分にスタートだから、2、3分後には結果が出るんじゃないか、いやそんなに早くは出ないか、何回かリロードをして、15時52分。


 レース結果の着順表に表示されたのは、



 1着 7枠 14番 ・・・


 と、サンライズの文字。

 縁起のいい名前があった。



 それから確定の文字。


 そして震える指に力を入れて、マウスの中央のホイールを回す。

 画面をスクロールさせると、払い戻し表が表示され、単勝14番4,930円の文字が見えた。



「ぁ、ぁ、当たったぁぁぁぁぁ!!」



 思いの外大声を出してしまった。

 どっと汗が噴き出た、手に汗どころじゃない、首元から雫が流れる感触があった。



 配当金49.3倍の2,465万円。



 最初に4,500万という金額を思い浮かべてしまったので、がっかりしてしまう自分もいたが、いやいやいや。そうじゃない。


 2,400万だぞ?

 すごいよな?

 俺の手取り年収8年分くらいだろ?

 そう考えるとやっぱりすごい。


 我にかえってからもどこか落ち着かず、自分の部屋をただうろうろと、うろついてしまっていた。

 スマホの画面を見ながら、記念にスクショを撮ってしまったのもしょうがない。



「……とりあえず、次に会ったら、山田君に飯奢ろう。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。