9話
サヤカと名乗った少女は、アカネ達を連れて廊下を歩きながら、この施設と『スレイプニル』についての解説を行っていた。
「——第三世代TDの最大の特徴は、機体操作に操縦桿が必要ないということです」
「じゃあ、どうやって操縦するの?」
誰かの質問がサヤカに投げられた。
「それは……思考で動かしていると」
「思考? どういうこと?」
「身体を動かす為に使う信号を、機体を動かす為の信号に変換して使うんだって、フラウ……博士は言ってました。理論上は、生まれたばかりの赤ん坊でも出来ると」
フラウ博士とは、先程の白衣の女性だろう。
「もちろん、ただ動かせるだけでは戦えませんから、ある程度の訓練も受けてもらうと、フラウ博士は言っていました」
サヤカはそう説明しながら、壁に取り付けられた機械を操作した。
すると、機械の隣の扉が開き、部屋の中にあった棺型の機械を露わにした。
「えっと……ここは訓練用のシュミレーション・ルームです。皆さんには、出発までここで訓練してもらいます」
台本をそのまま読み上げているような、緊張感のある声。
それを聞きながら、アカネはサヤカという少女について考えていた。
見るからに彼女は軍属ではなかった。
着ている服はかなり上等なもので、良いところの生まれなのだろうなという想像をさせるものであったが、そんな良いところのお嬢様が新型兵器の開発に関わっている姿は、上手く想像できなかった。
こんな余計なことを考えてしまうのは、どこかトッラクを見送ったあの時のアオイの姿に似ているからかもしれない。
「えっと……。アカネ、さん?私のことじっと見て、何かありましたか?」
いつの間にか、アカネの周りにはサヤカ以外いなくなっていた。
どうやら宿舎周りの説明をしていたようで、アカネ以外の面々はロッカーに各々の荷物をしまっていた。
「いや、サヤカさんは何でここにいるのかなって」
「やっぱり、そう思います?」
そう言いながらサヤカは、自嘲気味に笑った。
「私、軍人じゃないんですよ」
「じゃあ、どうして……」
そう言ってすぐ、アカネは、しまった。と思った。
かつての戦時中、アカネのいた部隊においては、なぜ従軍したのかという問いは禁句に近い扱いだったのだ。
――やっぱなし。 そうアカネが言おうとしたところ、サヤカが先に口を開いた。
「……お姉ちゃんなんです」
「えっ?」
「『スレイプニル』を作ったの、私のお姉ちゃんで……。そのよしみで、手伝ってるんです。昔から、よくお姉ちゃんに連れられて、ここに来てたから……」
サヤカのその言葉に、アカネは息を吞んだ。
彼女は、アオイと同種の人間だったのだ。
「えっと……アカネさんは、どうしてここに来たんですか?」
アカネは、言葉に詰まった。
アオイのそれに良く似ている、真っ直ぐな青い瞳に、自分の胸の中にあるどす黒いものを晒すのが怖かった。
喉の奥から湧きあがろうとする、どす黒い何かを呑み込んで、アカネは綺麗な部分だけを投げた。
「妹の為……かな」
「妹さん?」
「そう、前の戦争で体調を崩して、今も病院にいるの。できれば一緒にいてあげたいけど……今のこんな世の中じゃ、さ」
そう言う自分の姿に、アカネの胸は痛んだ。
「……立派、です。私は、お姉ちゃんが病気で死んじゃった時、何もできなかったから……」
——違う。私も、何もできなかったのだ。何もできなかったから、今になってこんなことをしているのだ。
今すぐ、彼女にそう言うべきだった。しかし、アカネは、何も言うことができなかった。




