8話
アカネ達がトラックから降ろされたのは、金属製の壁に覆われた広い部屋だった。
天井は15メートルほどあり、軍人とも少し違う雰囲気を持った大人達が、忙しなく動き回っている。
見たこともないようなその景色を見渡すアカネ達のもとに、口の悪いトラックの運転手から名簿と思わしき書類を受け取った白衣姿の男が近寄ってきた。
「君たちは、こちらに」
白衣姿の男の落ち着いた言葉遣いに従って、アカネ達8人は、大きなリフトに乗り込んだ。
リフトはゆっくりと沈み込み、アカネ達を地下の暗闇へと誘う。
地下の空間は、冷たかった。
上のフロアよりもさらに広い空間の中に、伸ばした手の指先すら覆い隠してしまうほどの闇があった。
その空間の冷たさと相まって、地獄かどこかに迷い込んでしまったのではないかと思わせる空間の先に、何かがある。
その部屋の冷たさの正体であろう何か、輪郭すら定かではないそれに、アカネは視線を奪われていた。
——あれの正体を見てしまえば、ここの大人達はもう、私をここから返してはくれないだろう。
望むところだ。と、アカネは怖気づく自分に答えた。
それに応えるように白衣の男が、リフトに取り付けられたスイッチを押す。
部屋の壁に取り付けられていたライトが次々と点灯し、その部屋の重苦しい存在感の正体を解き明かした。
「あれは……」
それはまるで、精巧な硝子細工のような兵器だった。
光を反射し白く輝く8人の巨人が、アカネ達の前に壁のようにそり立っている。
もちろん、巨人が鎧を着ているわけでは無い。
そこにあるのは、金属製の巨人なのだ。
体を動かすのは筋肉ではなく、それを模した無数の機械。
心臓となるのは、本物の人間。
戦場の王者であり、アカネのただ一人の妹を手の届かない遠くまで連れて行ってしまった、忌むべき鋼鉄の巨人――
「今作戦、君たちにはこの機体を使ってもらう」
「私達ハタエ技術部が開発した、世界最初の第三世代TD、名前は……『スレイプニル』。これを、貴方達に預けるわ」
白衣の男の声を遮って、機体のそばにいた女性が姿を現した。
言い方を選ばずにその女性第一印象を口にするならば、奇妙な人物だった。
服装は青色の士官服で、その上にくたびれたコートのような白衣を羽織っている。
それだけならば、一介の技術士官だとアカネ達も思っただろう。
異様だと感じたのは、くせ毛と言うにしても乱れすぎている髪だ。
つい先ほどまで眠っていて、急いで支度して出てきたのではないか――。
そう思っていたアカネ達の思考を、目元の深いクマが否定していた。
この人は一体、何をどうしてこんな姿になっているのだろう?
そんな思いが籠ったアカネ達の視線を気にしたふうもなく、女性はアカネ達の顔を見た。
「なんでこんな子供ばっかり……」
全員の表情を撫でるように確認したその女性は、小さなため息をついた。
それを聞いた少年が、白衣の女性に対し、質問を投げた。
「……どうしてこれを、僕たちに預けるんですか?」
「決まっているでしょう、正規のパイロットが使えないからよ」
白衣の女性は、続ける。
「今も、ここから100キロも離れてない場所で、戦闘が行われているわ。戦後に作られた緩衝地帯から、どうにか国に帰ろうとして国境越えを目指している連中とね。今のモリニア政府は軍を、兵器を失くせば戦争は起きないと考えているようだけど、その結果がこれよ」
「貴方達はこれから、緩衝地帯から押し寄せてくる元モリニア軍と戦うの。モリニア政府が重い腰を上げて、鎮圧部隊を送り込む決断をするまで国境を守るのが、貴方達の仕事」
白衣の女性の雰囲気に気押されたのか、少年は震える声で再び質問した。
「街の方で、降りた人たちは……?」
「もちろん、貴方達と一緒に行くわ。正規兵を使えないから、人手が足らないの。今頃、必死になって訓練してるはずよ」
白衣の女は、話はそれまでだ。とでも言いたげに掌を振り、『スレイプニル』と呼ばれた機体の元へ向かった。
「ああ、そうだ。サヤカ、機体の説明、あんたがやりなさい」
それだけ言ってどこかに消えていってしまった白衣の女性に変わり、サヤカと呼ばれた人物が姿を現した。
「えっと……ハタエ・サヤカです。よろしく、お願いします!」
サヤカと名乗った声の主は、軍隊とは似つかわしくない雰囲気を纏った、アカネ達と同世代の少女だった。




