7話
輸送トラックで揺られ揺られ、アカネ達がたどり着いたのは、東側との境界に程近い、小さな町だった。
そこでほとんどの面々はトラックから降ろされ、残ったアカネ達に、食事が配られた。
——降ろされた面々はどうなったのだろう……?
そう考えながらも、身体というものは正直で、アカネは包み紙の封を破っていた。
包み紙の中から現れたのは、塩漬け肉をほぐしてマヨネーズであえたものを挟んだ、サンドイッチだ。食堂での食事とは比べられないが、移動中の食事としては上等も上等なものだった。
「おお、ラッキー」
コヒーは同じものを見て、目を輝かせた。
大口を開けてそれを頬張り、口元にソースをつけながら笑顔を浮かべている。
「どうしたの、食べないの?」
「……食べるよ」
アカネはコヒーのお気楽さが羨ましかった。
アカネはこれを、最後の晩餐なのではと勘繰っていた。
このあとすぐに国境に連れて行かれて、「死んでこい」と言われてしまうのではないかという、被害妄想にも近い考え。
アオイを半ば放り出すような形で出てきてしまったからには、無事に帰りたいと思うのが姉心なのだろう。アカネはその突飛な考えが一蹴できないほど、神経質になっていた。
アカネは苛立ちをぶつけるようにして、サンドイッチにかぶりついた。
石のように硬いはずだと思っていたパンは予想よりずっと柔らかく、アカネの口内に溢れんばかりの複雑な塩気をもたらした。
パンが上質なだけではない。どの食材も、丁寧に下処理されていることがよくわかる美味さだっ
自分達が野営地で作るさとは大きく違うその美味さは、15の少女の苛立ちを抑えるのに、かなりの働きをしたようだった。
サンドイッチは次々とその体を小さくし、コヒーのサンドイッチが半分になる頃には、アカネの手元のそれはものの見事に全てなくなっていた。
「あらまぁ、機嫌悪そうにしてたのに」
「……」
そんなことを言われたりもしながら、約30分。全員の手元にあったサンドイッチが無くなった頃、トラックの運転手が現れて、点呼をとった。
トラックの中に残っていたメンバーは、8人。
どこにも共通点など見つかりそうもない8人組。あえて言うなら、年が近いくらいだろうか。
「チッ……遠足行くわけじゃねぇんだぞ……」
トラックの運転手は、そう毒づきながら運転席へと向かった。
もちろん、荷台に座ってる面々は、それに良い顔をしなかった。
しかし、何か文句をつけたら放り出されかねないという空気が、アカネ達の言葉を封じていた。
その空気のまま、トラックは動き出した。
街の外に出たのだろう。最早座っているのではなく浮いているのではないかと思わせるほどの振動がアカネ達を襲った。
ここまで来ると、最早会話など不可能である。
口を開くだけで舌を噛んでしまいそうな振動の中、アカネ達は荷台の端を掴みながら、時折見える幌の向こう側の景色を見ていた。
かつての戦争で激戦区となった平原には、無数の弾痕や巨大な足跡が残っていた。
それによって浮き上がった幌の向こうには、戦車や金属製の巨人の骸が転がっていた。
「TD……」
TD
それは半世紀前に現れた、身長約10メートルの人型兵器である。
高い機動力と、使用可能な武器の多様性から、主力陸戦兵器の座を瞬く間に奪い取ったそれは、大陸に新たな戦争の形を産んだ。
大きな機体を整備する為の格納庫を用意する為の陣地の大型化、整備員の増員、そして、それらを後方から支える下働きの増員。
孤児院出身のアカネ達が軍に入ることができたのも、ある意味TDのおかげである。
しかし、アカネはTDに対して、あまり良い感情を持ってはいなかった。
その理由は単純。アオイをアカネの元から奪っていってしまったものも、TDだったからだ。
戦争の最中のある日、いつものように雑用をこなしながら過ごしていたアカネの元に、義手の男が現れた。
TDのパイロットになれる人を探している、と彼は少年兵たちの前で言った。
その申し出に、少年兵達、特に年長者達と男子達は大いに喜び、期待に満ちた表情を浮かべていたことを、アカネはよく覚えている。
それは、退屈な後方での雑用勤務から解放されたいという感情だったのかのかもしれないし、どうせそう遠くないうちに前線に送られるのであれば、花形のパイロットとして戦いたいという見栄だったのかもしれない。
理由はどうあれ、多くの少年少女達がアカネ達の元から旅立っていって、帰ってくることはほとんどなかった。
帰ってきたのは、アカネが知る限りでは、アオイ1人だけだ。
自分もそれと同じ道を進もうとしていることに、アカネは思い至った。
——帰れるだろうか。
脳裏に浮かんだ問いの答えは聞こえず、激しく揺れるトラックはどこかへと走っていった。




