28話
国境要塞の上げる爆音を聞きながら、アカネ達はトラックに歩調を合わせて西へと進んでいた。
爆音の正体は、要塞の弾薬庫だ。
持ち出すことのできない弾薬類に爆薬を仕掛け、要塞上層部ごと敵を吹き飛ばしたのだ。
敵の動きを遅らせつつ、要塞をモリニア侵攻の橋頭堡にさせないための、苦肉の策だった。
その為にアカネ達はギリギリまで要塞に残って、敵を引きつけていたのだ。
もちろん、こちら側も無傷ではなく、歩くのがやっとの状態だったアンナの2番機はアカネの機体を杖代わりにしていた。
「もうすぐ帰れる……」
そんな希望を胸に、ゆっくりと進み続けていた。
達成感は無かった。
今アカネの心中にあるのは、『ようやく終わった』という疲労感だけだった。
「アカネさん、私は大丈夫ですから。コヒーさんのサポートに回ってください」
「大丈夫、コヒーなら無事に帰ってくるよ。私がいる方が、よっぽど危険だ」
アカネのそれは自虐ではない。
視界の端に映る武装のウィンドウは全て、真っ赤に染まっていた。
長剣はロスト、機関砲の残弾も、フルオートで1秒持たないほどの量しか残っていない。
その上、視界までよくない。モニターは戦闘の余波でひび割れを広げ、左側のモニターは3秒に一回消えてしまうほどだ。
こんな状態で戦闘をするのは、無茶を通り越して、ただの自殺行為だ。
敵が来たら、コヒーが突破されたら、一巻の終わり。
そんな不安をアンナに知られたくなくて、アカネは慌てて話題を変えた。
「そんなことよりさ、街に帰ったら何したい?」
「何したい……?あんまり考えたこと、なかったかも」
うーん、とアンナは呻いて、ゆっくりと答えを出した。
「取り敢えずアカネさんの妹に挨拶しましょうかね」
「アオイに?そりゃまたなんで」
「会ってみたいし、知ってみたいです。アカネさんがどんなところで生きてきたか」
——そんなに気になるのだろうか?
そう、アカネは考えた。
アカネには、自分の人生が彼女とそう違うものだとは思えなかったのだ。
自分にはわからない価値があるのだろう。そう納得して、アカネはその光景に思いを巡らせた。
静かな病室に、コヒーとサヤカとアンナを連れて入っていく光景。
人見知りのアオイはどんな表情をするだろうか。色々想像を巡らせてみると、自然と表情が緩んだ。
その後すぐ、アカネの心中に驚きが浮かんだ。
いつのまにか、アオイを思い浮かべても、痛みを感じなくなっていたのだ。
どうしてだろう。周囲の監視すらも忘れて、アカネはそう思った。
それは疲労で痛みに鈍くなっているからかもしれない。
目の前の辛い現実から、目を背けようとしているだけなのかもしれない。
しかし、原因はともかくとして、アカネが妹の待つ場所に帰りたいと感じたのは、事実だった。
あの場所に帰りたい。
一人ぼっちにしてしまったことを謝りたい。
そして、今度こそずっと一緒にいると約束がしたい。
そんな気恥ずかしい思いを悟られないようにするため、アカネは照れ隠しの言葉をアンナに投げる。
「アカネは人見知りだけど……仲良くしてくれたな嬉しいな……って、あれ?」
不意に、左のモニターが消えた。
「戦闘前から調子悪かったしなぁ……でも、良く持った方かな……!?」
正面モニターが光った。
目の前のトラックが爆発したのだ。
「アカネさん!!トラックが……」
アンナからの通信も、途中で途切れる。
左のモニターは死んだままだ。
「これじゃあ、様子も見れやしない……」
そう毒づいて、アカネがアンナの方向へと向き直った。
そこには、背後からコックピットブロックを一突きされた、2番機の姿があった。
突き刺さった剣の向こう側には、殿を務めていたはずの、3番機の姿。
「コヒー……?どうして……?」
「……アカネ。助けにきたよ」
自分の言葉が、行動が、絶対に正しいのだと。そう確信している人の声だった。




