26話
作戦開始から2ヶ月、年明けを迎え、要塞司令官が撤退を決めた時、残されたオペレーターは3人になっていた。
偶然にも、生存した機体は全機、作戦前の予想では一番危険度の高かった前衛機だった。
「撤退だ!!早くトラックへ!!」
「全員乗れる!!落ち着け!!」
国境要塞の輸送用トラックのトレーラーでは、我先にと2台のトラックに乗り込もうとする兵士と格闘している輸送班の兵士が。
要塞の中で最も大きなホールには、生き残った3機の『スレイプニル』が。
それぞれがそれぞれの方法で、来るべき時を待っていた。
要塞の砲台は全て自動発射にセットされていて、目につく敵に矢継ぎ早に砲弾を撃ちまくっているが、突破されるのは時間の問題だろう。
「生き残ったのは、三人だけ……」
アンナの言葉に、コヒーとアカネが返す。
「私達は運が良かったのよ、わきっと生き残った意味がある」
「……そうだね。帰るんだ、私たちは」
『スレイプニル』のコックピットは、初めて乗った時に比べて、随分と様変わりしていた。
傷一つなかったモニターは今や端々が割れ、左側はついたり消えたりを繰り返している。
コックピットブロックの内壁もところどころ凹み、操縦桿のカバーは塗装が剥がれていた。
アカネはたこだらけの両手を操縦桿に押し込み、機体のステータス画面を呼び出した。
機体はかろうじて動く程度。
残っている武器は、唯一ほとんど消耗していない右腕部に内蔵されたナイフ、所々刃こぼれした長剣と最大装填数の7割ほどしか装填されていない楯の内蔵機関砲。
コヒーやアンナも同じようなものだろう。
少々心もとないが、撤退のための時間稼ぎなら、ぎりぎり足りるだろう。
そう判断したアカネの耳が、要塞の壁が崩されたことを機体の音響センサーが感じ取る。
「……行くよ」
「きっと、いや、絶対。これが最後だから」
3人にとっての最後の戦いは、まさに激戦だった。
射程と物量で劣る3人は、本来TDが中に入ることを想定していない国境要塞の内部に陣取り、3人と第三世代TDが得意とする接近戦に持ち込んだ。
「いけぇぇッ!!」
アカネの気迫と共に突き出された長剣が敵の胴体を貫き、壁にその巨体を縫い付けた。
胴体を串刺しにされた状態でも懸命に銃口をアカネに向けようとする敵に、彼女は左腕の機関砲を放った。
第一世代機特有の重装甲が機能しない距離から残りの弾丸の半分を叩き込み、敵機を長剣ごとズタズタの鉄屑へと変えると、アカネは辛うじて原型を残している長剣から手を離し、周囲の地図を呼び出した。
すでに地形情報は役に立たないため、アカネはトラックとコヒー達の位置だけを暗記し、その画面を閉じた。
時間にしては3秒もなかっただろう。
しかし、その時間が致命的な隙を与えた。
突然城壁が崩れ、馬上槍のような武器を持ったTDがアカネに向けて突っ込んできた。
突っ込んできた機体を抱き止めるように受け止めたアカネの『スレイプニル』は、勢いよく壁に叩きつけられた。
モニターの端に映る機体のステータスのほとんどが一瞬で赤に染まるが、アカネはそれを無視し、右脇で槍を挟んだ。
破城槍と言われるその武器は、重く鋭い穂先で装甲や城壁を砕くことに特化した対艦、対要塞用のもので、小回りや取り回しには劣る。
穂先が刺さった状態で抑えれば、破城槍から手を離さなければ、自由にはなれない。
破城槍から手を離した敵機に銃口を向け——発砲。
迫る40mm砲弾を、敵機は腕で受けた。ほとんどの機体のコンピューターに搭載されている自動防御機能である。
やっかいなそれに歯噛みしながら、アカネは敵の腕の下に隠れたコックピットに狙いを定める。
発砲。
機関砲の同軸上に取り付けられた滑腔砲が火を吹いて、APFSDSを吐き出す。
細長い矢のような弾頭が甲高い風切り音を鳴らしながら飛翔し、敵機の腕部ごとコックピットを貫いた。
膝から崩れ落ちた敵機の様子を確認しながら、アカネは踵を返して、輸送トラックの方へと向かった。




