21話
「……!?なんでッ!?」
自らの思考に反して発砲した『スレイプニル』に本能で驚愕しながら、アカネは理性でその意味を咀嚼していた。
驚愕の大きさに反して、飲み込みが早かったのは、そこにある程度の納得があったからだ。
『スレイプニル』が発砲する直前、アカネの脳裏には「ナチは死んだ」という思考が冷静に流れていた。
『スレイプニル』のコックピットシートには、パイロットの手首足首を強く固定する機能がついていたため、運よく杭を回避できるとはどうしても思えなかったからだ。
その冷静な思考が感情を無視して、機体を動かしたのだ。
敵機に向かって走りながら、機関砲に装填された400発の弾丸を吐き出し、7番機であったものを見るも無残な鉄くずに変えていく。
弾丸を撃ち切ったことで、撃鉄が空を切る音が聞こえてきた。すぐにアカネの脳裏に刺さった感情が、戦法を接近戦に切り替える。
4番機は右手で握った長剣を強く握り直し、敵機に向かって刃を突き出した。
高熱を発する鋼鉄の刃が、敵機の脇腹を大きく抉った。
長剣の刀身の半分近くは胴体を貫き、敵機の背後まで抜ける。
しかし、TDを殺すには、まだ足りない。
痛覚や生体器官を持たないTDを殺すためには狙うべきものはただ一つ。心臓――コックピットブロックだ。
ここまで近づいてしまえば、後はどちらかがどちらかを殺すまで殴り合うだけだ。
振り下ろされた杭打ち金槌を、機関砲を撃ち切った楯で受ける。鼓膜の向こうを指でかきむしるような破裂音と共に打ち出された杭が、4番機の左腕を楯ごと吹き飛ばした。
左腕からの断面から血のように飛び散ったオイルや衝撃吸収剤と、モニター中に広がる警告表示。そして、警告音をかき鳴らすブザー。
アカネはそれをすべて無視して、右腕に殺意を込める。
「上がれぇぇッ!」
高熱の刀身が、少しずつ持ち上がり、オリーブグリーンの装甲を少しずつ捲り上げていく。
敵機のフレームに刀身がぶつかり、わずかな抵抗。しかし、その程度で防げるような武器ではない。
構わず振り上げられた高熱の刀身は、金槌を握った左腕を付け根から切り飛ばした。
「……ッ!」
振り上げた刀身に視線を取られたアカネを、強い衝撃が襲った。
モニターに機体のチェック画面を映す。モニターに映る機体のシルエットからは、左足が消えていた。
敵機の放ったグレネードか何かが、左足を膝から吹き飛ばしたのだ。
重心が上半身に偏っている『スレイプニル』の特性が悪さをした。4番機はバランスを崩し、敵機が覆い被さろうとしてくる。
倒れたら、確実に殺られる。
アカネの脳裏に、そんな危機感がよぎった。
実際にその推測は正しく、4番機以外は雪崩れ込んできた敵を抑えるため、もはや前衛後衛すらない混戦になってしまっていた。
それでも熟練したパイロットならば、ある程度周囲に科学ばれるものではあるのだが、それが出来るほどの経験などパイロットになって一月未満の彼女達にあるはずもなく。
全員が全員、初陣の新兵のような半狂乱状態に陥っていて、誰かのフォローに入ることなどできなかったのだ。
アカネは咄嗟に、背中のジェットエンジンを力任せに吹かした。
アフターバーナーの轟音と共に上半身を敵機に押し付け、馬乗りの姿勢を作る。
アカネは咄嗟に長剣から手を離し、右前腕に格納されたナイフを手に取った。
そしてそれを、躊躇なく敵機に向かって振り下ろした。
がつん、がつんと、耳障りな金属音が響く。
それはまるで、空き巣がバレた盗人が家主を殺すときのような、訓練された軍人の清廉さなど微塵も感じさせない、野蛮な光景だった。




