18話
輸送用トラックやほかの仲間たちから離れ、2機で敵の側面を目指していた3番機と4番機は、爆炎と残骸の中に立っているそれを見つけた。
オリーブグリーンの金属ブロックを積み上げて作ったかのような、歪な人型。
名を、『アドゥヴァーニ』という。
TD黎明期に東側が開発した旧型機だ。アカネ達も何度か戦時中にその姿を見たことがある。
その時は逃げ惑うことしかできなかったが、今なら。
「……打ち合わせ通りに行くよッ!」
気迫と共に、アカネは『スレイプニル』の左腕を向けた。数瞬遅れて、発砲。
小手型の楯に取り付けられた機関砲が、40㎜の徹甲弾を次々と吐き出していく。
近くをかすめただけで肉を割いてしまうほどの威力を孕んだ弾丸を、『アドゥヴァーニ』正面から受けた。
第一世代機特有の厚い正面装甲を抜くには、機関砲では力不足なのだ。
その事実を今一度確認したアカネは、脳裏に引き金を思い浮かべた。人差し指と中指、二つの指にそれぞれ対応した引き金があるというイメージ。
アカネはその中指側の引き金を、精一杯引き絞った。
発砲。
機関砲と同軸上に取り付けられた滑空砲から、60㎜の榴弾が放たれた。
『アドゥヴァーニ』はそれを、氷の上を滑るようにして回避した。
脚部に取り付けられた、ローラーの力だ。東側の第一世代機の特徴であり、直線的な加速力に優れている。
もちろん、アカネ達はサヤカからそれを教わっていた。だからこそ。
「コヒー!」
「任せて!」
アカネが気を引いている隙に側面に回り込んでいたコヒーが、楯の機関砲を放った。
地面に土煙を巻き上げながら迫る弾丸をその身で受けながら、『アドゥヴァーニ』は手にしたアサルト・ライフルを3番機に向けた。
それは、東側の機体がよく装備しているもので、連射時の精度は目を覆いたくなるほどのものである。
しかし、機動性重視で装甲が薄い『スレイプニル』では、当たりどころによっては1発で致命傷になりかねない。
——そうであるならば?やることは一つだ。
「負け…るかぁッ!!」
側面から敵の懐に飛び込んだアカネは右手に握られた長剣を勢いよく振るった。
ばね仕掛けの機械のように跳ね上がった刀身が、『アドゥヴァーニ』がコヒーに向けた右腕の肘から下を断ち切る。
「コヒー!!」
「アカネ!!」
互いの意図を読み取った二人は、次の行動に入る。
——こいつが新しい武器を手に取る前に、殺す。
一瞬で共有したその思考が、互いを心臓とする巨人に伝わり、追撃に動く。
長剣を持った右腕を敵に向けたコヒー3番機の腕から、先ほどアカネが放った滑腔砲と同種の光が弾けた。3番機の右前腕部には対装甲ナイフの代わりに、内蔵式のグレネードランチャーが装備されていたのだ。
アカネの強襲により腕部を切断され、咄嗟に意識を彼女の元へ向けていた敵には、それを回避する猶予も、落ち着いて防御する余裕もなかった。
放たれたグレネードは『アドゥヴァーニ』の肩部装甲を呆気なく打ち砕き、彼をよろめかせた。
そして生まれた隙を、アカネは狙った。
長剣を振り上げ、どこを斬れば確実に倒せるのかを見定める。
——狙うは、胴体。
ガラ空きの肩から胴体を切り飛ばしてやるのだ。
そんなアカネの思考に呼応してか、手にしたその長剣は持ちうる機能を最大限に発揮した。
刀身が熱を帯び、微かに赤みが乗った刀身が振り下ろされる。
振り下ろされた刀身は剥き出しの肩関節を容易く溶断し、その向こう——20センチの金属で覆われたコックピットブロックをも容易く破壊した。
エネルギーの供給が途絶えたカメラから光が消え、巨人から命が抜けていく。
その様子を眺めていたアカネは全身が痙攣し、何かがあふれ出しそうになりそうな高揚感と快感に身を委ねていた。
「はぁっ、はぁ……は、ハハッ」
アカネだけではない。この戦いにパイロットとして参加した全員が、その大小はあれど、似た感覚を味わっていた。
「勝った……」
「TDを倒した!!」
「やった、やったぞ」
「俺たちならやれるんだ!!」
「私は、出来るんだ……もう、運だけなんて言わせない……!!」
そして、それはたぶん、これからの不安を打ち消すための、精一杯の自己防衛だった。
「私はもう……守られるだけの弱い人間じゃない……!」




