17話
『スレイプニル、システムは全機問題無し。各機、武装の確認をお願いします』
モニターの端には武器の確認用のウインドウが表示されていた。
アカネの視界に表示されているウインドウに映っているのは、先ほど手に取った長剣と、左腕部の内部にグレネード・ランチャーと機関銃が搭載されている楯(注・TD用の防御装備、武器が内蔵されていたりするものを指す)、そして右腕部に格納された予備の対装甲ナイフだ。
思考操縦の強みを発揮しやすいとされる接近戦に向いた、前衛用の装備である。
『戦闘区域まで、残り5キロ。天井を開放します』
トレーラーの荷台の天井が開き、膝立ちから直立に姿勢を直した8機が姿を現した。
コヒーと他の2機はアカネと同じ、長剣が目立つ前衛装備。残りの後衛4機は、機体の全長に迫るほどの大きさのライフルを長剣の代わりに装備している。
腰に取り付けられたバッテリーからエネルギーを供給する、ガウスライフルである。連射性を犠牲に威力と射程に優れたそれで、前衛のアカネ達を支援するのだ。
一旦仲間達が全員揃っていることを確認したアカネは、前方へと視界を向ける。
そして、息を呑んだ。
決して大きとは言えない要塞の周りが、真っ赤に染まっていたのだ。
すでに戦闘は、始まっている。
アカネは、『今すぐ助けに行きたい』という気持ちと、その気持ちに突き動かされるようにして前に踏み出そうとする『スレイプニル』の足を押さえ込みながら、指示を待った。
『国境要塞まで、残り4キロ。後衛機、発進、どうぞ』
トラックから飛び降りた5番機から8番機が、抱えたガウスライフルの引き金を引いた。
電磁力によって加速され吐き出された弾丸は、アカネ達前衛機の脇を一瞬で通り過ぎ、国境要塞の向こうにいくつかの小さな炎を上げる。
『あと3キロ。当初の予定通り、前衛機は2機編隊で国境要塞の南北からそれぞれ進攻してください』
『了解』の唱和が、コックピット中に響いた。1番機と2番機がトラックから飛び降り、国境要塞の南側へと歩を進める。
『私達は物資搬入口から要塞に入ります。幸運を』
トラックから飛び降りた今のアカネに、その言葉は届いていなかった。
いま彼女が感じているのは、『戦え』という本能の声と、右手で握った武器の頼もしい重さだけだ。
――アオイが立っていた場所に、私が居る。
そんな思いが、アカネの気を立たせていた。
「3番機、行くよ」
「……うん。4番機」
僚機であるコヒーに目配せをして、アカネはゆっくりとシュヴァルベ・ユニットのジェットエンジンに火をつけた。
機体がわずかに浮かび上がり、ふわりを滑るように動き出した。ホバリングしながら地を駆ける2機の『スレイプニル』の向こう、緋色と青のコントラストの手前で、いくつもの爆炎が上がる。
国境要塞の砲兵部隊による制圧射撃だ。その隙間を縫って、後衛機達のガウスライフルの砲弾が飛翔する。
その景色を見て、TDと火砲の関係は専ら戦士と魔法使いに例えられていることをアカネは思い出した。
機動力と総合的な防御力(この場合の防御力とは、回避も含めてのことだ)に優れるTDを壁に見立てて敵を抑え込み、後方の火砲でまとめて始末する。
ある程度の例外こそあれど、それが半世紀もの間培われてきたTDの王道の運用法であった。
しかし、その王道は今、崩れ去りつつある。
すでに国境要塞のTD隊は壊滅しており、本来TDが担うべき壁の役割を、戦時中に作られた塹壕とバリケード。そして、本来は砲台と共に魔法使いになるはずの戦車が担っていた。
機動力に欠ける戦車では遅滞が精一杯で、一網打尽にするのは難しい。
だからこそ、出来るだけ早くアカネ達が要塞前面に展開する必要があった。
左右から抱え込むようにして敵部隊を要塞中央に押し出し、要塞側からの砲撃で始末する。
それが、サヤカ達が提示した要塞到着時に戦闘が起きていた時用のプランだった。




