15話
出発の日、アカネ達は輸送用トラックの荷台の中で、積荷の確認をしながら、出発の時を待っていた。
アカネ達パイロットの乗る輸送用トラックには、一台ごとにそれぞれ『スレイプニル』2機づつと、各機の装備が3セット積まれていた。
他のトラックに比べれば、比較的積み荷が少ないこともあって、点検は比較的早くすみ、同じトラックのコヒーと共に、最後の休憩時間を過ごしていた。
「アカネとゆっくり過ごすの、すごい久しぶりかも」
「確かに。ここ最近話す機会も……無かったね」
アカネはコヒーの言葉に、水を飲みながら答えた。
実際、この1ヶ月間、訓練が忙しくて2人の時間をなかなか取れなかったことをアカネは気にしていた。
それは長い付き合いのあるコヒーより出会ったばかりのサヤカを大事にしているという負い目であり、人間関係を把握しづらいコヒーへの心配でもあった。
しかし、実際に顔を合わせてみると、言葉は石のように喉に詰まり、アカネはうまくコヒーに気持ちを伝えられずにいた。
「そろそろ、出発ですね」
居心地の悪い沈黙の中にいたアカネとコヒーに、サヤカが声をかけてきた。
「準備は、終わった?」
「終わったよ。そっちは?」
「こちらも、ほぼ終わりました。後は他のトラックの貨物整理が終わるのを待つだけです」
「……そっか」
サヤカの言葉と、喉に詰まることもなくすらすらと流れる言葉が、今のアカネには心地良かった。
今のアカネには、うまく言葉を交わせないコヒーとの時間より、サヤカとの時間の方が大事だったのだ。
嫉妬で頬を膨らませているコヒーを尻目に、アカネはサヤカに目を向けた。
さらさらと流れる銀髪の下にある、輝く青い目を見ていると、サヤカの手に隠された一枚のメモ用紙が目に入った。
「それは……?」
疑問を口にした彼女の左手に、サヤカは無言でそのメモ用紙を押し付けてきた。
親指で折りたたまれているそれを開くと、そこにはパスワードらしき文字の羅列と、『6番車、Mコンテナ』『本当に危ない時に使ってください。誰にも言わないように』といったメッセージがしたためられていた。
「……正直、なんて言えばいいか、わからないんです。皆さんを、生贄にするような気がして。何を言っても、綺麗事でしかないような気がして」
メモ用紙を無視して会話を投げたサヤカの姿を見て、これには触れない方がいいと感じたアカネは、メモ用紙を袖に隠し、サヤカから投げられた会話に乗ることにした。
「気にしないでいいよ。私だって、ここに来たくて来たんだし」
「でも……その選択肢を突きつけたのは、私達です。モリニアの廃軍令を私達市民が受け入れていなければ、こんなことにはならなかったんです」
「気にしないでって言ったでしょ。サヤカちゃんだけの力で国が変わるわけでもないんだしさ、仕方ないよ。それにさ、ここに来たおかげで、サヤカちゃんとも会えたよ」
「……そう、ですか?」
「そうだよ、きっと」
半分は強がりだった。
今でもアカネは、できることならアオイのそばにいてあげたいと思っている。
しかしその思いが、アオイのことが好きだからなのか、「アオイを大事にしている自分」が好きだからなのかが、今のアカネにはわからなくなっていた。
——自分はサヤカのことをアオイの代わりとしか考えていないのではないか?
何度も思い浮かんでくる思考を強がりでかき消して、アカネはサヤカの目を見た。
「……どうしました?アカネさん」
「……その、さ。作戦終わって、帰って来たらさ……私の妹と、会ってくれないかな?」
突然の申し出に目を丸くしたサヤカに向かって、アカネは精一杯の笑顔を見せた。
「約束してれば、向こうでも頑張れるから。アオイとも、仲良くしてくれたら、嬉しいな」
「……はい。待ってます、帰ってくるのを」
「荷物の準備、終わりました!」
2人の会話が終わるのを待っていたかのように、誰かが声を上げた。
「……では、ご武運を」
小さく敬礼をしたサヤカが、アカネに背を向けてトラックから出ていく。
その姿は、1ヶ月前のアオイの姿に、本当によく似ていた。




