13話
「お疲れ様です、アカネさん」
「うん、お疲れ様、サヤカちゃん」
訓練開始から、大体半月。
サヤカとアカネは、訓練後に娯楽室でお喋りする仲になっていた。
「ええっと、昨日はどこまで話したっけ」
「はい、おおきな地震があって、それの救援に妹さんと一緒に出撃したとこまで」
最初にそれを切り出したのは、サヤカだった。
ある日の訓練の後、アカネに「妹との思い出話を聞かせて欲しい」と頼み込んできたのだ。
サヤカにとってもそれは、嬉しい申し出であった。
外に出られない生活の中で、何かしら目新しい刺激を求めていたこともあるし、なによりサヤカからの視線が心地よかったのだ。
「アオイが、どうしても一緒に着いてきて欲しいって言うんだよ。そして無理矢理に私をコックピットに押し込んでさ」
「それで、どうなったんですか?TDのコックピットって、結構狭いのに……」
「大変だったよ。無理して乗り込んだから、いろんな場所のスイッチ押しちゃってさ、空中でエンスト起こした時はどうしようかと」
サヤカはアカネの言葉を聞いて、けたけたと笑った。
それを見ていたアカネも、軽い笑みを浮かべる。
笑っているサヤカを見るのが、アカネはいつの間にか好きになっていた。
それはきっと、サヤカの身に纏った雰囲気が、どこかアオイに似ていたからだ。
アカネはサヤカに妹の姿を重ね、妹を置き去りにしたという罪悪感から逃げようとしていた。
まともに歩くことすらできない体で見送りに来たアオイの顔が、ひどく鮮やかに思い浮かんできた。
ここ最近、アオイの顔をここまで明確に思い出したことはなかった。それらは思い出すまでもなく、ずっとアカネの脳裏にへばりついていたからだ。
——あの時、一言でも私の決断を責めてくれたなら。
もっと気持ちは落ち着いていただろうと、アカネは思った。
自分からアオイを置き去りにしたのにも関わらず、アオイの思い出話で笑っている自分が、ひどく惨めに思えた。
しかし、そんな思いとは裏腹に、口は動く。
「アオイがずっと私の背中にくっついてたからさ、東側の人達と顔を合わせた時、私がパイロットだって勘違いされちゃったよ」
「……いいなぁ」
昔の話を笑いながら聞いていたサヤカが、唐突に口を開いた。
「いいなって、何が?」
「こんな大事にしてくれるお姉さんが居て、いいなって」
「サヤカのお姉さんは、どんな人だったの?」
「ずっと、研究ばかりしていた人でしたよ。何言っているかもわからないし、研究以外、何もできない人でした」
天井を眺めながら、姉について語り始めたサヤカの顔を見て、アカネは息を吞んだ。
「何もできない人」
自分も、アオイにそう思われているのではなないか――?
そう思えてならなかったのだ。
「……それでも」
「……?」
「それでも、きっと。私は、お姉ちゃんが好きだったんだと、思います。たぶん、本人なりに、私のこと思っていてくれたんだって」
「……どうして、そう、思うの?」
いつの間にか、ぽろりと溢れた言葉が、そう聞いていた。
それは、救われたいという気持ちであったかもしれない。しかし、本心など関係なく、言葉は音だけをサヤカに届けた。
「たぶん、お姉ちゃんなりの、気遣いだったんじゃないかって、思ったんです。何もできないなり、そばにいてあげようとしてくれたんじゃないかって。研究を家でしたり、家事を手伝おうとしたり」
「……」
「そんな気遣いにも気づかないで、ずっとお姉ちゃんにコンプレックスを抱いていたんですよ。バカみたいですよね」
——アオイも、そう思ってくれていたのだろうか。そうであるのなら、私は……どんな大馬鹿なのだろう。
アカネはそう思った。もうすでに、手遅れであったが。




