11話
「何も説明せずに動かさせるのは、少し意地悪だったかしら……」
「えぇ……」
「まぁ、何事も経験よ。コツを掴んじゃえば誰でも……ほら」
怪訝な表情で睨みつけているサヤカを横目に、博士はモニターの一つを指差した。
映っているのは4番機——アカネの機体だ。
そのアカネの機体は、他の機体とは違う動きをしていた。
油をさしていない人形のようなぎこちない動きをする機体の中、アカネの機体はランニングをするかのように軽快に走っている。
「貴方より早かったわね」
にやにやと笑う博士に軽く睨みを返して、サヤカはモニターに視線を戻した。
アカネの4番機はすでに目標地点に辿り着いており、他の機体も次々とコツを掴んだのかゆっくりとであるが走り出している。
志願した数十人の中から相性が良さそうなメンバーを選んだとはいえ、自分が1ヶ月練習して出した記録をこうもあっさりと抜かされれば、気分はいいものではない。
「誰にだって、適正ってものがあるのよ。貴女には、パイロットとしての才能はない」
「直球……ですね」
「私も、メルだってそうよ。思い出してみなさい、メルに運動ができたかしら?」
ハタエ・メル。かつての自分の姉の家での様子を、サヤカは思い返した。
普段ずっと部屋に篭って研究をしていた彼女は、よく何もない場所で転んだり、少し急いで走っただけで筋肉痛で呻いたりしていた。
「できなかった……というより、やれなかった?」
洗った皿を棚に戻そうとした結果、嵐を起こした姉の姿を思い出したサヤカは、苦虫を噛み潰したような顔で博士にそう伝えた。
「……何を思い出したのかは聞かないでおくわ」
「まぁ……端的に言えば、貴女は何も気にすることはないのよ。あの子は自分にできること、自分がしたいことを最後までやって死んだの。あの子達も一緒よ、自分で戦場に立つことを選んだの」
「だから、なにも、貴女が責任を負うことなんて……」
「本当に?本当に私のこと、恨んでないんですか?」
「もちろんよ。あえて誰が悪いか決めるなら、紛らわしい死に方した、あの子がいけないのよ」
サヤカは、博士から目を背けた。
——慰めの言葉なんて、聞きたくない。
サヤカの姉であり、『スレイプニル』の開発者でもあるハタエ・メル博士が死んだ時、サヤカは隣の部屋にいた。
彼女が倒れた音は聞こえていたのだが、サヤカはその時、「またどこかにつまづいたりしたのだろう」と考えていた。
そして、やけに静かなことを気味悪がって部屋を覗いた時には、すでに彼女は事切れていたのだ。
その時から、サヤカは後悔と罪悪感に苛まれている。
100年に1人の天才と言われた姉を、この国から奪ってしまったこと。そして、心のどこかで姉が死んだことにせいせいしている自分がいたことに。
フラウ博士に、この作戦の手伝いをして欲しいと誘われた時、サヤカは贖罪の時が来たのだと感じた。
自分が、姉の代わりになるのだと。
その為に参加したこの計画の中で、サヤカはこれまでの人生を丸ごと否定されたかのような挫折を味わった。
それは、フラウ博士の言うところの、「適性の違い」だった。
サヤカにはフラウ博士や姉にあった技術者としての適性も、パイロットとしての適性も無かったのだ。
だからこそ、アカネを羨ましいと思った。
妹の為という目的があって、その為に戦うことのできる力を持っている彼女を。
「ほら、受け取りなさい。貴女には貴女なりのやり方があるでしょう?」
フラウ博士が、サヤカに書類の入ったファイルを差し出した。
その書類には、TD戦における小隊戦術が記されていた。




