四話 最弱ステータス
――パァーッとギルドカードが淡く光る。
「おっ、おおっ!!」
イオリはギルドカードが光が収まり、その券面を覗き込みながらイオリは興奮に胸を踊らせていた。が……
「うん。読めん。そりゃそうだ」
ラナも受付嬢のティフも気まずそうな顔を見せる。イオリはそのギルドカードをラナに見せる。
「なんて書いてある?」
「えっと……」
ギルドカードを覗き込んだラナの口角が一瞬、不自然に吊り上がった。彼女はそれを、どこか満足げな様子で受付嬢のティフへと手渡す。
ティフはギルドカードを眺めながら口を閉じた。もはや何も言いたくないかのように。けれど職務上仕方がない。彼女は覚悟を決めて読み上げた。
「全ステータス……最低基準でカンスト。レベルも一でカンスト……です」
イオリは首を傾げた。カンストってすごいのでは? そう思ったからだ。
「それって、どうなの?」
「……今まで見た中で最低です。というか存在しているとは思いませんでした。レベルはその……これ以上伸びませんし、肝心のステータスも最低基準で止まってしまうので……つまりは最弱です」
「かはっ……」
イオリは床に膝をついたあと、手を突くことすら忘れて、そのままガシャーンと地面に横たわった。ラナが慌てて抱き上げる。
「大丈夫ですよっ……えっと、大丈夫です!」
あぁ、何も思い浮かばないレベルの雑魚さなのだなとイオリはまるで魂が抜けたかのようにショックを受けていた。あの女神、本当になにもせずに現世に落としやがったと。
受付嬢のティフも必死のフォローをする。
「えっと……大丈夫ですよ! ギルド以外にも仕事はいっぱい……」
グサッグサグサッとイオリのハートに剣が突き刺さる。ラナが『それは禁句です』と言わんばかりに、ものすごい勢いで首を横に振った。意図に気づいたティフはバッと両手で口を塞いだ。
「ごめんなさいっ、えっと……気を落とさないでください! これ以上ステータスは絶対に上がりませんけど……」
トドメの一撃。口が滑ったティフはしゅんっ……と肩を落として席に座った。どんよりと落ち込むイオリをラナがおんぶし、二階の酒場へと運んだ。イオリをテーブル席のソファに寝かせながら彼女はニコニコしていた。
「残念でしたねーイオリさん」
顔をテーブルの背に向けてイオリはつぶやくように返事をした。
「なんで嬉しそうなんですか……これじゃラナさんと一緒にパーティーなんて」
「気にしないでください。どんなに弱くても一緒にパーティーは組めますよ」
横向きで寝ているイオリの耳にラナの息がかかる。耳元のその囁きは、イオリの体をビクッと跳ね上がらせ、耳を真っ赤に染め上げるには充分過ぎる破壊力だった。
イオリは申し訳なさそうに背を向けたまま言った。
「いや、でも……俺足手まといで……」
「いいんです。今度から一緒に……ゴブリンを討伐しに行きましょう」
「うぅ……ラナさーん」
イオリは感激のあまり涙を流す。一方のラナは不敵な笑みを浮かべながら胸を抑える。少し荒くなった息を整える。立ち上がってイオリに明るいトーンで言った。
「朝ごはんリンゴ半分じゃ足りませんよね! 少し頼んできますねっ」
――その日の昼頃のことだった。イオリはラナに連れられ防具屋へとやってきていた。ゴブリン討伐のために、冒険者としての装備を揃えることになったからだ。
「あの……ラナさん。鉄壁過ぎて一歩も動けないです」
イオリは重厚な鎧に身を包んでいた。前も見づらい。元々魔力のある人間を想定しているせいで、装備があまりにも重い。最低基準でカンストしてしまったイオリの貧弱な体力では到底動けそうもない。にも関わらずラナは嬉しそうに言う。
「良いじゃないですか! 絶対安全ですよ!」
「脱水で死ぬんですけど」
「私が飲ませてあげますね」
その様子を店主が黙って見守っていたが、さすがに口出しをする。
「いやいやあんちゃん。そいつで戦おうなんざ無理だ。その鎧はそもそも王国騎士団とかが着るやつだしな。一般人や駆け出しの冒険者が着るのは無理だぜ。あとクソ高いぞそれ」
ラナがコッソリ店主に金額を聞くとしょんぼりとする。
「そうですか……仕方ないですね」
肩を落として残念そうにイオリのヘルメットを取る。店主にも手伝ってもらい、解放されたイオリは身軽さを両手広げて堪能する。店主はじーっと見ながら言った。
「あのあんちゃんちょっと変だな」
「だと思います」
イオリにその会話は届いていなかった。
「あぁ……身軽とはまるで羽のようだっ……」
結局――革製の小手や鉄製の肘当てや胸当てなど、軽めではあるものの致命傷を避けるような装備を選択することとなった。ラナはまだ引きずっているのか、ため息をつきながら武器屋へと向かう。
「はぁ……私にもっとお金があれば」
「いやいや。歩けないって」
「私が運びます」
「足手まといにもほどがあるんですが? 文字通りのお荷物なんですけど」
そんなみっともないの絶対に嫌だとイオリは首を振った。ぷくーっとほっぺを膨らませてラナは少し拗ねる。そうして足を踏み入れた武器屋の店内には、様々な武器が飾られていた。それらに見惚れていると、ラナが店主に言った。
「何が何でも使用者を守るような武器ってありますか?」
「嬢ちゃんここ武器屋だぜ」
武器屋の店主は戸惑いながらもイオリを見る。イオリはちょっと威圧感を感じて半歩下がる。
「今回の客はそっちか。ひ弱だなぁ」
「わぁー言葉って鋭利。さすが武器屋」
イオリがしくしくと涙を流す。武器屋の店主は笑いながら悪かったよとカウンターから移動してきた。ポンポンっと体を叩きながら確認する。
「片手剣が限度だな。それもかなり細めの。レイピアだと扱えなさそうだから……コイツでいいか」
彼は店内を見回した後、一つの細身の剣を取り出した。
「こいつは北の大地にあるローウェアンという洞窟で取れる特別な鉱石で作られた……つってもわからねぇよな。要は軽くて切れ味バツグン。折れづらいってとこだ。ただし、叩きつけるような戦い方には向かねぇ。なにせ軽いからな。彼女さんの守りてぇっていう要望を満たすならぁ……コイツが一番力になってくれるはずだぜ」
カァーッと赤くなっていくラナ。ブンブンと顔を横に振って否定する。
「ちっ、ちちちがいますっ! 私は彼女じゃないです!」
「えっ、そうなのか。てっきりおれぁ……まぁいい。すこしまけとくよ。悪いこと言っちまったしな。それにそんな売れるもんでもないからな」
ギルドの酒場へと戻り、装備を確認する二人。イオリは少し重みのある装備に興奮していた。
「おぉ……装備だ……かっこいい」
ラナが夕飯の料理をテーブル席へと運んできた。そしてイオリを見つめ、口元にに手を添えながら、耳元で「かっこいいですよ」と囁いた。イオリは心の中で、装備も食事も全部買ってもらった自分に情けなさを感じていた。だからこそ、気合を入れて呟いた。
「がんばろ……」
――バンッ! テーブルが勢いよく叩かれ、ラナとイオリがビクついた。金色の髪、少し耳の尖った女剣士がイオリ達の机を叩いていたのだ。ギロリとイオリを睨む。
「あんたが噂のレベル一? 貧相な体ね」
「――失礼すぎない? こいつ」




