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十七話 砂漠の都市国家

 ――エリーは部屋で一人、愚痴るように怒鳴っていた。


「信じらんない! 鼻の下伸ばしてっ!! 私だって似たようなことあったのに。あんなに感動しちゃってさっ! 私の時は……そんな空気じゃなかったけど……私だって……大きいのに」


 自分の胸に手を当てる。少し手に力を加えて形を変える。


「……触らせれば少しは……私のこと。ううん。イオリはそんなやつじゃない。私はちゃんと分かってるんだから。まぁ別に私は……触られても……」


 むにっと自分の胸を持ち上げたとき。


 バンッ! とドアが勢いよく開く。セラが元気よく入ってきた。


「やっほー!! なんか頑張ったみたいじゃん! 今日はお肉いっぱいだってー! あっ、もしかして一人でお楽しみだった? ごめーん!」


「いやぁぁぁああ!!!!」


 絶叫も絶叫。セラは落ち着いていてごめんごめんと謝る。


「まさかこんな時間にそんなことしてるとは思わないじゃん?」


「だから違うって!」


「あはは。冗談だよー。聞こえてたし。私隣の部屋にいるからさ。鈍感相手だと大変だねーおねーちゃんっ!」


「おねっ……」


 ちょっと心地よいおねーちゃんという響きにトクンッ……と胸が高鳴って機嫌を直す。


「わっ、私はお姉ちゃんじゃないけど……まぁ分かってくれてるならいいっ」


「えへへ。あっ、そうだ本題! いろいろとやってくれたんでしょ? だから今日から普通にごはんが食べられるんだって、お父さんが出かける前に言ってたの。ありがとっ!」


「いいわよ別に。それとお礼ならイオリに言いなさい。宝を見つけた時に提案してきたのはあいつなんだから」


「はーい!」


 その日の夜はご馳走だった。ミキューの丸焼きが並ぶ。セラや彼女の両親も一緒に食卓に並んでいた。


 後日、余った肉は全部干してくれていたらしく、旅立ちの日にはその干し肉を大量に持たせてくれた。エリーとイオリはパンパンになったバッグを背負い、村を離れていく。


 セラがぴょんぴょん跳ねながらお礼を言っている。


「おねーちゃん! おにーちゃん! ありがとー!! お肉美味しかったー!! また来てね!!」


 イオリとエリーはくすりと笑いあった。その声が遠くなるまで。



 ――セラの居た小さな村を離れ、小国を目指していた道中。二人は砂漠地域で野営をしていた。砂という性質上テントをうまく張ることができず、大きな岩を背に干し肉をかじっていた。


「ねぇ……イオリ。あんたがあんなことするから、私たちの食料干し肉しかないんですけど」


「ごめん……でも美味しいじゃん? 赤みと脂身が混ざり合ってて」


「それはそうだけど……水は村の人たちからいっぱいもらって問題はないけどさ……お金しっかりもらって買い込んでいればもっと贅沢な旅になってたと思うんだけど?」


 イオリがクスッと笑った。


「そうは言うけどさ。どうせ俺が言わなくてもエリーだってそうするつもりだったろ?」


 エリーは唇を尖らせた。


「……さぁね」


「ほらやっぱり」


「はぁ?! 同意してないでしょ?」


「エリーのことはよく分かってるさ。素直じゃないところとかさ」


 彼女はその言葉を聞くと、少し睨みつけるようにしながらイオリに言った。


「……じゃあ聞くけど……あんた、私の気持ち分かってんの?」


「気持ち?」


「……分かってないじゃん」


 エリーは胸を持ち上げる。大きな胸がエリーの両手から零れそうだった。


「……私も大きいよ。あの受付嬢のがそんなに良かった?」


 イオリが目をそらす。つばを飲み込んで艷やかなエリーの表情を見ないようにしていた。


「エリー……? からかってる?」


 エリーは潤んだ目で見上げる。それはどこか、間違ってもいいから何か進んで欲しい。そんな期待が込められていた。私だって、イオリになら――そんな純情だったが……口角を上げた。


「当たり前でしょ!? からかってるに決まってるじゃない。おっぱいであんなバカヅラになるなんてバカみたい!」


 ふんっ! っとエリーは背を向けてローブを被った。


 ――バカバカバカバカッ! あのまま押せばよかったのに、私の意気地なし!!


 夜になり、砂漠の気温が低くなっていく。焚き火もなく、二人は寒さを感じる。


「イオリ……起きてる?」


「あぁ。こんなに寒いと全く眠れない」


「――許す」


「え、なにが?」


「私に抱きつくことを許す」


「はい?!」


「いいから来なさい!! 寒いのよ! 四の五の言ってる場合?!」


「まだ我慢出来そうな……」


「私は寒いの。早くあっためて。バカ」


 イオリは恐る恐る背後から手を回した。背中に触れる確かな質量と温もりに、エリーの心臓がうるさいほどに跳ねる。身を硬くしながらも、二つのローブの中で、エリーはイオリに抱きしめられた。


「あんた体温高いのね」


「そっちこそ」


 イオリの吐息が首をかすめると、ゾクゾクッと体が震える。


「エリー? 寒い?」


「いいから黙ってて。寝て」


「あっ、はい」


 エリーはボソッと愚痴をこぼした。


「これ以上喋られたら……こっちが困るのよ」


「えっ? なんか言った?」


「言ってない」


 エリーは太ももをこすり合わせて目を閉じた。


「揉んだら殺す」


「おやすみが物騒過ぎるうちの相方」





 ――翌朝。気温も上がり始め、エリーは伸びをしながら起き上がった。


「んーっよく寝た。案外いいものね。人で暖を取るってのは。二度とごめんだけど」


 しゃがみこんでイオリの頭をぺちぺちと叩く。


「起きなさいイオリ。今日のうちに次の小国につきたいんだから」


「んー……」


「全く……朝が弱いんだから。しょうがないやつ」


 エリーはいくつかの荷物をまとめ、すぐに出られるように準備をした。干し肉を湯でふやかせ、イオリの口に突っ込む。


「あっつっ!!」


「おはよう。何度も起こしたのに起きないからイタズラしちゃった。中途半端なところで野営すると魔物の危険があるんだし、さっさと食べてさっさと行くわよ」


 口の中をもぐもぐするイオリ。まだ半ボケしているようで目が開いていない。



 ――気だるげに歩きながらも、その日の夜。二人は目的地の目の前にいた。砂と土を混ぜ、固めて出来た日干しレンガの建物が立ち並ぶ小国『アルクワ』にたどり着いた二人。イオリは見たことのない光景に圧倒されていた。


「すげー……砂と同じ色で、角が丸い。街全体がこれなのか。なんか……非日常みたいな」


「ほんとねー。しかもこれ、レンガに魔力混ざってる。強度を上げてるのね。風化しちゃうから」


 二人はその砂漠の都市国家を眺めながら街の風景を楽しんでいた。そして宿へ着くと、前回のようにエリーが名簿に名前を残す。


「二人一部屋で、ベッドは一つでいいわ」


 宿屋の主人が鍵を渡す。


「二階の端っこね。ごゆっくり”楽しんで”」


「えぇ。行くわよイオリ」


 階段を登る途中で足が止まるエリー。何か、何かが足を止めた。思考が巡る。


「今、あの主人……楽しんでって言った? なんで……」


 ”二人””一部屋””ベッドは一つ”


 ダダダダダッ!! とエリーは駆け下りて顔を真赤にして叫んだ。


「ちっ、違うから!! 私たちはそんなんじゃないからっ!!」


「ひぇっ」


 怯える宿屋の主人であった。

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